13話 初めての戦闘
再びダンジョン内に戻った私とユキは、出入り口付近で十分に周囲に警戒しながら辺りを見回した。
このダンジョンの第一層はフィールドタイプではなく、見える範囲だけでいうと同じ広さほどの通路が続いているようだ。
ところどころ、通路が分岐しているのが見える。
自然にできたものというよりは、人口的に造られた通路という感じがあるので、神々がダンジョンを作り出しているというのも頷ける。
ユキは当然のように常に隠密Lv4を発動させている。
ちなみにスキルレベルはどうやらLv2~4までは比較的上がりやすく、人にもよるが、ある程度まで上がったらそれ以降が急に上がりづらくなるようだ。
フォルティナ様いわく、スキルレベルを一定以上あげるには、自身のレベルを上げる必要があるそうだ。
スキルレベルを一定以上に上げるための自身の器が足りていないのだろう。
私もユキもいまだに一度も魔物を倒していないので当然といえる。
「ユキさんや?多分、一層だから強い魔物は出ないと思うんだよね(フォルティナ様談)。一応、創造のスキルで作った護身用ナイフを持ってるし、少しだけダンジョン探索をしてみたいんだけどいい?ユキは隠密で第一層くらいの魔物には姿は見えないと思うけど、念のため私から離れないでね!」
「ウキッ!」
左肩に乗っているユキが頷いているのを確認して、私は足を進めた。
とにかく今回はひたすら直進することにする。
すると5分ほど歩いたところで、ダンジョンで初めての魔物と出会った。
「あ、スライム!」
この世界でも例に漏れず最弱といわれる、スライムである。
ちなみに現状、私のトイレ事情を支えてくれているありがたい存在とも言えなくはない。
その動きは遅く、もはやこちらを気にする様子もない。
正直これに負けるのを想像する方が難しい。
実際にスライム単体だと10歳の子供でも楽々倒せるというのが、この世界の常識だ。
私は現状10歳の体ではあるが、精神年齢が28歳なので、より一層楽に倒せるだろう。
とはいえ、これまで日本という平和な国でなんの争いにも巻き込まれずのほほんと生きてきたのだ。
油断していいことなど一つもないだろう。
「鑑定」
私は念のためスライムを鑑定する。
【スライム】
Lv1
最弱といわれる魔物だが、様々なもの吸収し分解することが出来るので要注意。
体の中の核を壊すと死ぬ。
「あ、弱点とレベルが見れる!私たちとお揃いのLv1だぁ」
初めて遭遇した魔物、レッドクラブの時はその辺りの情報は分からなかったように思う。
これもスキルレベルが上がった恩恵なのだろうか。
ただ、ひとつ気になることもある。
「うーん、可食かどうか書かれてないのはダンジョン内の魔物だからかなぁ?」
レッドクラブ君の場合は食べられるかどうか分かったのだが、このスライムにそういった情報はない。
食べられる魔物にだけ可食とでるのか、はたまたダンジョン内の魔物はドロップ品を落として消えるのでその辺りの情報が出てこないだけなのか…
これは検証が必要だね。
まぁ、他に新たな情報が追加される可能性もあるし、鑑定したことのある魔物でも出来るだけ毎回鑑定をするように心がけようと思う。
見た目似てても違う魔物とかいそうだしね。
そんなことを思いながらスライムを観察していると、さすがにこちらの気配に気づいたのだろう。
目はないが、スライムがこちらを向いたのが分かった。
私も目を逸らさないようにスライムを見つめながら腰に差していたナイフを手に取る。
初めての魔物との戦闘だ。スライムだけど。
「先手必勝っ!!」
私は迷わずスライムの核に向かってナイフを突き刺した。
スライムは一瞬よけるそぶりを見せたが、その動きは遅く簡単にナイフで核を破壊できた。
そして、そのまま身体が崩壊するかのように消えていった。
「―――ふぅ、さすがにスライムに負けることはないと思ってたけど、ちょっと緊張したわ。」
「ウキィ♪」
ユキが褒めてくれるかのように身体をすりつけてくる。
日本での人生も含めて、虫以外の命を奪ったのは生まれて初めてだった。
正直、躊躇するかもと思っていたのだが、全くそんなことはなく、倒すべき相手として認識できた。
今後もダンジョン探索を進めるにあたって悪くない滑り出しだろう。
・・・スライム1匹倒しただけだけども。
「あ、そういえばドロップって」
ダンジョンの魔物は倒すと死体は残らないが50%ほどの確立で何かしらのドロップを残す。
スライムが消えた場所に目をやると、今回は2分の1をしっかり引いたようだ。
そこには見たことのある野菜が落ちていた。
念のため鑑定
【ダンジョンじゃがいも】可食
ダンジョン産のじゃがいも。
一般のじゃがいもよりも一回りほど大きい。
芽や緑色になった部分に毒があるので、食べる際は取り除くこと。
「うおぉ!初めてのドロップ!初めての野菜!」
たかがじゃがいも、されどじゃがいもである。
異世界に来て森の野草や果物、キノコ、川魚しか食べていない私からすれば、じゃがいもはもはや料理の革命を起こせるレベルで有難いドロップである。
もちろんそのまま料理にも使えるが、大量にゲットできれば片栗粉だって作れるのだ。
料理の幅が広がりすぎる!!!
「ぐふふふっ」
「ウ、ウキィ?」
私の気持ち悪い笑いにユキがひいている気もするが、構っている場合ではない。
「ユキ!この階層のスライムを狩り尽くすよ!!じゃがいもで美味しいご飯作ってあげるからね!」
「ウキィ!!!」
美味しいご飯というワードにつられてくれたのか、私のハイテンションについてきてくれるユキに微笑ましく感じながら、私とユキの予定外のダンジョン一層攻略が始まった。