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何度でも

 暑く重苦しい空気が、窓の隙間から流れ込む。


 今年も夏がやってきた。


「あれからもう三年か」


 三年前の夏、母の行いが原因で対人恐怖症に陥っていたわたしが唯一安心して話せた相手、巡くん。


 あれから三年経って、相変わらず母は嫌いだが対人恐怖症をある程度克服した今でも、彼のことを時々思い出す。


 彼と会うためだというわけではないが、わたしは近畿を離れて関東地方まで戻って一人暮らしを始めていた。


「そろそろ新生活も落ち着いてきたし、海行こうかな……」


 一人呟く。


 でも、少し迷う。


 楽しかったあの記憶が、巡くんに会えなかったという記憶で塗り替えられてしまったら、わたしはどうなってしまうかわからない。


 それでも、夏の魔力的ななにかで、わたしの足は自然とあの海へ向かっていた。


 心の底では会えるんじゃないかと願いながら、理性でそんなに都合良く巡くんがいるわけないと考えて、巡くんに会えなかったときのダメージを抑えようとする。


 三年前よりも熱くなった太陽が、じりじりと砂浜を焦がし、雲一つない空が嫌に明るい。


 あの時と同じような陽炎が、砂の上で踊っている。


 あの時と同じように、砂浜を歩く。




 また、会いたい。


 大学へと進学した僕は、両親の元を去って昔住んでいた町で一人暮らしをしていた。


 それは、彩夏さんに会うため。


 でも、彩夏さんに会えるという保証はない。


 僕と彩夏さんが最初に出会ったのも完全な偶然で、それはもう一度起こるのかもしれないし、もう起こらないのかもしれない。


 彩夏さんがいなくなった以上、僕の心を休めるのは落ち着いて広大な海を眺めることだけ。


 海を見て思考を整理した僕は溜息を吐いた。


 視界の中に、少女が映り込む。


 僕の胸は高鳴った。


 なんの根拠もないが、その少女が、成長した彩夏さんだと、そう思った。


 彼女はまだ僕の存在に気づいていないのか、静かに一人海を眺めていた。


 僕も釣られて海を眺める。


 雲一つなく、眩しい光がまるで彼女にスポットライトを当てているみたいだった。


 僕の存在に気づいたのか、彼女は不意にこちらを向いた。


 やっと、夏が来たみたいだ。

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