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第三章:舞踏会での誘惑と予期せぬライバル

【2話】

計画に従い冷静でいなければならないと思いながらも、侯爵の穏やかな微笑みと柔らかな眼差しに、ミレイアの胸は一瞬、微かにときめいた。復讐のための仮面をかぶり続けているはずの彼女にとって、この小さな揺らぎは不意打ちのように感じられ、内心、困惑していた。だが、気を取り直し、冷静な表情を装って口元に笑みを浮かべる。


「それは嬉しいお言葉ですわ、侯爵様」とミレイアは少しだけ照れたように答えた。その瞬間、自分の顔がほんのり赤らんでいることに気づき、内心で驚いた。


すると、グレッグ男爵がからかい半分に侯爵の肩を叩き、「おいおい、侯爵が女性のために本気で努力をするなんてな。まさか、マデリーン夫人に本気で惚れ込んでるんじゃないか?」と笑いながら言った。


「黙れ、グレッグ。君のような軽薄な男とは違うんだ」と、侯爵は苦笑しながら軽くグレッグを制したが、どこか照れくさそうに視線を逸らした。その表情を見て、ミレイアは心の中でほんの少し、彼への罪悪感のようなものを感じた。復讐を誓い、冷たく近づいたはずの自分が、こうして彼に少しでも温かい気持ちを抱いていることが、自分でも信じられなかった。


その時、突然ホールの入り口が騒がしくなり、会場にいた貴族たちの視線がそちらに集まった。重々しい扉が開き、現れたのは侯爵とグレッグ男爵の古くからの知人、若き美貌の公爵夫人アリシアだった。彼女は深い緑色のドレスを身にまとい、その豪奢な装いと堂々たる態度で、たちまち会場の視線を一身に集めた。


「おや、これは驚いた。アリシア公爵夫人ではないか」と侯爵は声を上げた。アリシアは優雅に歩み寄り、侯爵と軽く挨拶を交わすと、視線をミレイアに向けた。その視線には、一見して友好的に見えるが、どこか探るような鋭さがあった。


「マデリーン夫人ですね?侯爵からお噂はかねがね伺っておりますわ」と、アリシアは少し上から目線の口調で話しかけてきた。


ミレイアは軽く微笑んで、「ええ、光栄ですわ、公爵夫人」と柔らかく返事をしたが、その視線の冷たさに微かな対抗心が芽生えた。どうやらアリシアは侯爵に対して特別な感情を抱いているらしく、ミレイアに対してさりげなく敵意を向けているようだった。


「侯爵様、どうか次のダンスを私にお付き合いいただけないかしら?せっかくの舞踏会ですもの」とアリシアが彼に甘い声で言うと、侯爵は少しばかり困ったようにミレイアをちらりと見た。


ミレイアは内心で悔しいような気持ちを抑え、侯爵に向かってにこやかに微笑んだ。「どうぞ、侯爵様。公爵夫人のご希望を優先なさってくださいな」


侯爵はしばらくミレイアを見つめた後、ゆっくりと頷き、アリシアと共にダンスフロアへと向かった。ミレイアはその姿を見送りながら、侯爵の腕に自信満々にしがみつくアリシアの姿に複雑な気持ちを抱いた。アリシアが侯爵の隣で踊りながら、わざとらしく優雅な笑みを浮かべているのを見ると、何か胸の奥がちくりと痛むような感覚を覚えた。


「どうやら、嫉妬というものを少しは感じ始めているようだな」と、自嘲気味にミレイアは自分に呟いた。彼女は自分が侯爵に対してこれほど複雑な感情を抱くことに困惑しつつも、復讐のためには冷静でなければならないと心に言い聞かせた。


「何を見ているんだ、マデリーン夫人?」と、横から声がかかり、ミレイアが振り向くと、そこにはグレッグ男爵が彼女の隣に立っていた。彼は侯爵とアリシアの様子を眺め、ニヤリと笑みを浮かべた。


「なるほど、マデリーン夫人もあの二人が気になるんですかな?」


ミレイアは少しムッとしながらも、「いいえ、ただ見ていただけです」と返事をした。しかし、グレッグ男爵の観察眼は鋭く、彼女の小さな動揺を見逃さなかったらしく、ニヤニヤと笑いを含ませてからかった。


「ふむ、あのアリシア公爵夫人は手強い相手ですぞ。いつもこうして侯爵の気を引こうと懸命ですからな。それに比べて、マデリーン夫人の冷静さは…いや、だからこそ彼も貴女に惹かれているのかもしれませんな」と、男爵は思わせぶりに言った。


ミレイアはその言葉に戸惑い、視線を下に向けた。自分が侯爵の気を引いている?それは到底信じがたいことだったが、ふと彼女の心の奥で小さな期待が芽生えたことを自覚してしまう。


「いいえ、私はただ…」と彼女が言いかけたところで、再びホールの中央での動きが視界に入った。侯爵とアリシアがダンスを終え、彼女の手を優雅に解放すると、再びミレイアの方へ視線を向けた。彼の目には、ミレイアが再び近づくことを促すような柔らかな色が宿っている。


「マデリーン夫人、もしよろしければ、今度は私と続きを踊っていただけますかな?」と、侯爵が声をかけてきた。


ミレイアは軽く会釈し、優雅に歩み寄り、彼の手を取った。その瞬間、彼の手の温もりが彼女の指先を通じて心に伝わり、ふと微かな安らぎを感じた。何度も言い聞かせてきた復讐心が、彼の手に触れることでまた一瞬薄らいでしまう。


ダンスが再開すると、侯爵はさきほどよりもリズムに合わせてステップを踏むのが上手になっているように見えた。それがミレイアのために彼なりに努力している証だと思うと、彼女の胸には複雑な思いが溢れた。


「侯爵様、練習の成果が出ているようですね」と冗談めかして言うと、侯爵も照れたように笑みを浮かべた。


「マデリーン夫人のおかげで、少しだけ自信が持てるようになりましたよ」と、侯爵は少し照れながら応じた。


その穏やかな瞬間に、彼女は再び心の中で葛藤を感じていた。このまま彼と親しくなることで、彼に対する憎しみと復讐の誓いが薄れていくのではないかという恐れ。彼女の計画にとって、この予想外の感情は決して歓迎されるものではなかった。


しかし、……。

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