第23話 事情説明
「……ねえ、なんであんなにあっさり引き受けたの?」
謁見の間を退出し、城の廊下を横に並んで歩くミカが問いかける。
事前にクエストをやると決めていたとはいえ、改めて難易度の高そうな事情を聞いて、悩むことも憶することもなく即決したのが気にかかっているようだ。
「んー強いて言えば、共感と尊敬ができたからだな」
「共感と尊敬?」
「国の安定ってのはただの解放者の俺にはわかんねぇけど。解決して民の不安を拭いたいって気持ちには共感できるだろ?」
「それは確かにね」
実際には、国は渋谷区のことだろうし、原宿や渋谷周辺を城下町として、そこに暮らしている人間を国民と位置づけた設定なのだろう。
しかし人間とNPCという違いはあれど〝誰かのために〟という、他者を思いやる根っこは王と通じるところがあった。
「それに一番偉い立場なのに、市民にああやって頭を下げられる姿勢ってのはかっこいいよな」
「言えてる。あの態度を男として尊敬するのはわかるね」
憧れを抱くリクの感想に、後ろを歩くユイトも頷いた。
「だろ? ユーモアのセンスもあるみてぇだし、国民に好かれてそうだもんな。俺も一国の王になって、あんな風に威厳を放ってみてぇな」
大勢の人間から尊敬と親愛を集める国のトップ。決して政治や国の運営をやろうとまでは思わないが、男なら目指してみたいとリクは思った。
「えー、リクが王様? 国が滅ぶわね」
「やってみなきゃわかんねぇだろ。クエスト達成したら、王位譲ったりしてくんねぇかな」
「もしそうなったら、全力で潰しにいくわ」
夢物語から物騒な言葉まで飛び出す会話に、先導する兵隊長は苦笑いを浮かべつつ進み。
しばらくすると、大きな木扉がある部屋の前で止まり、四人を中へと誘導した。
「それでは、新たに任務に就くことになった貴殿達に、詳しい説明をしたいと思う」
兵隊長は部屋の中央で振り返り、四人の顔をゆっくり見やると話を始めた。
「今までに溶けた建物は七棟。役所や図書館など、国が管理する施設だけ被害に遭っているのが現状だ」
「一般の建物に被害は?」
「まったくない。その点から、心霊現象を使った意図的な犯行として捜査しているが、恥ずかしながら結果はご存知のとおりだ。溶けた建物は高温で溶けたような跡を残しているが、建物内の人や物に被害はなく、屋根や壁だけが溶けていたのだ」
ユイトの問いに、兵隊長は渋い表情を返す。炎や熱による融解なら、建物以外も燃えたり溶けたりしているはずだ。
それがないということは、建物だけに影響を及ぼす心霊現象という線が濃厚だった。
「それに伴い、解放者達にも調査協力を依頼していて、今まで五組のパーティーに調査して貰っていたのだが、すべての組の消息が途絶えているのだ」
「失踪が五組もか……」
実際はこの城もクエストもついさっき新たに出現したばかりなので、解放者が失踪しているわけはない。
つまりは、そういう設定で物語は進んでいるということだ。
「現時点で言えることはこれしかない。それだけ難航している案件であり、我々だけで解決できていないのが悔しくもある。だが第一は国民の安全だ。だから貴殿達にもご助力願いたい」
頭を下げ、民を第一に守るという誇りを見せた兵隊長に、一同は温和な笑みを浮かべた。
「もちろんだぜ。大船に乗った気持ちで任せてくれ」
リクが胸を叩いて誇示すると、兵隊長は頭を上げて希望を抱いたように目を輝かせた。
「となると、まずは情報収集だな」
「であれば、王立図書館がここから一番近い現場だ。そこを当たってみるのがいいだろう」
兵隊長のアドバイスに一同が頷くと、四人は城の近くの王立図書館へと案内された。