鍛練
ダンジョンに固有名称は無い。だから、所在地の地名から何処其処のダンジョンと呼ばれている。
学園に有るから、“学園のダンジョン”と。
そんなダンジョンがモンスター達を生むのだが、ダンジョン内でモンスターを倒すと、モンスターは塵となって消えてしまう。ダンジョンに還る為だ。ダンジョン外で倒したモンスターは残る。素材にも薬材にも食材にもなる。ある意味では、この世界の人々の生活を支えている貴重な資源だと言える。
だから、ダンジョンは自然災害だが、完全に除去しようという考えはない。
この学園の様に有効活用するのが理想的だから。まあ、そう簡単な事ではないのだけれど。
洗礼の儀式から四日。初日は途中からだったが、以降は毎日、朝一から潜っている。
ゲームなら[帰還する]を選べば一瞬だっだし、マップの踏破率が100%になっていれば、最後にクリアした階層の、次の階層の頭から再開出来た。だが、現実では戻るのも再び行くのも自力になる。行き帰りの時間や余力まで計算して動かないければダンジョン内で寝る事に。それは如何にモンスターを間引いて、ダンジョンの成長を阻害していても、自殺行為でしかない。
実際、毎年それで命を落とす生徒が居るのだから生徒には「危機意識を持て」と言いたくなる。
まあ、クラスを授かり、戦う力を得た高揚感から地に足が着かないのも仕方が無いのだろう。
自分が、或いは誰かが痛い目に遇えば判るか。
「──っと、これでクラスチェンジが出来るのか」
モンスターを倒し終えた所で、紋章が光った。
【鑑識】で確認すると、レベル40。ゲームでのクラスチェンジ条件と同じだった。
それと、脳裏に[クラスチェンジしますか?]と選択肢の画面が思い浮かんでいる。こんな話は全く聞いた事が無いから自分だけなんだろう。
クラスチェンジすれば“魔法使い”に成れる。
──が、今はクラスチェンジはしない。
実はレベルを上げてからクラスチェンジした方が新しいクラスのレベル1のステータスが高くなる。これはゲームを知っているからこその知識。
それは最初は微々たる差だけど、上位クラスに、高レベル帯に、上に行けば行く程に差が付く。
同じ一度のクラスチェンジでも、その差が生死を分ける事を俺は知っているから、積み重ねる。
クラスチェンジを保留すると紋章の光が消えた。ずっと光りっ放しじゃなくて良かった。
──と思っていたが、次にレベルが上がった時に再び紋章が光り、脳裏には選択肢が。毎回遣るのは面倒臭いな。ただ、ミスと嫌なので丁寧に遣る。
懐中時計を取り出すと正午が近かったので休憩。持参してきた昼食を食べる。食堂で頼んで置けば、三食分まで用意してくれる。
携帯食は自費での購入になるが、荷物になるから今は用意はしていない。夜には戻るしな。
現在、俺が居るのは八階層。
ダンジョン内は亜空間になっていて、下に下がるタイプと、上に上るタイプに分かれる。
此処は下がるタイプ。ゲームと同じだ。
ゲームと違うのは、モンスターが稀に“魔石”を残してくれる事。学園で査定して引き取ってくれる御陰で良い小遣い稼ぎになっている。まあ、今は使う暇も無いから貯まる一方なんだけど。
ゲームと言えば、クリア特典で所持品から一つ、引き継げる様になっていたんだけど、二日目の朝、起きてみたら固有魔法が発現していた。
夢の中で、クリア特典を選んだ様な気がしたから発現したのだと思う。
固有魔法は【インベントリ】。亜空間収納が可能となる魔法だ。ある魔導書を使用すると得られる。ゲームでは限られたルートでしか入手出来無い為、選択可能だった時点で一択。迷いは無かった。
まあ、起きた時点で発現していたのには吃驚するしかなかったけどな。
その御陰で荷物を持たなくて助かる。
ゲームとは違いアイテムだけに制限されない為、何でも収納が可能。勿論、他人の物は不可能だし、試そうとも思わない。貴族として、人として普通に駄目な事なんだからな。当然だ。
ただ、亜空間内は時間が停止する為、時計だけは収納出来無い。狂うから。
学園のダンジョンでは一階層でレベル12までが稼げる上限となる。より効率的に上げるのであればレベル8程で次に行く方がいい。安全第一だったら地道に上げるべきだろう。
八階層には俺以外の生徒は居ない──というか、まだ俺以外は一番早い者でも二階層。本来ならば此処に来られるレベルではない。ゲームでもギリギリだろう。帰りの事を考えなくてだ。
予備知識は有っても、ダンジョンを単独で進める実力が無ければ来れてはいない。積み重ねた二年の戦闘経験が今に活きている事は間違い無いだろう。家族にバレない様にするのは大変だったからな。
だけど、その御陰でレベル上げが捗る。
現実だから出来る戦い方と、【インベントリ】が有る御陰でもあるが。努力は嘘を吐かないな。
まあ、皮肉にも最下位のクラスだからだけどな。魔法使いに成ると一気に重くなるから。
出来れば今日中に60までは上げておきたいし、この調子で九階層までは行って置きたい。
ゲームでの情報と今の所は大差が無い。想定通りだが油断はしない様に気を引き締める。
それはそれとして。魔法を使う事が出来るので、実際に使ってみたがショボい。剣で戦う方が早い。使用には詠唱が要るしな。
だが、悪い事ばかりではない。魔法を使う為には自身の“マナ”を消費するのだが、魔法を使うからマナという存在を感じ取り、知覚出来る様に。
以前は不可能だった自力での魔法の行使。それが可能な事だと今なら判る。出来る!
まあ、今は漸くマナを自由に巡らせる事が出来る様になったばかりだが。そう、それだけ。身体強化とかは出来無い。作用の仕方が判らないから。
それでも、初級である魔法は無詠唱で発現させる事が出来る様にはなった。まだ威力は低いが。
マナを込めればいいって事でもないと判ったし、威力を高める為には量よりも質なんだろうな。
ただまあ、これでクラスチェンジした後も魔法は使えると判ったし、アーツも可能な筈だ。
まだアーツの使用に主に使う“エーテル”の方は扱えてはいないが、感じ取れてはいる。じっくりと理解を深め、必ず掴んでみせる。
ダンジョンの構造は滅多に変化する事は無い為、覚えてしまえば迷ったりはしない。行きも帰りも、最短ルートを進めば無駄も省ける。
学園生活五日目。十一階層に到達した。
ダンジョンでは十階層が一区切りとされている。その為、十階層と十一階層では他の一階層とは違いモンスターの強さが一気に跳ね上がる。
普通、最下位のクラスでは六階層まで。その先はクラスチェンジしてからの挑戦がスタンダード。
見習いのクラスで来る領域ではない。
その結果、レベルが一気に上がって着いて早々に99──上限になる。
そして毎回有った確認の選択肢は無しで自動的に魔法使いにクラスチェンジした。
「まさか、コレまで有るとは思わなかったな……」
ゲームではレベル99でクラスチェンジをすると完ストしたボーナスとして特殊装備品が得られた。正直な話、それは流石に現実ではないだろうなと。そう思っていただけに、これは嬉しい誤算だ。
目の前に浮遊する淡い光に包まれた指環に指先が触れれば光が弾け、自動的に右手の中指に填まる。抜こうとしたが抜けなかった。
[魔星の指環]
専用装備品。所有者レイグリフ。
装備中、魔力増幅・マナ吸収回復効果有り。
固有スキル【転移】の使用が可能。
専用装備品だから外せないのか。仕方が無いな。そう自分に言い聞かせる。気にしたら呪いの装備品みたいで嫌になるからな。
ボーナス装備品には複数の種類が有り、達成した条件によって性能や効果が異なる。
この指環は、見習い魔法使いのボーナス装備品の中では最高であり、ゲーム中で入手出来る装飾品の中では実は最高の魔力補正値を誇る。
ゲームが進むと主人公以外の育成も可能となり、モブの見習い魔法使いが現れれば最優先で勧誘して育成して入手していたのが懐かしい。主人公よりも狙ったヒロイン様にしていたが。
魔力増幅とマナ──ゲームでのMP回復の効果はゲームと同じだが、固有スキルが有るという事には驚くしかない。しかもチートだし。でも有難う!
【転移】はダンジョンの中であれば何処からでも最初の階層に転移可能。転移先は自分が明確に意識出来ていれば最初の階層内なら何処でも可能。
下に行くタイプの場合だと出入口から直ぐに道が下っていて最初の空間が地下一階で、第一階層に。此処の場合は、そうなる。
またマーキングしたポイントにも転移可能だが、マーキング出来るのは一ヶ所のみ。ダンジョン以外でも可能だが、ダンジョン攻略中だと優先度は当然ダンジョンの中になる。往復の時間をレベル上げに費やせる様になるしな。
今日から早速活躍確定だ。
見習い魔法使いでは初級魔法である【ファイア】【アクア】【ウインド】【ロック】しか使えないが魔法使いの魔法は魔法らしくなる。
下級魔法は共通で四属性の球弾を発射する形に。更に、レベルが上がると補助魔法が追加で増える。ゲームでは補助系が地味に使えたな。
既に初級魔法なら自力で使える様になったから、次は下級魔法の習得。ふふっ、夢が膨らむな。
ただ、使える様になったから判る事だが、自分でオリジナルの魔法を構築する事は無理な様だ。
【ファイア】から下級魔法【ファイアボール】に発展させようとしても出来無かったからな。単純に球形にする事も、発射する事もだ。
多分、世界規模の縛りが有るのだろう。
もしかしたら、クラスを極めた先には自由に魔法構築が出来る可能性が有るかもしれないが。
その為にも生き残らないとな。頑張るぞー。
学園生活七日目。
現在位置は十八階層で、レベルは93。今日中に次のクラスチェンジが可能だろう。【転移】を得た御陰で一気に上がってるからな。
クラス持ちの証である紋章はクラスによって違うという事は無い。全員共通。また、一目で判る為、刺青等では誤魔化せない。紋章同士を共鳴させる事によって真偽を確かめられるからだ。
まあ、昔は誤魔化そうと考えた者も居た、という事実を物語っている話だと言える。
レベルアップやクラスチェンジによる紋章自体の変化は無い為、俺の異常さは気付かれない。
単独行動をする者も最初は珍しくはないからな。野外演習後は部隊を組む様になるが。
因みに、ゲームでは最初の一ヶ月は主人公は親友であるエドマースと二人で行動。この時点ではまだエドマースはNPCなので操作は出来無い。操作が可能になるのは野外演習後から。主人公をリーダーとして部隊が編成される為。ヒロイン達も一緒だ。
それはそれとして。
自分でも少し異常な強さだとは思う。ゲームでも七日で此処までは無理。漸く十階層に届くかだ。
まあ、元ネタのゲーム自体、ダンジョンの階層毎にボスが存在しない仕様だった為、進め易かった。通用しないと判ればレベル上げになるからな。
それでもだ。このペースは可笑しい。可笑しいがコレと言って心当たりは無い。
……洗礼前までの状態が基礎能力値になる?
クラスはそれをベースにした強化補正になるなら可笑しくはないのか……数値化されないから判断は難しいけど、そんな感じかな。
しかし、それなら疾うに、そういう教育・指導の方針が浸透していそうなものだが……判らない。
まあ、転生に関する記憶が無いから転生に際して何かしらの特典を授かっている可能性も有り得る。そうなると洗礼と共に基礎能力値に加算が有る様な特典だったのかもしれないな。明らかに洗礼前より強くは成っているから。確証は無いけど。
尤も、判らなくても困りはしない。有難い事だと神々に感謝しておこう。
少なくとも、今の実力であれば野外演習での生存確率は100%に近い筈だから。




