プロローグ「時田道男というおじさん」
北海道の右下側にあるとある地域に住む冴えない三十路巨漢のおっさんである俺は小さい頃に見た美少女戦士のアニメにハマってから今まで女の子向けのアニメをすべて制覇してきた。
美少女戦士、魔法使いの小学生、プリティーで癒しの戦士などなどのヒーローもののアニメを制覇し、中でもプリティーで癒しの戦士と同時期に放送開始した"ムテキノオトメ"シリーズが俺のお気に入り。
どの作品も似たような内容になるのだが、ムテキノオトメシリーズは少々大人向けでディープなシーンやキャラクターのスタイルもなかなか際どいものとなっている、だが子供が見れないこともない。
いい歳こいて女の子アニメを見ているなんて恥ずかしくないのかと弟に言われているが、弟にそんなこと言われる筋合いは無い。
そんななか最近では姪っ子の"愛依"がプリティーで癒しの戦士のアニメにハマり、その延長線でムテキノオトメを紹介するとそれにもハマってくれて今では最高の友達と行っても過言では無い、そんな関係になっている。
まったくもって最高の味方ができたものだ。
愛依は東京に住んでいるためなかなか会えないが年に数回、愛依の誕生日の日とムテキノオトメなどの映画やヒーローショーがある時などは一緒に行動している。
そして明日はなんと可愛い可愛い愛依の誕生日で俺アパート兼女の子向けのアニメグッズが詰まったオタク部屋で細やかな誕生日パーティーが行われるのだ、非常に楽しみである。
今回はのプレゼントは豪華絢爛、今作ムテキノオトメⅨのぬいぐるみ四個セットとプリティーで癒しの戦士の変身グッズと武器の贅沢な品揃えとなっている。
絶対弟夫婦に買いすぎだ、甘やかしすぎだと小言を言われると思うがたまにしか会えないんだ、大目に見てほしい。
「ふっ、愛依の喜ぶ顔を想像するだけで白米十杯はイケますね」
自宅へと帰る足取りはとても軽く、三十路のおっさんであることを忘れて思わずスキップしてしまう。
田舎の夜道は暗く、灯りも少なくどこかに足を引っ掛けて転ばぬように注意しなくてはならない。
しかし夜空は綺麗で瞬く星は見ていて飽きず、時間を忘れて見続けてしまう。
(そうだ明日が良い天気になるように流れ星にお願いしよう!)
だが流れ星はなかなか現れない、流れ星が落ちる時期があってその時期じゃないと流れ星は見られないのだろうか?
俺にはそういった知識が無いためまったく分からない。
(あれは…流れ星?)
しばらく夜空を眺めていると真上から流れ星が落ちてくるのが見えた。
本当に真上からだ。
(ヤバくなぁい…?)
俺は一度冷静になり三、二、一のカウントダウンで落下位置を確認して後ろに飛び退けるとギリギリで避けたようで、尻餅をついた。
そしてなんと驚くことに開いた脚の間には一人の少女が倒れていた。
汚れてはいるが真っ白であっただろう巫女服を着た黒髪の美少女、こんな落ち方をして無事である訳ないのだが見た感じ傷やあざはあるものの致命傷はなさそうに見える。
証拠に少女はすっと何も無かったかのように立ち上がる。
「いてて…あっ、おじさんごめんね!怪我ない?」
「ええ…まぁ」
呆気に取られて気の無い返事をしてしまったが彼女は気にせず速やかに俺から背を向ける。
「さて、おじさん!ここは危ないから早く逃げて!」
そう言うと彼女の瞳は鋭くなるがすぐに焦ったような表情に変わる。
「…っ、これはヤバイかもっ!」
彼女の視線の先は真っ暗で何も見えない。
だがよく目を凝らしてみると異様な空気が流れると共に羊顔、女性の裸体に黒い羽根の異様な存在が視界に入る。
明らかに人間でもその他日本に存在する動物でもない異質な怪物、あまりの異常さに俺は尻をついたまま動けない。
「カッカッカ!お主一人で妾に挑もうなんぞ愚の骨頂ゾ」
「たとえ一人でも戦う力があるなら、命ある限り私は戦う!」
「そうかえ、死期を早めたいようじゃな…よかろう、お望み通りになぶってやろうゾ」
その長い舌で舌舐めずりをし終わると怪物は異常な速度で彼女に接近し、その鋭く長い爪を振り下ろし。同時に彼女は尻餅をついて動けない二メートル近く身長があるデカブツな俺を軽々と抱き上げ攻撃を避けようとするが上手く避けられずぶっ飛ばされる。
「おじさん大丈夫!?」
「え…ええ」
(これは夢…じゃないよな…痛覚はあるし)
「カッカッカ!そんな情けないおっさんなんぞ捨ておケ!」
「パフォメット!今日こそあなたを倒す!」
彼女は再び立ち上がり拳をパフォメットとやらに向けるが簡単に避けられ、彼女が右に拳を突くとパフォメットは避けて左脚で腹を蹴り、彼女が左に拳を突くとまた逆に右脚で腹を蹴るの繰り返しで一方的に彼女がやられているのが見ていて分かる。
「カッカッカ!やはり貴様では相手にならヌ」
「はぁ…はぁ…やっぱり、しょうちゃんがいないと…」
「無力よノ」
力が尽きようとしているのか彼女は四つん這いになり過呼吸になっている。
「終わりゾ」
四つん這いになった彼女の頭を掴み上げ、その鋭く長い爪(人差し指)を彼女の胸な突き当てゆっくりと爪を差し込む。
「カッカッカ!楽には死なさんゾ」
彼女は悲鳴をあげず、目を瞑り痛みに耐えているようだ。
ゆっくりと刺した爪を一気に抜き、次は腹に爪をまたゆっくりと差し込む、まるで拷問のようだった。
「カッカッカ!流石は――身体は頑丈よノ」
……何分経っただろうか、何度も繰り返えされる拷問、穴という穴から血を流しながらもまだ彼女は生きている。
「飽きた、もう良い、娯楽として及第点ゾ」
パフォメットは最後に欠伸をしながら彼女の額に爪を突き刺しとどめを刺した。
そして標的は俺に変わる。
「…少女に守ってもらって情けないと思わないのかエ?」
「…っ!」
「けっ、目障りよの、ただの人間ハ」
パフォメットの言う通り俺は情けない、俺は俺を守ってくれた少女を見殺しにした。
止めようとせずただ足を震わせて怯えているだけだった。
「つまらん、おまえは虫らしく一瞬で潰してやル」
あぁ、俺は死ぬんだな。
せっかくあそこに倒れている少女に守ってもらったのに…申し訳ない。
それに明日愛依の誕生日なのに…まさか自分の誕生日の前日がおじさんの命日だなんて嫌だよなぁ。
俺に近づくパフォメット、だが俺は逃げない…というか逃げられるはずがない。
パフォメットは爪を横に払い俺の首を刎ねた。
痛みは無い。
一瞬にして意識を失ったから。