表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/46

「はじめまして」

「よーい……ドン!」


 短く鋭い合図に反応して、地面を蹴った。腕を振り、地を蹴るリズムに合わせて、目の前のハードルを飛ぶ。

 一つ、二つ、三つ……その高さと間隔は、体に染み込んだはずなのに。


(あ、ちょっと脚が流れた)


 7台目。踏み切りの位置が、ほんのわずかにズレた。感覚だけでわかる。ほんの10センチ。それだけで、走り終えた後の息がほんの少しだけ重くなる。


「13秒79! 惜しい! もうちょいで13秒前半いけたね~!」


 マネージャーの奈々がストップウォッチを見せてくる。

 澪は両手を腰に当て、息を整えながら「うーん……」とうなった。


「3台目から流れてたね、脚。昨日の疲れ?」


「いや、リズムがちょっと……あとで動画確認する」


「オッケー、今日も送っとくね!」


 奈々と軽く会話を交わしていると、背後からふいに聞こえた声に、澪は一瞬だけ固まった。


「悪くないけど、最後の抜けがもったいないかもね」


「……え?」


 振り向くと、そこには見知らぬ男子が立っていた。

 日焼けしていない、シャツがパリッとした制服姿。髪はやや長めで、癖のない顔立ち。第一印象――“余計なこと言いそうなやつ”。


「初めまして。今日から転校してきた、西園遼です。よろしく、朝倉さん」


 初対面のはずなのに、名前を呼ばれたことに驚いて、澪は半歩だけ後ずさった。


「……なんで私の名前、知ってんの?」


「担任の先生が『朝倉さん、陸上でがんばってるよ』って言ってたから」


「……ふーん」


「君、100mハードルでしょ? 僕、110mやってたんだ。中学のときだけど」


 言って、西園はゆるく笑った。


「君のステップ、面白いね。テンポが速くて軽い。ちょっと特殊だけど、活きると強いと思う」


「……え? なに、急に評論家気取り?」


「いや、褒めてるんだよ。君、わりと速いね」


 ――わりと?


 “速い”でいいじゃん。“わりと”って何?


 澪の中で、何かがチリチリと燃えた。


「そっちこそ、偉そうに言ってるけど、タイムどのくらい?」


「うーん……自己ベストは、14秒ジャストくらいかな。男子110だから参考にはならないけど」


「……ふーん」


(ちょっとすごいじゃん、くそ)


 顔には出さなかったが、澪は悔しかった。

 初対面でいきなりフォームの指摘をされ、タイムを聞けば明らかに実力者。しかも、その顔が――なんか、ずるいくらい整ってる。


(なにあいつ……ムカつく)


 奈々が後ろからひそっとささやく。


「新入り、イケメンじゃん。しかも陸上……これは恋の予感?」


「ちがうし。むしろ、絶対に負けたくないタイプ」


「おおっ、火花バチバチ?」


 奈々がニヤニヤしている。


 そのとき、グラウンドの反対側から顧問の三浦がメガホンを片手に叫んだ。


「おーい! おまえら、聞けーっ! 次の地区大会、うちから混合リレー出すぞー!」


「えええええええ!?」


 澪と奈々の声がハモった。


 三浦は続ける。


「そしてペアは、男子110mの西園、女子100mの朝倉! スピード型ペアでいくぞ!」


「は!? ちょ、待ってくださいコーチ!?」


「以上!」


 一方的な決定に、澪は抗議する間もなかった。

 隣で西園がポツリと言う。


「うん。よろしくね、パートナー」


「絶対に息、合わせてやんないからな……

○朝倉 あさくら・みお

•高校2年生・女子/陸上部/100mハードル・混合リレー担当

•性格:まっすぐで頑張り屋、負けず嫌い。言い返すときの語彙はやや雑。

•口癖・特徴:「は?」「バカじゃないの!?」など素直じゃない発言が多いが、根は誠実。

•走りの特徴:リズム感に優れたハードル走者。スピードより「安定感」で魅せるタイプ。


○西園 晴翔さいおん・はると

•高校2年生・男子/陸上部/100mスプリント・混合リレー担当/生徒会所属

•性格:理知的・冷静沈着。ちょっと無神経に思われがちだが、観察力に優れる。

•口癖・特徴:「君のフォームは~」「見てたよ」など、いつの間にか観察しているタイプ。

•走りの特徴:フォームの美しさと爆発的な加速力を持つエーススプリンター


•三浦コーチ:筋肉信仰のゴリマッチョ顧問。恋バナには鈍感。

•桐谷奈々:澪の親友・マネージャー。恋愛応援隊長。


読んでいただきありがとうございました。

よろしければブックマーク、評価等よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ