表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パイロット作品集  作者: 怪人工房


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

酔いどれダンジョンご飯

第一章:酔いどれ配信者の日常と鑑定眼

「さーて、今日も始まりました!『酔いどれダンジョンご飯』!皆、飲んでるかーい?」

九条司はカメラに呼びかけながら、手元のスキットルを傾けた。グラスの横には、昨日ダンジョンから持ち帰った「ハードシェル・クラブ」、通称『カニタンク』の胴体がある。

「見てくれ、この甲羅。冒険者ギルドのデータじゃ『甲羅硬度:A-』で、ほとんどの冒険者が捨ててくるらしいがね」

司がカニタンクに手をかざすと、彼の瞳が一瞬だけ微かに光った。すぐに彼の脳内にデータが流れ込む。

対象:ハードシェル・クラブ(胴体)

肉質:A+ (High Marbling)

水分含有量:95%

甲羅硬度:A-

潜在フレーバーランク:SS(濃厚なウマミ、海水のミネラル)

最適処理法:弱火で蒸し焼き(甲羅硬度をBまで低下させる)、甲羅内のカニ味噌を高温で濾過

「ふむ。甲羅硬度A-?関係ねぇな。潜在フレーバーランクはSSだ。こいつの中身は極上だよ」

司は笑い、視聴者に語りかけた。

「皆、硬いからって諦めるのは素人だ。このカニタンク、甲羅の内側には、極上の脂とウマミが詰まっている。今日はコイツで、視聴者リクエストNo.1の『痛風覚悟!特濃カニ味噌甲羅酒』をやっていくぞー!」

彼の動画が人気なのは、この「鑑定スキルに基づいた確信」にある。彼は捨てられていた素材や、毒があると言われていた魔物から、最高のウマミを引き出す天才だった。

第二章:最高のツマミを追う者

翌日、司は地方のローカルダンジョン「旧・採石場」の岩場に立っていた。今日のターゲットはB級魔物『ロック・ビーフ』。

「ロック・ビーフのハラミ肉。これが今日の目的だ。ビールに合わせるなら、他にはない極上の食感がある」

彼はダンジョンに入るとすぐに、【至高の鑑定眼】を発動させた。彼の視界は、通常の風景の上に、数値や色の情報が重なって表示される。

「…いた。群れから少し離れた単独行動のオス。個体ランクは『特級』、最高のコンディションだな」

対象:ロック・ビーフ(オス・特級)

部位:腹側横隔膜ハラミ

脂の乗り:98(理想値)

熟成度:即時調理推奨(鮮度ゲージ:99%)

弱点:後足の腱(切断難度:C)、腹部皮膜(貫通難度:D)

司は、最高の脂の乗りを示す個体をピンポイントで狙う。無駄な戦闘を避けるのは、鮮度ゲージを少しでも落としたくないからだ。

ロック・ビーフが突進してくる。司は一瞬の隙を突いて突進の勢いを利用し、鑑定眼が示した「後足の腱」の最弱点部に特級解体包丁を正確に入れた。包丁は岩肌のような皮膚を容易に貫き、魔物はバランスを崩して倒れ込む。

司は即座に腹部に包丁を突き立て、狙いのハラミ肉を切り出した。手際の良い処理に、鮮度ゲージは98%を維持したまま。

「よし、最高の肉だ。さっさと帰ってビールを…」

その時、洞窟の奥から、C級魔物「スパイダー・ウルフ」の群れが姿を現した。

「チッ、毒持ちか。勘弁してくれ」

群れを率いるボスの巣の奥に、司の鑑定眼が捉えたのは、金色に輝く巨大な卵だった。

対象:スパイダー・ウルフの卵(未孵化)

通称:ゴールデン・キャビア・エッグ

毒素レベル:0.003%(加熱で除去可能)

潜在フレーバーランク:SSS(ウニ・カニ・フォアグラの集合体)

調理適性:生食(醤油漬け)、燻製

「潜在フレーバーランク:SSS…! これを逃すのは、食材に対する最大の罪だ」

司の瞳に、酒と美食への飢えが宿る。彼はハラミ肉のクーラーボックスを背負い直すと、毒の群れに向かって突っ込んだ。

第三章:食への執念

スパイダー・ウルフのボスが毒液を吐き出す。司はまな板シールドで受け止めつつ、鑑定眼が示した毒腺の位置(通常の魔物とは違う、腹部の特定箇所)に、正確無比な包丁の一撃を入れた。

「毒腺の位置がわかれば、ただの雑魚だ!」

司は群れを一掃し、黄金に輝く卵を抱きかかえた。

「SSS…。これほどのポテンシャルを持つ食材は、一年ぶりだ。このキャビアを肴に、最高の冷酒を飲めば…」

興奮冷めやらぬまま、彼はスキットルを空にした。

「酒が足りない!早くこのキャビアを、最高の状態で仕込むぞ!」

最終章:酔いどれダンジョンご飯、再び

その夜の配信。視聴者は、司が持ち帰った潜在フレーバーランクSSSの「ゴールデン・キャビア・エッグ」に熱狂していた。

「さあ、皆!これが昨日採れたてのキャビアだ。最高の品質を落とさないために、毒素を熱で飛ばすような愚行はしない。代わりに、僕がダンジョンで採った無毒のハーブと、天然水で作り上げた『浄化酒』に軽く漬け込み、毒素を完全に中和する!」

司は鑑定眼で導き出した最適解の手順を踏み、黄金のキャビアを醤油漬けにした。

そして試食の瞬間。

まずは、最高の脂の乗りを誇るロック・ビーフのハラミを炭火で炙り、ビールを呷る。

「ああ、美味い。脂の融点が低いから、口の中でスッと消える。完璧だ」

次に、黄金のキャビア。一口、口に運んだ瞬間、司は動かなくなった。彼の瞳は静かに閉じられ、視聴者は固唾を飲んで見守る。

数秒後、司は静かに目を開け、冷酒を注いだ升をカメラに向けた。

「視聴者コメント:『どうした!?』『酔いどれシェフ固まったぞ!』」

司は、まるで悟りを開いたかのような表情で語る。

「…このキャビア。鑑定眼の数値はSSSだったが…実際に口にすると、そのポテンシャルは数値を超えている。ウニの甘み、カニの風味、そして、冷酒が持つ米の香りが、口の中で完璧な円を描く…」

彼は升の酒を一気に飲み干した。

「皆さん。この酒とこのツマミのためなら、僕は明日の朝、地獄にだって潜っていける。最高だ。…はい、おかわり」

彼の配信は、視聴者を深夜の飲酒と美食の渦に巻き込みながら、最高の高視聴率と共に幕を閉じた。

(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ