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季節は巡る

 僕は、ずっとこの場所で彩夏さんを待っているつもりだった。


 そのために、九月一日の海で悲しみをすべて捨て去って、この場に残る資格を得た。


 それなのに、僕らも引っ越すということになってしまった。


 毎日あの海に通うことが出来れば、さすがに彩夏さんと再会出来るだろうと楽観していたが、今の僕はそれも出来ない状況にある。


 でも、僕は親の言うことに逆らうことは出来ない。


「巡、準備できたか?」


 父が僕を呼んだが、当の僕はずっと考え込んでいて、まだなんの準備も出来ていない。


「もうちょっと待って」


 僕はそう返答して、嫌々ながらも引っ越しの準備に取り掛かり始める。


 とはいえ、彩夏さんに物をあげたりもらったりということが無かったので、思い入れのあるものはこの家に無い。


 強いて言えば生活必需品は持っていく必要があるが――と家の中を漁っていると、懐かしい物があちらこちらから出てくる。


「……そう言えば、あの海に女の子が倒れてたことがあったような」


 なんだっけ、あの子の名前。


 まだまだ記憶が曖昧で、僕が彼女となんの話をしたのか、彼女の名前はなんだったのか、他にもいろいろわからないことがある。


 でも、確かなことが一つある。


「あの子といた時は、彩夏さんといた時くらい落ち着いていられた記憶がある」


 彩夏さんとあの少女に、一体どんな繋がりがあるのだろうか。


 もしかして――と思うも、あの少女と会う術はなく、彩夏さんも今となっては近畿地方にいる。だから、その真偽を確かめる手段はない。


 彩夏さんがいなくなって失ったものは、安らぎの時間だけだと思ってたが、真実を確かめることも出来なくなっていたとは。


「巡、そろそろ準備できた?」


 今度は母が、僕の準備の状況を尋ねた。


 今度こそ急いで引っ越しの準備を進めないと、と名残惜しいながらも荷物をまとめて背負う。


「ごめん、今行く」


 さっきの記憶を鍵として、あの時のことをいろいろと思い出す。


 今も僕は人を信じることは出来ないけど、信じなくても、心を消耗こそするけれど共存できる。成長するにつれてそれを知った。


 でも、それ以外のこともよく知った。


 出来ないこと、わからないことを伸びしろだと考えるなんてポジティブなことは出来なくなった。


 そして、人を信じるってことは、本当に難しいということを、知った。


「早くしなさい」



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