表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第四章:生意気小娘と予想外の提案

侯爵の舞踏会の夜も更け、ミレイアは計画を進めるために、次の一手を考え始めていた。そんなとき、ふいに彼女の視線の先に一人の小さな女の子が現れた。華やかな舞踏会の場には不釣り合いなほど幼い、10歳くらいの女の子が、一人で堂々と歩いてくる。


その少女は薄い金髪を肩まで垂らし、大きな瞳でじっとミレイアを見つめた。見た目は可愛らしいが、その視線には妙に挑発的な輝きがあり、まるで相手の心を見透かすかのようだ。


「あなたが噂のマデリーン夫人ね?おっきなお姉さんだね!」と、少女は無邪気な笑顔を浮かべて言った。


ミレイアは少し驚きながらも、微笑みを浮かべて答えた。「そうよ、あなたはどなた?」


「わたし?わたしはクラリスっていうの!この館のどっかの遠い親戚ってことになってるけど、まあ細かいことは気にしないで!」と、クラリスは軽く手を振って大人びた口調で言った。その表情には、まるで何もかもお見通しだと言わんばかりの自信が漂っている。


「クラリス、あなたはこのような舞踏会に一人で出てくるなんて、大胆ね」とミレイアは微笑んだが、心の中で「生意気な小娘だわ…」と呟いていた。


するとクラリスは、まるでミレイアの心の声を聞いたかのようにニヤリと笑い、「だって、こんなに大人の集まるパーティーなんて、つまんないじゃない?それに、あの侯爵に近づいてる変なお姉さんがどんな人か、見てみたかったの」と口にした。


ミレイアはその言葉に思わず眉をひそめた。「変なお姉さん?失礼ね、クラリス」


「ふーん、だって本当のことだもん。お姉さんって、なーんか秘密ありそうな顔してるよね」と、クラリスは肩をすくめた。彼女の無邪気な言葉が、妙に鋭くミレイアの胸を突いてくる。


「何を言っているのかしら、私には何の秘密もないわよ」とミレイアが冷静を装って答えると、クラリスはさらにニヤニヤしてミレイアに近づいてきた。


「ふーん…そうかな?ねえ、お姉さんもそう思わない?」と、クラリスはミレイアのドレスの裾を軽く引っ張り、いたずらっぽく微笑んだ。


その時、クラリスは不意に顔を真剣にして、「あ、でも今思い出したんだけど、さっきどっかの騎士団員が『今CoCo壱でご飯食べてるんだけど、インド人っぽい人が入ってきて店内に緊張が走ってる』って言ってたわ。ああいうの、面白いよね!」と、まったく関係ない話をし始めた。


ミレイアは一瞬、あまりに突拍子もない話に戸惑ったが、クラリスの楽しそうな顔に思わず苦笑を漏らした。「ええ、確かに緊張感が走るかもしれないわね。でも…そんな話、どこから聞いてきたの?」


クラリスはいたずらっぽく目を細めて答えた。「ふふん、秘密の情報源よ!子どもはね、大人が知らないこともいっぱい知ってるの」


その後も、クラリスは舞踏会の大人たちを観察しながら、しきりにミレイアに話しかけてきた。時折、大人びた表情を見せながらも、無邪気な調子で「クラスの女子が『今夜家に誰もいないのw来てw』って言って、行ったら本当に誰もいなかったって話、知ってる?」とか、「クリスマスなのにあったかいのは便座だけってどう思う?」など、訳のわからない話を延々と続ける。


ミレイアはそのたびに半ば呆れつつも、次第にクラリスの話に引き込まれている自分に気づいた。彼女の軽妙な会話と無邪気な毒舌は、舞踏会の堅苦しい雰囲気を和らげるようだった。


しかし、クラリスは突然、ふと真剣な表情に戻り、ミレイアにまっすぐな視線を向けた。「ねえ、お姉さん、侯爵のこと、好きなの?」


そのあまりに直球な質問に、ミレイアは思わず言葉を詰まらせた。「えっ?…どうしてそう思うの?」


「だって、ずーっと見てるじゃん。なんか、ただのパーティーの相手って感じじゃないし」と、クラリスは大人びた表情で指摘した。その鋭い視線に、ミレイアは内心冷や汗をかいた。


「そうね…彼とは親しい関係を築いているだけよ」と、ミレイアはややぎこちない微笑を浮かべながら答えた。


「ふーん、本当かなあ?」と、クラリスはからかうように目を細めた。彼女の無邪気さと鋭さが絶妙に混じり合った表情は、どこか小悪魔のような魅力があった。


クラリスはさらにミレイアに顔を寄せ、「ねえねえ、だったら教えてあげる!侯爵をもっと喜ばせたいなら、今度クリーニング屋に行って、『今、セール中ですか?』って聞いてみるといいわよ!びっくりしておばさん『今、生理中ですか?』と聞き間違えて『いえいえ、もう去年終わりました』って答えてくれるかも!」と真顔でアドバイスした。


ミレイアは思わず吹き出しそうになりながら、「そ、そんなこと…絶対に言わないわよ」と答えたが、内心クラリスの面白さにやられていた。クラリスは得意げにニヤリと笑い、満足そうに腕を組んだ。


その後、クラリスは無邪気にミレイアに手を振り、「それじゃ、お姉さん、またね!次はもっと面白いネタ持ってくるから!」と言い残し、軽やかな足取りでその場を去っていった。


彼女の小さな背中が人ごみに消えるのを見届けたミレイアは、胸の中で奇妙な感覚を抱いていた。あの小娘は一見無邪気だが、何か特別な意図を持って近づいてきたようにも感じられた。


「クラリス…何者なのかしら」と、彼女は呟きつつ、再び侯爵の姿に目を向けた。小娘に指摘された自分の気持ちが本当かどうかを、今は確かめる気にはなれなかったが、心の中に微かに残るざわめきが、少しだけ彼女の心を乱し始めていることに気づいていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ