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第三章:舞踏会での誘惑と予期せぬライバル

【1話】

侯爵レオンドールの壮麗な館の中では、豪華な舞踏会が始まっていた。クリスタルのシャンデリアが輝き、貴族たちの鮮やかなドレスと豪華な装飾品が光を反射して、大広間をさらに美しく彩っていた。楽団が奏でる音楽が響く中、優雅に舞う男女がリズムに合わせて動き、談笑し、笑顔を交わしている。


ミレイアは黒と金の刺繍が施された豪奢なドレスを身にまとい、誰もが振り返るほどの美しさで会場に現れた。彼女の真っ直ぐな視線は、遠くで微笑みながら客人たちと挨拶を交わす侯爵に向けられている。彼女の目的はただ一つ、彼の注意を引き、心の隙をつくことだった。


「おや、マデリーン夫人じゃありませんか。今夜は一段と美しい」と、侯爵は彼女に気づくと、満面の笑みを浮かべて歩み寄った。


ミレイアは冷ややかな微笑を浮かべて軽く会釈を返し、優雅に言葉をかけた。「お招きいただきありがとうございます。侯爵様のご招待を断る理由など、どこにも見当たりませんもの」


「そのお言葉は光栄です。どうです、今夜は私とダンスを一曲?」侯爵は、彼女の手を取って軽く唇を寄せた。その動作には完璧な紳士の振る舞いがあり、彼女をまるで特別な客であるかのように扱っているのがわかる。


ミレイアは心の中で皮肉な笑みを浮かべつつ、にこやかに彼に答えた。「喜んでお相手させていただきますわ、侯爵様」


彼女は侯爵に手を引かれ、舞踏会の中心へと進んでいった。二人がダンスの準備を整えたとき、周囲の人々は息を呑み、その美しいペアに視線を注いだ。侯爵とミレイアが踊り始めると、しばらくは周囲のざわめきも消え、二人の舞が静かな注目を集めていた。


ところが、ダンスが進むにつれ、ミレイアは侯爵の意外な一面に気づかされることになる。彼はリズムに合わせて動くのがどうにも苦手らしく、ステップを間違えたり、タイミングを外してしまうことが多い。侯爵はなんとか取り繕おうとしているが、何度もミレイアのドレスの裾を踏みそうになり、彼女は内心で少しだけ笑いを堪えていた。


「すまない、どうも…貴女のような優雅なダンサーには私が見劣りしてしまうな」と、侯爵は困ったように言い訳をしながら、少し恥ずかしそうに苦笑した。その姿に、ミレイアの復讐心もほんの少し和らいでしまうほどだった。


「ふふ、侯爵様がこうして真剣に踊ってくださるだけで、十分光栄ですわ」と、ミレイアは微笑んで言った。だがその瞬間、彼女の内心では計画への焦りが募っていた。復讐のための駒を進めるはずが、彼のぎこちなさに、どうしても厳しく当たることができない自分に苛立ちを覚えていたのだ。


「さて、彼女がこの計画に従ってくれなければ困るな」と思い直し、もう一度彼に微笑みかけようとしたその時だった。


「おいおい、なんとまぁ、侯爵が美しいレディを独り占めしているじゃないか!」突然、大きな声が二人の背後から響き、侯爵とミレイアは驚いて振り返った。そこには、やや太めの体格で、豪快な笑い声を上げるグレッグ男爵が立っていた。彼は侯爵の幼馴染であり、いつも侯爵をからかいながら楽しむ人物として知られていた。


「マデリーン夫人、彼は貴女にふさわしいダンサーでしたかな?」グレッグ男爵はにやりと笑みを浮かべ、からかうように尋ねた。その目には、侯爵がダンスで不器用な一面を見せていたことを完全に見抜いたような輝きがあった。


ミレイアは一瞬戸惑いながらも、「ええ、とても素晴らしいダンサーですわ」と、微笑を浮かべて控えめに答えた。しかし、内心ではこの予想外の人物の登場に少し困惑していた。復讐計画の一環として、彼女は侯爵の信頼を得て少しずつ彼の心の隙を突こうとしていたが、この男爵の陽気なからかいが計画にどのような影響を与えるのか、予想もつかなかった。


「侯爵よ、どうだ?ここは一度、私に踊りの手本を見せる機会を譲ってくれないか?」グレッグ男爵は侯爵の肩を軽く叩きながら、彼女をちらりと見て言った。


侯爵は少し困った顔をして、「冗談じゃない。彼女は私と踊っているんだ。お前のような男に、今夜の主役を譲るわけにはいかない」と笑いながら応じた。


その言葉に、グレッグ男爵は再び大笑いし、「おいおい、そんなことを言ってると、夫人も困ってしまうぞ?」と言って侯爵をからかい続けた。


ミレイアはこの微妙なやり取りを見守りながら、心の中で次の一手を考えていた。復讐計画の進行を妨げないよう、今夜はできるだけ侯爵と親しくなる必要があった。彼女はやや遠慮がちに言葉を挟み、「お二人とも、どうか争わないでくださいませ。どちらとも、喜んでお相手させていただきますわ」と、軽く微笑んで二人を和ませた。


その後、侯爵は少し気を引き締めたようで、再び彼女とダンスを始めることにした。しかし、すぐに再びステップを踏み外し、彼女の足を軽く踏んでしまう。彼はすぐに「すまない!」と焦った表情で謝るが、ミレイアはその様子が可笑しくてたまらず、口元を押さえて笑ってしまった。


「侯爵様、やはり少し練習が必要かもしれませんね」と彼女は冗談交じりに言うと、侯爵もまた、少し照れくさそうに微笑みを浮かべた。


「そうだな、次にお会いするまでに少し練習しておこう」と侯爵は約束するように答え、二人はお互いに笑い合った。


その場面を見ていたグレッグ男爵は、「おいおい、侯爵が真剣にダンスを練習するなんて、なんとも珍しいことだな!」と再び笑い声を上げ、侯爵をからかった。


侯爵は軽く肩をすくめ、「まあ、君のように踊りが上手なわけではないが…彼女のためなら努力しようと思うのさ」と軽くジョークを返したが、その言葉にミレイアはふと息を飲んだ。


彼の言葉が冗談であったにせよ、彼女に向けられた特別な気持ちを仄めかしているように感じたからだ。

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