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エピローグ 俺はやるって決めたんだ

 造りの良い椅子に深く腰掛け、俺は外の世界を眺めている。

 壁は一面丸ごと窓になっていた。総督府を構成する大量の建築群の中でも、総督府執務室は一際高い位置にあるから、数重の城壁の向こう、少し遠くに位置する星府の街並みがよく見えた。


 植民地人の居住区、その中心部には大きな穴が幾つも空いている。星戦隊(ランドフォース)の強襲揚陸艦が行った軌道爆撃によるものだった。


 帝国本領の資本で作り上げられた商業区には背が高いガラス張りビルディングが立ち並んでいるが、その幾つかには穴が開いている。途中から折れているものもあった。無事なビルディングは太陽の光を反射し輝いていて、その対比がグロテスクに思えた。


 (セント)・バーナードの最大都市である星府は、まさに半壊していた。


 流石に街が焼けて立ち上がる黒煙は見えなかった。ヴィルヘルムの襲撃を退けてから、ちょうど一週間が経過している。主要街路を塞いだ瓦礫を除去すべく走り回る重機の姿が、総督府からでも微かに認められた。復興が始まっていた。


 ヴィルヘルムが持ち込んだ戦力はすべて排除されたにもかかわらず、植民地人の暴動は一部で継続していたし、通信衛星がすべて撃墜された影響で星系外との通信は非常にか細いし、電気水道といった主要インフラの半分が破壊されたまま動いていなかったけれど――、


 一方で。


 ジギスムントの艦隊は指揮下に戻って衛星軌道上を遊弋していた。主要都市を中心に統治機能の回復が進められていた。鉱夫達は地下に潜り、富の源泉(ダイオライト)の採掘を継続した。そして、見事に息を潜め続けていた現地政府と企業は何事もなかったかのように貿易を再開している。


 尊い血筋の愚か者二名が惑星中で争ったにもかかわらず、本会計年度において(セント)・バーナードのGPPは前年度比プラスで着地すると予測されている。


 何故ならば――、


 サンダラーの莫大な計算資源を利用できるからだ。

 あの不愉快な戦艦の計算能力を持ってすれば、復興は理論上の最速で完了する。奴は些細なニュースからでもすべてを把握できる。どのタイミングでどの資源をどこに輸出すれば最大の利益を得られるかも計算できる。


 まあ、サンダラーがどれだけ賢いとしても、その機能を活かすには生の人間が動かねばならない。具体的には、俺が大量の人に会い、言葉を交わす必要があった。儲け方をあいつが直接教えるわけにはいかない。


 実際、この一週間は多忙だった。

 現地企業やジギスムント資本の星間企業と数十の会合を行い、各植民星から訪れる現地政府高官や総督府の人間との折衝をこなした。人との会話に不慣れな俺には、大変疲れる出来事の連続というわけだった。


 ここで問題が生じる。沢山の人に会うということは、〈暴虐皇子〉として、その内の幾らかに対してブチ切れる必要があるというわけで――、




「貴様ら! なんであんなやつらを通した!! 今朝の事情説明(ブリーフィング)で聞いていないぞ!!!」


 エーオン・シミズ社が銀河帝国主星ブランデンブルクⅤから遥々派遣してきた重役一行が応接室から退室した瞬間、俺は吠えた。


 ダイオライト鉱石の輸出価格に関する俺の要求はのらりくらりと躱され続け、気が付いたら「次期会計年度における輸出価格は五ポイント増」という結論になっていた。たった五ポイントでも聖・バーナードの歳入が信じられないほど改善することも確かだったが、もっと譲歩を引き出せていた筈。


 何しろこの時、〈暴虐皇子〉の威名は帝国中に轟いている。〈聖・バーナードの怪奇〉と呼ばれるに至った先日の出来事のおかげで。


 将来を嘱望されていた皇子の不可解な挙兵、同時に発生した惑星全土の大規模デモ、星府上空から消失した旧文明の宇宙戦艦。そして、たった一両日ですべてが解決した。突如軍事侵攻を行った皇子は艦隊ごと失踪し、大規模デモは収束し、骨董品は観光名所に戻ってきた。


 銀河上網(Gネット)は、聖・バーナードで先日生じた変事に関する記事でいっぱいだった。帝国情報院による情報統制が追いついていない。二〇〇〇年が経過しても、人類は謎に惹かれるらしい。


 まあ、ネットの情報はだいぶ事実と異なる。ヴィルヘルムが艦隊ごと失踪したのは事実だったが、大規模デモは叛乱(クーデター)だったし、すべての黒幕は骨董品だった。


 骨董品(サンダラー)が、情報を捻じ曲げて伝えた結果だ。ついでに、情勢不安を鎮めるべく奔走する帝国情報院の必死の努力もあいつが妨害している。俺が何をしたのか知るものはいない。真相と謎が入り混じり、ジギスムントは一種のカリスマと化している。


 その影響力を上手く活かせば、なんとでもなる筈だったんだが――、


 うーん、失敗したぜ。重役のおっさんたち、まったくジギスムントに臆していなかった。年の功というやつか。まだまだ学ばなければならないことが多い。


 まぁ、俺の交渉がどうであれ、だ。

 ジギスムントとしての演技を続けなくてはならない。

 だからブチ切れる。


「話にならん!! 話にならんぞ!! どう申し開きするつもりだ!!!」


「もっ、申し訳ありません。直前まで、到着寸前まで『通信機器の故障』を主張され、事前のすり合わせが出来なかったようで……」


「機器の故障。ハッ! 何故それを面会の後に知らねばならぬのだ」


「申しわ、わ、わけ」


 返事をしてくれた勇気ある親衛隊員が気絶した。

 あ、ごめん。申し訳ないのは俺の方だぜ……。


 応接室の壁際に控える女給服を纏った親衛隊の面々は、主人の怒りに怯えるように顔を伏せている。くそっ、やり過ぎたか? だが、ジギスムントとしてやっていく決意を固めた今となっては、あの不愉快な暴虐皇子に相応しい態度を取らねばならないんだ。


 そうとも。怒鳴ったのは演技である。

 正直、これから何をしたらいいのかまったくアイデアがないのだが、ともかく俺はジギスムントとして生きていくことを決めたんだ。


 帝位継承戦争? なにそれ美味しいの?

 といった気分は今もって俺の脳裏にちらついてはいるが、俺がジギスムントとして生きることで救われる人間がいるのならば、ってワケだ。寝たきりだった俺にも何か役割があるのならば、なんだってやってやる。

 

 気絶したまま控室に運ばれる本日四人目の親衛隊員を目の端で追いながら、決意を新たにしたところで――、


「なんだ。なにか用か」


 背後からの視線を感じ、振り返って尋ねる。

 そこには黒の軍服を着た美少女が直立不動で立っている。短く切りそろえられた真っ直ぐな金髪がよく似合っていた。そして、惹き込まれるような深緑色の瞳。十代後半らしいが、目元に若干幼さが見て取れた。


 ジギスムントの親衛隊長、オルスラだ。

 彼女は人形のごとき無表情で応えた。


「これから銃後分の休憩となります」


「おお、そうか」


「者共、席を外せ。殿下、何かお飲み物は?」


「好きに用意しろ。貴官に任せる」


「では、昨日輸入出来たばかりのケニア豆は」


「うむ」


 疑われないように、趣味嗜好に関する質問には「良きにはからえメソッド」で対応するようにしていた。隊員達が退室するなか、オルスラは壁際まで歩き珈琲の用意を始める。


「……念のため確認させて頂きたいのですが、今、サンダラーはどちらに?」


「うん? この総督府上空にいつもどおり浮かんでいるではないか」


「殿下は我々に黙って無茶をなさいますので。万全な警護の観点から教えていただきたいのですが」


 無表情の奥に怒りが隠れている気がした。隠し事はやめよう。水銀の騎士(メルクリウス)は弟君と一緒に何処かに消えてしまったが、相変わらずオルスラは怖い。


「………済まなかった。事前に説明すると約束したのだったな。サンダラーには我が封土四星系を飛び回らせているところだ。奴は転移門なしで恒星間移動が可能だから、その機動力を活かしてヴィルヘルムの残党を潰させている」


 総督府上空に浮かんでいるサンダラーは、例の遺産兵器(レガシー)で投影した立体映像(ホログラム)だ。現代に生きる人間が扱えない筈のサンダラーが消えていたならば、〈聖・バーナードの怪奇〉の真実が明らかになってしまう。誤魔化しが必要だった。


「今は不在、ということですか」


「問題ない。数日以内にすべてを解決して戻ってくるさ。前もって伝えていなかったのは謝るが、つい先日の出来事を思えば当然の措置だ。余のスケジュールがどこから漏れたかまだ判明していないし……」


 スケジュールが漏れたのは、サンダラーとジギスムント(本物)の仕業だと思うけどね。だが、その事実を明かすわけにはいかない。教えられるものか。俺がサンダラーの力を引き出すためだけに、この星を舞台に戦争まがいのことを行ったなど。


「あ、そういえば、責任は貴様にあるのではないか!!? 貴様は親衛隊長だろうが。どう責任を取るつもりだ!!!」


 誤魔化すために、一際大きく俺は怒鳴ったが――、





「大変申し訳ありません、殿下」


 謝罪しながらも、オルスラはにこやかに笑った。

 困惑する。は? 台詞と表情が全然噛み合ってないぞ。

 それに、こういう表情は初めて見るな。どんな感情だろう。

 分からん。何が起きているか分からない時は怒鳴るに限る。

 野蛮極まりない振る舞いだが、俺は悪くない。ジギスムントが悪い。


「おい、本当に反省しているのか!!」


 俺の言葉を聞いて、金髪碧眼の軍服美少女はますますその笑顔を大きくする。嫌になるほど違和感のある表情だ。いつもの無表情はどうした? 困惑に構わず彼女はゆっくりと歩み寄ってきて――、





 殴られた。思いっきり。

 椅子ごと吹き飛んで、壁に叩きつけられる。

 滅茶苦茶痛い。


「はぁ……? 何これぇ……」


 状況を理解できずに間抜けな声を上げる俺に、オルスラは冷たく吐き捨てた。


「この私が、本当に騙されるとでも?」


「余はジギスムントであるぞ!!!」


「本物がそんな名乗りを上げるわけがないでしょ」


 ……うん、確かにそうかも知れない。あれ? 何だこの会話は。おかしいな。まるで俺がジギスムントではないとバレているような――、


「本当は騙され続けてあげるつもりだったの。殿下にもなにかお考えがあるのだと思うし……。でも、偽物とわかっているのに、こんな扱いを受けるのは我慢ならない」


 まずい。リカバリーしなくては。

 正体バレは避けなくてはならない。


「おい! 俺は皇子だぞ!」


「はいはい、演技が下手くそであらせられる」


 また殴られた。今度は手加減されていた。吹き飛ぶことはなかった。ただし、壁に頭を打ち付けた。目の奥がちかちかする。うん。どう考えてもバレている。


 だが、変だな。バレたら殺されるのでは。つい先日オルスラに銃を突きつけられたことは記憶に新しい。なのに、殴られただけで済んでいる。それはつまり――、


「やっぱりバレてないってことか?」


「そんなわけがあるか。調子に乗るのも大概にして」


 もう一発追加で殴られた。今度もちゃんと痛かった。

 ジギスムントじゃないとバレているのに、殴られるだけで済んだ。

 それはつまり、オルスラに俺を殺す気がないということ。

 安心したせいで迂闊な言葉を口にしてしまったのは反省だ。


 オルスラは短い髪をいじりながら俺を見下ろしている。先程までの無表情はどうしたと言いたくなるくらい、顔面すべてに呆れの感情が現れていた。


「一応、教えてもらえる? どうして気づいたか」


「チッ」


 あのオルスラが俺に向かって舌打ちだと!? 凄いな。この美少女はジギスムント意外にはマジで態度が悪いぞ。騙し続けてきた俺が悪いと言えば悪いんだが……。


 でも、どうしてバレたんだろう。

 今後の為にぜひ聞いておきたい。


「殿下は無口であらせられる。必要最小限のお言葉しか口にされないお方。親衛隊には特に声を掛けられない」


「……は?」


「つまり、殿下の振りをしたいなら黙っているだけでいい。それだけで周囲は恐怖し、物事は円滑に進むの」


「…………」


 絶句。あの馬鹿饒舌男が無口だと?

 わけがわからん。言動が読めなさすぎる。

 ん? だとしたらおかしいぞ。


「おい、待て待て。本物が無口だとしたら、俺は滅茶苦茶下手な演技をしていたことになるぜ。さっきも直接怒鳴っちゃったし。どうして君以外にバレてない。いや、バレているのか?」


「多分大丈夫」


「何故?」


「恐怖」


 何故と尋ねて、答えが恐怖。

 それが怖いぜ。


「殿下が〈暴虐皇子〉を発揮されるのは高級軍人や高級官僚だけだったけれど……、その矛先が自分に向いたらと思うと怖いでしょ。恐怖で麻痺して判断力が麻痺しているの。可哀想に」


「……」


「付け加えるならば、殿下は酸味の効いたケニア豆を好まれない。苦味派であらせられる」


 酸味も苦味もわからない。

 そもそも珈琲を飲んだのは今週が初めてだった。


「このような違和感を踏まえて、冷静に一から考えてみると――、」


「聞きたくないな……」


「ジギスムント殿下として振る舞うことを期待されている筈なのに、なんで親衛隊から逃げるの。敵勢力の送り込んだ偽物がそんなことする? 殿下の深謀遠慮の末に産みだされた奇策だと理解する方が自然」


「…………」


「で、極めつけは……、あの化物(サンダラー)があなたを助けた。それは聖・バーナードを救うこととイコールで、つまりは殿下にとっての得を意味する。だから私は黙ったし、今日まで大人しくあなたに従ってきた。殺さなかった」


 最初から最後まで完全に筋が通っていた。

 道理も道理だった。

 何も言えないぜ。


「それに、本物の殿下の行方を教えて貰う必要があるしね。それとも正体を白状してもらおうかな。そうだ、拷問すれば全部分かるかも」


 拷問!?

 勘弁してくれ!!


「俺は何も知らないぞ。驚くかも知れないが、これはマジだぜ!! 俺が一番信じられない気持ちなんだ」


「冗談。今更あなたの正体を暴くメリットはない。大体のところは予想できるでしょ? 単なる馬鹿なら、先日のあれこれを乗り越えられなかった筈」


「……褒められてる?」


「そう聞こえるとしたら本当の馬鹿」


 俺の頭があまりよくないことは薄々感づいてはいたが、面と向かって馬鹿馬鹿言われると傷つくぜ……。まぁ、オルスラの言うとおり、理由はいくつか想像できる。単純過ぎるくらいだった。


 問い、ジギスムントが死んで困る勢力は?

 答え、ジギスムントの親衛隊。


 ジギスムントが死んだら、彼の領土に生きる人々は生計を失うだろうし、企業人は倒産したりすると思うし、その帰結として死の可能性がかなり高まるだろうが――、


 親衛隊が辿るだろう将来よりはマシだ。ジギスムントがジギスムントではなくなっていたと明らかになった時、その責任を取らされるのは彼女たちだ。軍法会議にかけられて極刑、以外の結末を考えることは難しい。


 彼女たちは、ジギスムントに生き続けてもらわねばならない。


「じゃあ、俺を殴ったのは何なんだよ」


「別に」


「別に!!?!?」


「影武者ごときに命を懸けたのが馬鹿らしくなったから、怒りの矛を振るう必要があったというだけ。だから気にしないで」


「気にしないで!!?!?」




 渾身の叫びへの回答はなかった。

 オルスラは無表情を取り戻している。

 だが不思議と、思い悩んでいるようにも見えた。


「ねぇ。……なんで私を助けたの?」


 彼女は呟く。目には鋭い光がある。

 殴られたほうがマシに思えるほど、強く、無表情のまま強く睨んでいる。


「ヴィルヘルムに殺されそうになった瞬間、あなたは私を庇ったよね。どうして? 私のことなんてどうでもいいでしょう? 殿下ならば絶対に見殺しにしたし、殿下でもないあんたなら、絶対以上であるべき。理屈に合わない。意味不明にも程がある」


「えーと……」


 場の雰囲気がいきなりシリアスになった。

 空気の変化についていけない。戸惑うばかりだ。


「意味不明と言えば、植民地人のために戦った事自体がそう。影武者のあなたには関係がない筈」


 関係ない。そうか、そう思うか。

 当然だと思う。俺にも自分がよく分かっていないんだから。


「いくら影武者だからと言って、いや影武者だからこそ、生き延びることを最優先しなくてはならない筈。頭がおかしいにも程がある。命令されているでもなく、義理があるわけでもないのに、何でもない関係の私のために、命を賭けたのは何故?」


 彼女の問いに答えるのはとても難しい。あの時はただ、身体が勝手に動いただけだ。説明しろと言われてもね。何度も言うように、そもそも自分でもよくわかって――、


 まあ、俺のことはどうでもいい。


 この問いは、オルスラにとってはとても大事なことなのだろう。ジギスムント(本物)の命令だと答えれば、彼女は引き下がるかもしれない。それが一番簡単な解決策なんだろう。


「本音を明かすよ」


 でも、それじゃいけない気がした。オルスラの目には、微かに涙があった。この美少女の過去は知らない。知らないけれど、真っ直ぐ答えるべきだと思った。だから、言う。人に伝えるのは初めてだった。


「俺はやるって決めたんだ」


 オルスラの無表情が崩れ、怪訝な表情が現れた。それを見て俺はおかしな気分になった。確かにわけがわからない。笑いながら続ける。


「あの時も言ったよな。世界を救うために、君が必要なんだ、オルスラ。答えは変わらないぜ」





 彼女は呆気にとられたように絶句し、ついで――、


「あなた、本当の馬鹿ね」


 俺に笑い返しながらそう答えた。

 いたずらっぽい笑顔が浮かんでいた。

 とても可愛いと、素直に思った。





「本当はね、あの時から偽物だって気がついていたの」


 あの時? ヴィルヘルムを倒した後のことか。オルスラが俺に銃を突きつけ、勢いだけで説得した時のことか。え? そんなに前から?


「あの時大人しく引き下がったのは……、あなたがあまりに必死に私を説得するから、呆れてしまっただけ。殿下じゃないとしても、悪いやつじゃないんだろうなって思ったの」


「……褒められてる?」


「そうかも知れない。だから、今は何も聞かないであげる」


 それはそれは、ありがとう。君の過去は知らない。だけど、君が喜ぶ振る舞いを出来ていたのなら、俺は嬉しいよ。助けたかいがあるというものだ。まぁ、助けられたのは俺の方なんだけれど。


「じゃあ、よろしく頼む」


 オルスラに向かって手を伸ばす。

 彼女は倒れた俺を笑顔で引き上げて――、


 途中で離す。

 当然俺は尻もちをつく。

 完全な間抜け、その具現だと思った。


「せいぜい殿下の代わりにがんばってね、影武者さん。演技を間違えたら殴って教えてあげるから安心して」


 笑顔であろうと、やっぱりオルスラは怖いのかも知れなかった。

 だが、どうやら、今度こそ本当に仲間が増えたらしい。


 はぁ……。



 ■□■□■



 内心でため息をつかざるを得ない。ジギスムント(本物)が選んだ親衛隊長ですら、これ程苦労しなくてはならなかったということは、それ以外はもっと苦労するに違いないぞ……。


 前途は多難だ。ああ、これはどんな物語になるんだろうか。まったく予測がつかないぜ。SF兵器と美少女軍人と、あとは宇宙戦艦が出てくることは確かだね。


 まあいい。

 なんとかなるさ。なんとかしよう。なんとかするのが俺の役目だ。



 改めて自己紹介といこう。


 俺は西暦二〇一二年生まれの十八歳、通信制高校の三年生……、ということになっていた。日本で生まれて、日本で育っている最中だった。パッしたところが一切ない、存在感のない男子である。


 不治の病に侵されていた。現代の科学と医術ではどうしようもない類の病を患っていた。全身の筋肉が動かなくなり、最終的には心臓が止まって死ぬ、そんな病だった。


 太かったり細かったりする管を身体のあちこちに繋いで、機械があれこれ自動で薬を投入してくれて、それでやっとぎりぎり生きていた。どう楽観的に見積もっても大人になれそうもなかった。


 しかし、


 俺は二〇〇〇年の時を越え、銀河帝国皇子の影武者として蘇った。

 身体は動く、権力もある、武力もある。何かを為せる力がある。


 ならばやろう。

 この不平等で残酷な世界を救ってみせよう。


 酷い詐欺に遭ったという気分はまったく払拭されないけれど――、




 俺はやるって決めたんだ。









 2012年生まれの少年が巻き込まれた物語はここでひとまず区切りとなります。読みづらい部分がかなりあったと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。マジ感謝。感謝感謝。皆さんありがとう。


「主人公が覚悟を決めるまで」がこの物語でやりたかったことですが、それ故に書ききれていないキャラが何人かいるので、もし続きがあればそこらへんを掘り下げたいですね。特にオルスラ。彼女の過去はふんわり考えているのですが、なかなか興味深そうです。


 本当に本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人類救済の度はこれからだENDでしたか~。 ぜひ続編が読みたくなるお話でした。 本物は何処で潜伏して何してるんだろうなぁ……
[一言] ん〜
[一言] ありゃ、起承あたりで終わりな感じですか 別の作品も読んでみたいです
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