特撮オタク 異世界で変身す!!!!
1. 特撮オタク異世界へ
蓮は、今日も特撮DVDの棚整理を終え、バックヤードで昼食をとっていた。いつものようにスマートフォンの画面には、最新特撮シリーズの変身講座動画。彼は無意識に、右手に握った古びた変身ベルトのレプリカをカチリと鳴らした。
「ああ、俺もいつか、あんな風に……」
その瞬間、店内の照明が激しく点滅し、周囲の空間がガラスのようにひび割れた。次の瞬間、蓮は硬い石の床の上に投げ出されていた。
周囲は、中世ヨーロッパを思わせる石造りの街並み。空には二つの月が浮かび、人々は奇妙な獣の装甲をつけた兵士たちに怯え、逃げ惑っていた。
「な、なんだ? 映画の撮影? いや、匂いが……土と、鉄の匂いがする……」
パニックに陥る蓮の耳に、甲高い女性の悲鳴が飛び込んできた。彼は反射的に、声の方向――路地裏へと目を向けた。
そこには、二人の兵士に囲まれた幼い少女がいた。兵士の一人が、少女を乱暴に掴もうと手を伸ばす。
「やめろ!」
蓮の口から、現実世界では決して出せないような、強く、乾いた声が飛び出した。兵士たちは意外そうに振り返ったが、蓮の非力な姿を見て鼻で笑った。
「なんだ、このひょろい平民は。お前も拘束してやろうか?」
蓮は足がすくみ、体は震える。走って逃げ出すのが、この世界での「正解」だろう。しかし、彼の頭の中で、かつて憧れたヒーローの声が響いた。
「目の前で泣いている子を助けないで、何がヒーローだ」
その時、蓮の右手にあったはずの変身ベルトのレプリカが、まばゆい光を放ち、本物の、メカニカルな輝きを放つデバイスへと変化していた。
2. 起動
驚きと興奮で脈打つ心臓。彼の頭の中には、特撮オタクとしての全知識が急速にフィードバックされていた。
(これは……! 物理法則を超越したエネルギー反応! 変身アイテムのコアが、エネルギーを取り込んで、『概念の具現化』を始めている……!)
特撮ヒーローが変身する際に持つ「自信」「覚悟」「信念」――それが、異世界召喚によって、『変身ヒーロースキル』としてシステム化されたのだと直感した。
蓮は、恐怖を振り払い、ベルトを腰に装着した。冷たい金属の感触が、彼の皮膚に熱を帯びた電流を流す。
「待ってろ……今、俺が……!」
兵士たちが嘲笑を深める中、蓮は腰のベルトの中央にある、宝石のように輝くコアを両手で掴んだ。彼の脳裏に浮かんだのは、愛してやまない数多の特撮ヒーローたちの変身ポーズ。それは、もはや彼自身の魂の一部となっていた動作だ。
彼は深く息を吸い、腹の底から声を絞り出した。
「変・身!」
3. スキル:『特撮変身機構』
コアが強烈な白光を放つと同時に、周囲に電子音声が響き渡った。
《インストール・コンプリート。スキル:『特撮変身機構』を起動します。》
光の粒子が蓮の体を包み込み、特撮映像さながらの、詳細でメカニカルな変身シークエンスが展開された。
まず、頑丈な黒いアンダースーツが瞬時に生成され、彼の体を守る。
次に、頭部には彼が最も愛するヒーローの意匠を模したバイザーとマスクが滑り落ちるように装着される。
最後に、赤い装甲が、彼の体幹から四肢にかけて、轟音と共に組み付けられた。その動きは滑らかで無駄がなく、彼の特撮知識が再現を夢見た、最も理想的な変身プロセスだった。
白光が収まった時、そこに立っていたのは、もうただの冴えない店員ではない。彼は、ファンタジーと特撮の概念が融合した『変身戦士』となっていた。
「な、なんだ!? その鎧は!」兵士たちが動揺する。
蓮は、自身の体に漲る力に驚愕した。
(体が軽い! これが、変身後の力……! ああ、あの特撮の設定どおりだ。『変身後の筋力は人間の約10倍、装甲は対魔力・対物理防御力を持つ』……!)
彼は迷わず、変身後の最初の行動に移った。彼は特撮オタクとして、敵の攻撃パターンを瞬時に予測する。
「敵の攻撃範囲は、剣の間合い。まずは、『距離を詰めて、動きを封じる』が定石!」
彼は一歩踏み出し、兵士の一人が振り下ろした剣を、装甲に覆われた腕で受け止めた。金属同士が甲高い音を立てるが、装甲は傷一つついていない。
「がっ……馬鹿な!」
蓮は、習得したての技――『特撮キック』を発動させた。これは、彼の特撮知識が最も完璧だと評価した、流れるような回し蹴りだ。
「ハアァッ!」
放たれた蹴りは、兵士の胴体を的確に捉え、衝撃波と共に兵士は壁まで吹き飛ばされ、気絶した。
4. 必殺技と決意
残る一人の兵士は、恐怖に顔を歪ませたが、卑劣にも少女を盾に取ろうと手を伸ばした。
「動くな! 動いたらこの娘を!」
その行為は、蓮の逆鱗に触れた。特撮ヒーローの物語で、絶対に許されない行為。
「……汚い真似をするな!」
蓮はベルトの中央コアに、力を集中させた。特撮の知識が、究極の必殺技発動シークエンスを提案する。
《ファイナル・アタック。チャージ開始……》
彼の全身の装甲が赤く発光し始め、力がコアに集束していく。蓮は両腕を振りかざし、そして胸の前でクロスさせた。
「俺の、変身願望を、舐めるな!」
《フル・パワー。キック・エナジー、解放!》
彼は地面を力強く踏み込み、空中へ跳躍した。回転し、光の軌跡を纏いながら、敵へと向かう。
「ファイナル・ストライク!!!!!!」
必殺の空中での回転とひねりを加えたキックが、兵士の胸に炸裂した。兵士は悲鳴を上げる間もなく、装甲を砕かれ、遠くへ吹き飛ばされた。
周囲の住民たちは、言葉を失って立ち尽くしていた。
蓮は着地し、変身を解除する。装甲は光の粒子となって消え、彼は元の冴えない店員の姿に戻った。腰には、再び古びた変身ベルトのレプリカが残っている。
彼は助けた少女に近づき、震える手で優しく声をかけた。
「だ、大丈夫かい? 怪我は?」
少女は驚いた顔のまま、小さく頷いた。そして、彼の変身ベルトを指さした。
「お、お兄さん……今の、神様みたいだった」
蓮は少し照れくさそうに笑った。まだ足は震えているが、心臓は熱い決意に満ちていた。
(異世界に召喚されて、俺の特撮知識が『力』になった。これは、俺に与えられた……使命だ)
彼は、自分が現実世界で抱えていたコンプレックス――勇気の欠如を、この変身という行為によって克服できることを知った。
桐生蓮は、特撮オタクとして培った膨大な知識と、異世界が具現化した変身スキルを武器に、この世界で初めての「特撮ヒーロー」になることを決意した。
「神様なんかじゃないよ。俺は…ヴァリアント…、君たちの味方だ!」
彼はベルトを握りしめ、二つの月が照らす異世界の空を見上げた。
ここから、彼の「変身願望の英雄譚」が、始まる。




