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君の力になりたくて

 愚直に生きていた。


 それが正しい生き方ではないということはすぐにわかった。愚直に真面目に生きたところで、なにも得しないからだ。


 僕が愚直に生きても、僕が称えられることはない。愚直に生きた先に待っているのは、僕が僕じゃない誰かに成り下がってしまう未来だけ。


 そのことに曖昧ながら気づいたのは、六歳の時――今から、ちょうど十年前だった。


 僕は子供で、子供なりの柔軟な感性を持っていて、そして子供なのに賢過ぎた。


 世間的には「優秀」な大人たちの考えが、透けて見える。


 彼らは自分のことしか考えていなくて、評判通りの良い人なんて一人もいなかった。


 そこで、真面目に生きるというのはあくまで自分のための嘘だと気づいた。


 そして、たまたま起きた大人同士の衝突でその奥の悪意を理解した。


『ああはなりたくないな……』


 家からさほど遠くない海、堤防のように盛り上がった場所に一人で座って海を見ながら考える。


 今振り返ってみれば六歳で考えるような内容ではない。


 海を見ていると、人との関わり方なんか忘れて自然に浸れるから、僕は海を見るのが好きだった。


 海を見て思考を整理した僕は、溜息を吐いた。


 ずっとここにいてもどうせいつか大人が探しに来るだけだとわかっていたので、僕は立ち上がって堤防から降りる。


 視界の中に、意識を失った少女が映り込む。


 僕は放っておけなくて、彼女に駆け寄った。


 見た目から察するに、僕と同年代。こんな場所に一人でいるのは少し違和感があって、でもどうすべきかわからず、彼女を揺すって起こすしかなかった。


『ここ、は……』

『起きた? 君はどこから来たんだ? いったいどうして一人でここに?』

『……わからない』


 彼女はなにもわからないらしかった。


『……寒い』

『今は夏だけど……体調が悪いのか?』


 彼女は倒れ込んだままこくりと頷いた。


 僕は急いで彼女を家に運んだ。


 大人たちは裏の顔こそ悪意に満ちているが、表の顔はあくまで善良な人間を装っていたから、少女を助けようとした。


 大人たちの顔に貼りついた笑みを見て吐き気を催したが、今はそんなことを言っている場合じゃなかった。


 彼女は少しずつ元気を取り戻していった。


『助けてくれて、ありがとう。名前なんていうの?』

『――名乗るようなことはしてない』


 少しぶっきらぼうに答えた僕は、感じ悪く見え

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