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第50話 スクランブル交差点

「ふむ、ここがいいかね」


 跳び続けるアンドロイドの背を追い辿り着いた先。

 そこは商業ビルと巨大なテレビモニターが乱立し、大きなイベントやお祝い時には埋め尽くすほどの人が集まる、渋谷駅前のスクランブル交差点だった。


「うおっ、なんだ!?」

「きゃあああ!」


 突然の来訪者に、周囲にいた人達は慌てて走り、または空を飛んで逃げていく。


「おい、ダ・ヴィンチ!」


 ここで相手が何をするのかわからないが、逃げる人達から意識を逸らすよう、リクが地面から声をかける。

 するとダ・ヴィンチは友人を歓迎するかのように、親しげな笑みを浮かべ手を広げた。


「よくついて来たのだね。もう逃げて帰って来ないのかと思って寂しかったかね」


 どう聞いても煽りにしか聞こえない物言いに、リクは引きつりそうになる顔を抑える。


「そっちこそ、まだ生きてるってわかってるくせに俺達を捜しに来ないなんて、敵前逃亡じゃねぇの? さっきの広い所で再戦しようぜ」


 挑発しつつ、場所の再移動を促す。できれば被害を抑えるため、人と建物が少ない代々木公園で戦いたい、というリクの思惑だったが。


「もう君達のことは見飽きたかね。だから私は芸術を広めにここに来たのだね」


 意味不明な一言に、リクは眉間にシワを寄せた。


「芸術とは、大勢の人間に見られてこそ価値が出るものだね。例えどんなに素晴らしい芸術作品でも、人目に触れなければそこらへんの石ころと同じ。故に、ここが最適の場所なのだね」


 大仰しく身振り手振りを交えて持論を語る芸術家。

 その姿はさながら、大衆を熱弁で扇動する政治家にも見えた。


「人的被害を防ぎつつ、周囲の避難が終わったら即行でカタをつけるしかないね」

「そう器用にできればもう戦いは終わってるけど、やるだけやるっきゃねぇな」


 難しい注文をつけるユイトに、リクは苦い顔をしつつ敵を見つめる。

 人が多いということは近くに他の解放者リベレーター達もいるはずだ。彼らの乱入にも注意を払っておかないと、せっかくの作戦が台無しになる可能性もある。そういう意味でも、人気がなくなり次第、早急に決着をつける必要があった。


「お前が透明化できるってネタは割れてんだ。自分が消えるだけの能力はもう通じねぇぞ」


 まずは時間稼ぎと、リクは相手の関心を引く話題を出す。

 実際問題、警戒していてもいつどこから攻撃をされるかわからないのは脅威だ。それをさせないために、あえて挑発することで相手の透明化能力使用を防ぐ狙いもあった。


「油断しているのを真横で見ていたときは、笑いを堪えるのが大変だったのだね」


 挑発し返されリクは不意打ちされたときの気分を思い出し、頭に血が上りそうになった。


「しかもどうやら、透明化は〝自分に対してのみ有効〟と思っているようだが、誰もそんなこと言っていないかね」

「は? それはどういう……」


 妙に意味深な物言いに、リクは眉をしかめる。しかしダ・ヴィンチは何も答えず、意味ありげに口の端を歪めると、次の瞬間。


 アンドロイドの持っていた薙刀が消えた。


「──ッ! 後ろに跳んで!」


 横に薙ぎ払うように構えたアンドロイドに、ユイトはその場から離脱しろと叫び。

 アンドロイドが大きく腕を振ると、ブロックが倒れるように周囲のビルが切り崩され、反応の遅れたリク達の頭上から派手な音と共に降り注いだ。


「………………皆、大丈夫か?」


 体にのしかかる大きな残骸を退かしつつ、リクが仲間達に安否を尋ねる。


「大丈夫……です。なんともありません」

「生き埋めにならなくて良かったわ」


 女性陣は小さな石片を払いつつ身を起こす。


「この場合、土葬ならぬ石葬になるけどね」


 一番大きなコンクリート塊を避けながら、ユイトは溜息を吐き冗談っぽく言い放つ。

 瓦礫に埋もれようが痛くも痒くもないが、脱出できなくなったところを狙われれば一巻の終わりだ。


「はっはっはっ。能力とはこう使うものかね」


 土煙舞う中、ダ・ヴィンチの勝ち誇ったような声が響く。

 まさか透明化が自分以外にも、ましてやあんな巨大な物にまで有効だとは想定していなかった。

 見えないというだけで攻撃は極端に避けにくくなる。今後は敵の体の動きも注視しなければいけなくなったのはかなり痛い。


「さあ! 早くしないと街が素晴らしい芸術作品になっていくのだね!」


 しかしそんなリクの思考に関係なく、ダ・ヴィンチは嬉々として高らかに吠えると、アンドロイドを使って次々に建物を破壊していく。

 その度に、ビルは形を歪に変えられ、天才芸術家の抱く理想へと捻じ曲げられていった。


「好き勝手やりやがって。皆、やるぞ」


 敵の姿が見えなくなっても問題ないと舐めているのか。盛大に土煙を巻き上げながら建物を斬り刻むダ・ヴィンチを眺めつつ、リクは開始の合図を仲間に送った。


「土煙に乗じて逃げたかね? それなら、さらに作品を増やしていくだけなのだね」


 すでに周囲のビルはほとんど原形を無くし、アンドロイドの足元は視界を遮る埃が舞うのみ。それでもなお、ダ・ヴィンチはより離れた建物も芸術へ昇華しようとした。

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