あたしの選手宣誓
したことないです。
宣誓!
あたしはスポーツマンシップにのっとり——
ちょっと待って!
シップってことは船のことだよね?
船をのっとるだなんて
これって りっぱなシージャックぢゃないの???
まさか こんな みんなのまえで
犯行予告をするはめになるだなんて
あたしは思ってもみなかった
これぢゃあ いまからはじまるはずの
大会どころぢゃあないよね
警察や海上保安庁が
ほあん ほあん♪ ってサイレンを鳴らしながら
さっそく動きはじめる
やばい!
こんなつもりぢゃあ なかったのに
お立ち台のうえで犯行声明をあげてしまったからには
あたしは きょうからおたずねものだ
正々堂々 戦うことを誓うだなんて
武力行使まで 断言してしまったんぢゃ
もう言い逃れもできない
開会式にならんだ選手全員と
大会運営者 一同
それにオーディエンスのみなさんが
お立ち台にのぼったあたしの顔を目撃して
この選手宣誓を耳にしてる
100回 取り調べをして
100回 裁判にかけても
証人には困らないだろう
ほんとに なんてことだ
あたしには シージャックをするつもりなんて
目玉焼きの睫毛ほどもなかったのに
とはいえ ここまではっきりと
犯行を明言してしまえば
どんなに凄腕の弁護士をつけたってどうしようもない
だからあたしは たったいまから逃亡者だ
ごめんね チームのみんな
ごめんね 応援してくれたクラスメイト
ごめんね おべんとうをつくってくれたお母さん
あたしはお立ち台をおりたら
大会委員長を人質にとりながら
会場をはなれて どこかに身を隠す
ごめんね もう二度と
みんなには逢えないかもしれないけど
恨むなら あたしに
選手宣誓をさせたやつを恨んで欲しい
この件はきっと そいつの陰謀だから
あたしはそいつに濡れ衣を着せられたのだ
こうして あたしの大会は
開会式とともに終わりを告げた
ちくしょう はめられた!!
選手宣誓も、シージャックもしたことないってこと。