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偶然

 砂浜を歩く。


 夏の日差しが砂浜を照らす。


 ゆらゆらと陽炎が揺れている。


 ふらふらと歩き回っている自分が不甲斐ない。


 だからといってなにも考えずに歩くのは無意味に思えて、ふと昔の記憶を思い出す。


 十年前の夏、家を追い出されたわたしはどこかへ逃げようと拙い脚でここまでやってきたことがあった。


 家の前から何時間も何時間もかけて歩き続けた六歳のわたしは体力の限界を迎えてこの砂浜で倒れ込んだ。


 そんなわたしを、名前も知らないわたしと同年代くらいの少年が助けてくれたのを覚えている。


 それからここは、わたしにとって思い出の場所になって、家から遠いから高い頻度では来れないけどなにか大きなことがあった時にはいつも訪れている。


 初めのころはもしかしたら彼と会えるかもしれないという気持ちも抱いていたが、さすがにそんな偶然が起こるわけがなくて、最近はその願いも忘れしまった。


 そのはずなのに――


 彼が、こちらを見ていた。


 目が合う。


 目が離せない。


 どうしてここに。


 それを確かめようと、わたしは一歩足を進めた。


 同じ考えなのか、目と目で見つめ合った彼も一歩足を進めた。


 互いに一歩ずつ、ゆっくりと、でも確かに、距離を詰めていく。


「――どこかで、お会いしたことがありますか」


 彼はわたしのことをまるきり忘れてしまったように言った。


 わたしは衝撃を受けた。


 それと同時に、仕方ないという気持ちが湧き出る。


 十年。あれから十年だ。


 目の前に立つ彼は、ぽかんと立ち竦むわたしを見て、焦ったような表情になった。


「すみません、気のせいだったかもしれません」


 わたしも焦った。


 そしてなにを血迷ったのか、彼の手を掴む。


 彼は驚いたような顔をした。


 わたしはなんと言うべきかわからない。


 静かな波の音が、焦りながら言葉を探すわたしを急かしているような感じがする。


 ゆらゆらと揺れる陽炎がじりじりと身体を焼く。


 彼は相も変わらず目を丸くしてこちらを見ていた。


「その……よろしくお願いします」


 彼が離れていくのを棒立ちで見守ることは出来ず、つい呼び止める。


 だが口から出た言葉は呼び止める言葉ではなく、それでも会ったことがある、と言うことは咄嗟に避けてしまう。


 なんだよ、よろしくお願いしますって。


 わたしは慌てて謝る。


「あの、突

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