結婚
この世界には結婚指輪という概念が無い。神々に誓うのだから証の品等は不要。寧ろ、変に証の品を用意する方が不敬であり、不信感を生む。
ただ、その御陰で結婚指輪を着けなくて済んだ。いい文化だ。俺の場合、指環を外せないしな。
学園生活四十日目。
妻達の魔改造は順調だ。
エルは僧侶、“治癒士”を経て神官のレベル8。多少の時間は掛かるが自力で奇跡の使用が出来る。今はアーツの習得を頑張っている。
ニーナは騎士、“高騎士”を経て“近衛騎士”のレベル13。騎士系はレアなクラスで必要レベルも高くなるが、その分、強力。自力も有り、アーツの習得も順調。エーテルによる身体強化で活躍中。
セシリアは魔法使い、魔法剣士を経て魔術士に。レベルは27と一番高い。範囲攻撃の魔法が使える様になると稼げるからな。自力での魔法使用の方も順調。マナによる身体強化で動けるしな。
クラリスは剣士、“剣豪”を経て“大剣豪”に。レベルは16。順調であり、今、使用しているのは剣豪のボーナス装備品の[武者の太刀]。その名の通りの日本刀。ボーナスでしか入手不可能な逸品で次のクラスチェンジに必須となる。
ティアは弓使い、“弓士”を経て、“狩人”に。性質的に経験値を稼ぎ難く、レベル5。エーテルを使った身体強化が有ってだ。剣を使うと狩人に成る事が出来ず“弓騎士”で終わる。それを避ける為に必要な事だったが狩人に成れば使用可能。ここから巻き返して行けばいい。
フローラは敵を倒し難いクラスがハンデだったがエーテルによる身体強化を先に習得する事で盾攻撃により倒して経験値を稼いで盾使い、“重戦士”を経て“重騎士”レベル21。順調だ。
ボーナス装備品も毎回入手。ただ、俺と被る物は一つも無く、初めて見る装備品ばかりなのは個人差なのかもしれない。一部もゲームとは違うしな。
後は……毎日、朝晩の夫婦の営みにより、俺達はマナとエーテルの量が爆増している。魔法・奇跡の使用は無理でもマナによる身体強化等は出来る為、本当に強くなった。夫婦喧嘩はしないと誓う。
そんな俺達だが、今日は学園には居ない。だが、ダンジョンの中には居る。どういう事なのか。
実は、野外演習の一件で調査が行われたのだが、ウヴォラス大森林の奥地でダンジョンが発見され、それを俺達が調査する事に。可能ならば攻略しても構わないと許可も出ている。国から。
そんな訳で、現在アタック中。
ゲームでも有ったイベントだが……温ゲーなのは自業自得なんだろうな。エル達も楽勝だから。
「レイ、私の同い年の妹が学園に居るのだが、今度会って遣ってくれないか?」
「レイさん、私の友人に将来有望な方が居ますので一度御会い頂けませんか?」
「なら、ボクの異母姉とも会って貰えないかな?」
──と三人からゲームのヒロイン達を紹介され、返答に困る。いや、正確にはエル達も姉妹や友人、従姉妹等を紹介してくる。
判ってはいる。俺が妻を娶れば娶るだけ、優秀な人材に育てられるし、優秀な子孫が増える。それは国の為、民の為、世の為となる。
現に入学してから一ヶ月ちょっとの生徒に調査を命じる程だ。王国が深刻な人材不足みたいだから、エル達の考えは王公貴族としては可笑しくはない。寧ろ、当然であり、尊重されるべきだ。その辺りの国内情勢に俺が疎いのは鍛練漬けだった弊害だな。その御陰で今が有る訳だから何と言えないが。
だから、判ってはいる。だが、使命感と気持ちは別だ。そんなに沢山の妻を持つ事は困難だ。
「レイ様、御心配には及びません。家の奥の事なら私が正妻として統括致しますので」
……エルさんや、そういう事じゃないんです。
緊張感が有るのか無いのか判らないまま進んで、俺達はボスの部屋の扉の前に立っていた。
ダンジョンは十階層が一区切り。ダンジョン毎に階層数は変わるが階層数が少ないからモンスターが弱いという事ではない。ダンジョンの規模もだ。
ウヴォラス大森林のダンジョンでは一階層目から学園のダンジョンの三十一階層からに相当する広さであり、モンスターもレベル30台から。此処から溢れ出した事は間違い無い。何故、俺達を包囲する格好になっていたのかは不明だが。
最深部が二十階層。俺達だから楽勝だったけど、国軍の精鋭部隊でも一日での攻略は不可能らしい。エルとニーナが詳しく、断言してくれた。
正直、あまり聞きたくはない話だったが。
まあ、王国の諸事情は兎も角、ダンジョンのボスとの戦闘は俺としても初めての経験。楽しみだ。
期待が大きいと落胆や失望も大きいくなる。
何故、ボスが一撃で倒れるっ?! 気張れよっ?!
「レイ、今ので全力か?」
「あー……アーツとしてはな」
「……今のアーツ、【疾風斬】ですよね?」
「え? 見習い剣士の?」
「あらあら……」
「常識外れにも程が有りますわ……」
「流石はレイ様です!」
うん、誰かエルにツッコんでもいいと思うんだ。でもな、クラリス。此処で下ネタは要らないから。その「……それでしたら旦那様が……」とか今にも言いそうな表情は止めて。
ボスを倒すとダンジョンは活動を停止し、新たにモンスターが生まれる事は無くなり、数日もすればダンジョンの出入口は消失する。
ボスを倒した証拠はドロップ品の“魔晶石”だ。魔石の上位品になる。
それからボスは特殊な素材を残すので武器や防具として加工し、戦力強化が出来る。
そして、一番の目玉なのが特別な魔道具になる。エルの持っている[収納鞄]もボスを討伐して得た魔道具になる。装備品が得られる事も有るらしい。俺達が得たのは[繋士の絆紋]。正確には光の珠が浮かんでいたので俺が触れたら、右手に刻まれた。事前に【鑑識】で判ればなぁ……それも仕様か。
「レイさん、その紋章──刻印の効果はどういったものなのですか?」
「俺を含めた指定対象者をパーティーにする様だ」
「もうパーティーは組んでるよね?」
「それは人の勝手な括りでだ。このパーティーとは結婚の誓いと同様に神々に認定されるものだ」
「どういった違いが有るんだ?」
「パーティー化すると、魔法・奇跡、補助アーツの対象指定にパーティーが加わる。パーティーを指定した場合、通常の範囲内に居なくても、パーティーメンバーだけに効果が適用される」
「……それは旦那様だけなのですか?」
「いや、パーティー化しているメンバー全員がだ。だから、俺達でパーティー化すると……」
「容易く国も獲れますね」
「そんな面倒事は御免だけどな」
フローラ、冗談だろうけど笑えないから止めて。エルが真面目に考えてるから。遣らないからなー。
「私達と、という事なら少なくとも七人までは可能という事ですわよね?」
「最大人数は俺を含めて十三人までみたいだ」
「一度指定をすると変更は不可能なのですか?」
「いや、パーティーメンバーの変更は自由だ。特に縛りはないから俺の妻でなくても可能だな。ただ、現実としては妻だけになるとは思うけどな」
セリシアとフローラの質問に答えたら、エル達が直ぐに集まり、顔を付き合わせて「即戦力で考えるのであれば……」「此処はやはり、将来性を考えるべきでは……」「旦那様の好み次第では……」等と話し合いが行われている。俺は関わらない。
そして、妻が増える事は半ば諦めた。もう流れが増員に完全に傾いているから。エル達が妊娠したら次を用意されるだけだろう……くっ、寒気が。
三日後。王都の俺達の──俺の屋敷。リビングでソファーに座り、天井を仰ぐ。疲れた。
ウヴォラス大森林のダンジョンの討伐によって、俺は伯爵に陞爵した。エル達と結婚した時点で俺は子爵位を賜ってはいたんだけど。それは貴族として血統の面での期待から。今回は実積で。
陞爵式の後のパーティーで新しい妻候補を次々と紹介しないで欲しい。俺は新婚なんですが?
「仕方が有りませんわ。それだけレイさんの活躍は素晴らしいものですから」
そう言いながら俺の太股の上に跨がるセリシア。労う様な優しいキスが染みる。気が付いたら両手がセリシアの身体を撫でていた。魔性の女だな。
当然、それだけでは済みませんし、エル達も後で加わりますから…………ねぇ?
学園生活五十日目。エル達がクラスチェンジし、順調に実力を付けている。
ただ、予期せぬ事も起きた。
ああ、別に俺に嫉妬した男子生徒が突っ掛かって来たという様な事ではない。野外演習の件で俺との圧倒的な実力差は理解している。だから、その手の馬鹿は一人も存在しない。歳上の中にもだ。
学園長から頼まれ、他の生徒の様子を見る事に。それ自体は何も問題は無かった。
野外演習の件が刺激になったのか一度目のクラスチェンジを全員が迎えており、成長が見ても判る。エル達と様子を見ながら時折アドバイスをしたりと順調に進み──十階層に入った時だった。
悲鳴が聞こえたので急行。モンスターに囲まれた女子五人のパーティーを救出した。
クラスチェンジはしているが全員レベル20台。挑むのなら30台に入ってないと厳しいのが実状。装備が整っているのであれば、遣れない事は無いが他の生徒よりは、という程度だ。ピンチになるのも当然だな。そう指摘した。
だって、ゲームのヒロイン達なんだもん。少しは説教もしたくなる。
ニーナの異母妹のノイン。真面目で努力家で実は滅茶苦茶ニーナに憧れている本質は御姉ちゃん娘。甘えん坊だったが故の臆病さが一歩を踏み出せずに自身の成長を妨げている。焦げ茶色の髪をニーナを真似てポニーテールにしている。
ティアの異母姉のチェルシー。藍色の綺麗な髪を大きな三つ編みにしている見た目は文学系女子だが実は滅茶苦茶毒舌。男に対して強い嫌悪感を懐き、男子生徒と衝突する事も珍しくはないが、ファンも多い。男って馬鹿だよな。
セリシアの友人──ライバルとなるリヴェネッラ・フォン・ムーラヴィエ。愛称はリヴィ。深紫色のツインテールが特徴のツンデレ娘。押しに弱くて、超が付く御人好し。やや天然なのが可愛い努力家。侯爵家の六女で八姉妹というのは意外と珍しい。
アルサイスの幼馴染みで初恋の相手、ミルフィ・フォン・ラパラス。伯爵家の次女。薄桃色のカールしている髪が可愛らしい。普段は一歩引いているが芯は強く勇敢。昔はアルサイスが守られていた。
エドマースの幼馴染みで初恋の相手、ユリアノ・フォン・ロロンバーク。子爵家の長女。人見知りで常に誰かの後ろに居るが、見た目で人を判断しない誠実さと真っ直ぐさを持つ。人と目が合わない様に灰色の髪で目元まで隠している。
──といった面子だ。彼女達が一緒に居る事にも違和感しかないが……有り得るのが現実か。
取り敢えず、彼女達の治療はエルに任せる。
洗礼の後、生徒達は自身のクラスを申告する事になっている為、調べられたら判る。だから、迂闊に治癒は手伝えない。瀕死なら躊躇はしないがな。
周囲を警戒しながらニーナと話す。彼女達の事を少しでも知って置きたいからな。
「見た感じ、妹さんがリーダーっぽいけど?」
「ああ、一応はな。だが、引き際を見誤った様だ」
「他の娘の意見に押し負けたとかは?」
「その可能性も有るだろうな。最後の最後で自信を持って決断し切れないのが当面の課題だ」
「ニーナは良い御姉ちゃんだな」
揶揄ってはいないが軽く蹴られた。耳が赤いから照れているだけなんだが……可愛いな、ニーナ。
そう思っただけで睨まれた。
「心が通じ合ってるな」
「煩い!」
イチャイチャしながら近付くモンスターを倒す。こんな状況でも戯れ合える。
こんな異常さを見せて置けば、彼女達が俺の妻に成りたいとは思わない筈。エル達に対する劣等感を利用する形にはなるが……妻は間に合ってます。
せめて、学園を卒業する頃に出直して来てね。
まあ、その時まで俺の妻に成りたいと思えている場合はだけど。普通は持続しないでしょう。俺なら別の相手を探すと思う。面倒臭い相手だから。




