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パイロット作品集  作者: 怪人工房


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4/11

限界戦士 ムラオコシ見参!!!!


「だから言ったでしょう、うちの村には何もないって」

久瀬田課長は深くため息をついた。役場の会議室には、また一つ失敗に終わった「村おこし企画」の資料が散乱している。

「B級グルメコンテストも、ゆるキャラも、農業体験ツアーも全部ダメ。もう打つ手がない」

明日香は窓の外を見た。人口三百人を切った久瀬村。商店街はシャッター通りと化し、小学校は五年前に廃校。特産品と呼べるものもなく、観光名所も皆無。確かに「何もない」村だった。

「でも、何かしなきゃ」明日香は呟いた。「このままじゃ、あと十年で村が消える」

その時、会議室のドアが勢いよく開いた。

「あ、あのっ!」

息を切らして飛び込んできたのは、村唯一の高校生、田代響だった。スマホを握りしめ、目を輝かせている。

「これ見てください! 隣の市で『ご当地ヒーロー』が大人気なんです!」

スマホには、派手な衣装を着た「正義の味方」が子どもたちに囲まれている画像が映っていた。

「ヒーロー、ね」久瀬田課長は鼻で笑った。「響くん、気持ちはわかるが、そんなのうちには無理だよ。衣装作るだけで何十万もかかるし、演じる若者もいない」

「待ってください」

明日香の頭に、何かが閃いた。PR会社時代に学んだこと——成功するプロモーションとは、「あるもの」を最大限に活かすことだ。

「久瀬田さん、うちの村に『何もない』って言いましたよね」

「ああ、事実だから」

「それこそが、強みなんです」

二人は怪訝な顔で明日香を見た。

「考えてみてください。特産品もない、観光地もない、美味しいものもない。でも、それって逆に言えば——『守るべきものが何もない』ってことじゃないですか?」

「……それが?」

「つまり、何をやっても失うものがない。だったら、日本一バカバカしいヒーローを作ればいいんです。『限界集落の超ダメヒーロー』。カッコ悪くて、弱くて、情けない。でも一生懸命。そういうヒーローを」

響の目が輝いた。「それ、めっちゃ面白いです! 僕、衣装作れます! 段ボールとガムテープで!」

「段ボールって……」久瀬田課長は頭を抱えた。

だが明日香は止まらなかった。「名前は『限界戦士ムラオコシ』。必殺技は『過疎化アタック』と『シャッター通りキック』。決め台詞は『人口三百人以下の平和を守る!』」

「ダサすぎる……」

「いいんです、ダサくて。そのダサさがSNSでバズる。『こんなヒーローいるの!?』って」

響は既にスケッチを始めていた。「衣装は緑色のつなぎに、段ボールの鎧。マントは使い古しのブルーシート! ヘルメットは農作業用の帽子を改造して……」

「悪役は?」明日香が聞いた。

「『東京デベロッパー・ザ・メガシティ』とか? 村を買い占めようとする悪の組織!」

「いいですね。でも最終的には和解して、一緒に村を盛り上げる展開で」

二人の会話を聞きながら、久瀬田課長の表情が少しずつ変わっていった。

「……本気か?」

「本気です」明日香は真っ直ぐに課長を見た。「失敗したら笑われる? いいじゃないですか、どうせ今も誰も注目してないんだから。でも、もしかしたら——」

「もしかしたら?」

「日本一ダメなヒーローが、日本一有名な村を作るかもしれない」

沈黙が流れた。

やがて久瀬田課長は、二十年ぶりに――本当の笑顔を浮かべた。

「……やるか。どうせ失うものなんて、何もないんだ」

三ヶ月後。

「限界戦士ムラオコシ、見参!」

村の広場に響き渡る、どこか情けない掛け声。段ボール製の鎧を身につけ、ブルーシートのマントをはためかせた緑色のヒーローが、不安定に立っていた。

演じているのは、村役場の若手職員、二十五歳の野村だ。最初は嫌がっていたが、明日香の熱意に押され、渋々引き受けた。

観客は――いた。

驚くべきことに、約五十人。大半が村外からの来訪者だった。

きっかけは、響がアップした一本の動画だった。

『日本一ダサい、でも本気のヒーロー誕生』

手作り感満載の衣装、ぎこちない演技、背景に映る寂れた商店街。すべてが「わざとらしくない、本物のB級感」として、SNSで話題を呼んだ。

「これ、本当に実在するの?」

「行ってみたい」

「応援したくなる」

コメントは千を超えた。

そして今日が、初めての「ヒーローショー」。

「悪の秘密結社『ショウメツ団』よ、久瀬村の平和は俺が守る!」

野村の演技は相変わらず棒読みだが、それが逆に味になっている。観客席からは温かい笑い声と拍手。

響が演じる悪役「ジンコウゲンショウ怪人」との戦闘シーンも、予定通りグダグダだ。殴るタイミングがずれ、段ボールの鎧が外れかけ、それでも必死に演技を続ける二人。

観客は爆笑しながらも、スマホを構えて撮影している。

「くそっ、俺の……俺の『過疎化アタック』が効かない!」

「無駄だ、ムラオコシ! この村はもう限界なのだ!」

その時、観客席から子どもの声が響いた。

「ムラオコシ、頑張れー!」

野村の動きが止まった。

台本にはない声援。でも、それは確かに聞こえた。

「ムラオコシ! 負けるな!」

別の子どもも叫ぶ。大人たちも拍手で応援し始めた。

野村の胸に、何かが込み上げてきた。

――そうか、これが。

これが、ヒーローなのか。

「みんな……ありがとう!」野村は叫んだ。「みんなの応援が、俺に力をくれる! いくぞ、必殺技——『村おこし・ファイナルアタック』!」

ジャンプ。

着地と同時に、段ボールの鎧が完全に崩壊した。

会場が一瞬静まり返り――そして、大爆笑と拍手喝采が巻き起こった。

ショーの後、明日香は会場の片隅で、来場者たちの会話を聞いていた。

「いやー、面白かった。また来たいね」

「商店街も見て回ろうか。何か買って帰ろう」

「ここ、宿泊施設ないの? あったら泊まりたいんだけど」

久瀬田課長が隣に来た。「……まさか、本当に人が来るとはな」

「まだ始まったばかりですよ」明日香は言った。「でも、一歩は踏み出せました」

「村おこしなんて、二十年やって全部失敗だったのに」

「失敗じゃなかったんですよ、きっと」明日香は課長を見た。「その二十年があったから、『何もない』ことを強みに変えられた。諦めずに続けてきたから、今があるんです」

課長の目が潤んだ。

「桜井さん、ありがとう」

「私じゃないです。村を愛し続けた課長と、夢を捨てなかった響くんと、恥を捨てて演じてくれた野村さんと――みんながいたから」

響が駆け寄ってきた。「明日香さん! 次回の台本、もう書き始めていいですか? 次は『農業ロボ軍団』との戦いで!」

「いいわよ。どんどん書いて」

「あの……」響は少し照れくさそうに言った。「僕、高校卒業しても、もうちょっとここにいようかなって。大学は通信でも行けるし」

明日香は響の頭を軽く叩いた。「バカね。行きたいなら都会に行きなさい。そして、また帰ってくればいい。ここは消えないから」

「……はい!」

夕暮れの空の下、段ボールのヒーローの残骸と、笑顔の人々。

久瀬村に、小さな、でも確かな希望の灯が灯り始めていた。

エピローグ(一年後)

「えー、本日は『全国ご当地ヒーローサミット』にお越しいただき、ありがとうございます。それでは、『最も愛されたヒーロー賞』の発表です――」

司会者が封筒を開ける。

「受賞者は……限界戦士ムラオコシ!」

会場が拍手に包まれた。

ステージに上がる野村は、今やすっかり板についた動きで、段ボールの鎧(三代目)をまとっている。

「人口三百人以下の平和を守る! いや、今は三百二十五人になりました! 限界戦士ムラオコシ、これからも頑張ります!」

控室で、明日香と久瀬田課長が抱き合って喜んでいた。

「やりましたね、課長」

「ああ……夢みたいだ」

響は既に次の企画を練っていた。「ムラオコシの映画、作りません? クラウドファンディングで資金集めて」

「面白そうね。でも、今度は他の村の人たちも巻き込みましょう。『限界集落ヒーロー連合』とか作って」

「それだ! 日本中の小さな村のヒーローが集まって、過疎化と戦う!」

久瀬田課長は窓の外を見た。

故郷の空は、相変わらず何もない。

でも――その何もない空の下で、確かに何かが生まれている。

「村おこし、か」課長は呟いた。「結局、必要だったのは特産品でも観光名所でもなく、ただ――」

「諦めないこと、ですね」明日香が言った。

「そして、バカになること」響が笑った。

三人は顔を見合わせて、笑った。

限界集落の、小さな奇跡の物語は、まだ始まったばかりだった。

〈完〉

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