湊との出会い(1)
時は遡り、去年の4月7日のこと
僕は新中学2年生として始業式に臨んだ。
式の途中で転入生の紹介がされ、その中に湊はいた。
「あの子可愛すぎない?」
「一目惚れしたわ」
などと湊を見た瞬間に男子を中心に、女子までもがざわついていた。
彼女自身は緊張していたからか無表情を貫いていたが、それでも学校内ですぐさま話題になった。
彼女は自身と同学年の中学2年生であったが、遼河の通う中学校は生徒数が多く特にこの学年は7クラスもあったため関わることなど全くないと思っていたし、そもそも噂のこともあって関わりたくないとまで思っていた。
今年の転校生は7人で内中学2年生は湊1人だけだった。
だから1/7の可能性さえ引かなければよかったのだ…
昔からの運の悪さを発動して引いたのだが。
というわけで湊は遼河のいる2年3組に入ることになった。
「今日から転入生の中村湊さんがこのクラスに加わることになりました。ということだから学級委員の音川、湊の世話をしてくれ。」
担任の大薮先生はそういうと湊を遼河の横の席に着かせた。
「うちのクラスに中村さんが来るんだったら学級委員立候補すればよかった。」
「学級委員だからってずるい」
「早く音川から離れさせないと中村さんまで酷い目に遭っちゃう」
などとクラスの中では遼河のことを非難したり、不満に思ったりする声が聞こえてくるが、大薮先生はそれを無視して、色々な説明をはじめた。
大薮先生は小学校の時にもたまたま担任になったことがあり、優しくなんでもやってくれるという人柄だから、遼河は少し驚いた。
その後はなんの滞りもなく進み、3時間目の町別の下校訓練の時間になった。
どうやら湊さんは僕と家の方向が同じらしく、同じ班に編成されることになった。
班で集合したあと彼女は僕に
「今日一緒に帰ってくれない?私行きは車で正直道があんまりきちんと覚えられていないから。」と言ってきた。
僕は「学級委員だから仕方なく関わりを持っているんだ」と思い込むことにして
「わかった。」と返事をした。
帰り道の途中2人は授業のことや、部活のことについて話をしていた。
しばらくして湊が、
「音川君ってなんで学級委員をやろうと思ったの?」と聞いてきた。
僕がどう答えようかと迷っていると、
「ごめんなさい。別に学級委員やって欲しく無かった訳じゃないし、むしろ嬉しいし。でも音川君の性格的に立候補しそうじゃなさそうだったから不思議に思って。話したく無かったら話してくれなくても大丈夫だよ!」
と気遣われてしまった。
「僕は、別に学級委員なんてやりたく無かったんだけどね、仕事が面倒だからって立候補する人が居なくて…こういう時だけクラスの人達が結託して僕のことを成績がいいとか文化部だから暇でしょとか言って推薦するからどうしようもなくやる羽目になったわけだ。」
少しして湊は何かを呟いたのだが、多分僕に聞こえないように言ったのか聞こえたのは「昔」と「1人」の2単語だけだった。
程なくして2人は湊の家の前まできた。
湊の家の方が遼河の家よりも学校に近いので2人はここで別れた。
「今日は一緒に帰ってくれてありがとう!もし音川君が良ければだけど明日も一緒に帰ってくれない?聞きたいこともあるしね。」
このまま行くと湊までも酷い目に遭ってしまうような気がしたが、まだ転校してきてすぐで余り慣れていないだろうということにして、自分に「これは学級委員の仕事だからしょうがない」と言い聞かせてから、
「明日も一緒に帰ろう。」と遼河は言った。