表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/46

トラップ

「澪ーっ、今日も自主練? えらい~!」


 昼休みの教室。澪が食べかけのパンを口に運ぶより早く、奈々が机に突っ伏してきた。


「べ、別に普通でしょ。地区大会近いし」


「へぇ~? 西園くんとバッチリ息が合ってるって、話題になってたよ?」


「はあ? 誰の話よそれ」


「男子が言ってた。“朝倉って意外と女子っぽくなるときあるよな”って」


「……いや、どこ情報だよ!? 誰が女子じゃないみたいに言ってんの!」


「いや~でも最近ちょっと、変わったと思うけどね? 澪」


「……なにがよ」


 澪はパンをもぐもぐしながら目をそらした。

 けれど、奈々はニヤッと笑ったまま離れない。


「昨日の練習帰り、2人で歩いてたでしょ? スマホの画面、一緒にのぞいてたでしょ?」


「べっ、べつに!! それはフォームの確認であって!! 」


「でも顔、赤かった~♪」


「は~~~!?」


 澪はペットボトルのフタを力いっぱい締めすぎて、軽くこぼした。



 放課後のグラウンド。

 西園とのバトン練習は、今日は3本だけ。


「今日は軽めに。明日タイム測るから、体力温存な」


 顧問の三浦にそう言われ、澪と西園は並んで歩いていた。


「今日、朝倉さん……ちょっとテンポ速くなってた」


「え、そう? 意識してないけど」


「うん。でも悪くなかった。多分、調子がいい日だね」


「……あんた、よく見てんな」


 言いながら、ふと指が西園の指に触れた。

 バトン受け渡しの直後の流れで、距離が詰まっていたのかもしれない。


「――」


 どちらもすぐに引っ込めた。けれどその一瞬、澪の中に変な音が響いた。

 心臓が、いつものスタート前よりも、妙に大きな音を立てる。


(なんか変……気のせい。ドキドキは酸素不足のせい)


「……どうしたの?」


「え? いや、なんでもない!」


 誤魔化すように腕を振ってストレッチに入る。


(ほんとなんでもないし。なんでも……)



 その日の夜。

 澪はベッドの上でフォームの動画を見返していた。


 3台目を越えたところで、一瞬だけ映り込む自分と西園の手。

 指が触れたのは、たった1秒にも満たない時間。


 でも、気づくと何度もその場面を見返してしまっている自分がいた。


「……やめよ」


 スマホを伏せて、頭から枕をかぶる。


(なんか変。なんか変だってば……)


 この感覚は、恋なんかじゃない。


 たぶんただ、うまくなりたいって気持ちと、よく見てくれる相手への信頼が、ちょっとだけ混ざっただけ。

 それだけのはず。


(……なのに)


 思い出すのは、笑っていた西園の顔。

 ちゃんとこっちを見てくれてた目。


「ほんと……めんどくさいな、あいつ……」

読んでいただきありがとうございました。

よろしければブックマークや評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ