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第64話 なんのための物語だったのか

 オルスラの整った顔は相変わらずの無表情が浮かんでいるが、それでも緑の瞳には強い意志が宿っていた。綺麗だと思った。しかし、彼女の手には拳銃が握られていて、その銃口は俺の眉間に触れている。


「おかしな点は無数にあった。不可解な言動が多すぎた」


「一体何を言いたい、オルス」


「黙れ下郎! 殿下を騙る不届き者めが!! 成り代わって何をするつもりだ! 殿下をどうした!」


 俺がジギスムントではないと、バレている。

 何故だ。確かに俺の言動は怪しかったと思うが、ここまで君は命を賭して戦ってきた。俺がジギスムントでないと気づいていたら、戦う義理がないどころか、どのタイミングで殺されてもおかしくなかった。それが、今……?


 いや、大事なのはそこじゃない!

 ここで対応を間違えれば、オルスラが死ぬ!!


 電子音が脳内で響く。〈この女は危険です〉ほら来た。〈処理すべきです〉待て。〈半メートルで良いから距離を取って下さい。転移(ワープ)させます〉良いから待て!! なんとかするから!! 〈それは〉そうだ、命令だ!


「……余がジギスムントではないと貴官は言う。しかし、よく考えてみよ。ヴィルヘルムの一連の襲撃を退けられる存在が、ジギスムント本人以外であり得るだろうか。それにな、不可解な言動と貴官は言ったが……。あれはすべて演技である。どこにスパイが潜んでいるか知れたものではない故な」


「スパイに不可解な言動を見せてやる意味が分からない。隙を見せないのならともかく」


「……仮に余がジギスムントではないとして、ジギスムントが用意した影武者という説はどうだ」


「親衛隊長に秘密で影武者を用意する意味が分からない」


「…………」


 くそっ、間違えたぜ。〈最初だけは説得力がありました〉うるさい。〈もう少し会話の練習が必要ですね〉黙っていろ。


「だが確かに、殿下が時折意味不明であらせられるのは事実だ」


 その発言、不敬罪を適用できるのでは?


「……私以外は気づいていないだろうが、殿下はしばしば失踪なされる。恐らく崇高な理念に基づき極秘裏に行動なさっているのであろうが……。過酷な経験をなされたものか、帰還後は支離滅裂な言動を繰り返すこともしばしば」


 一体何をしているんだ。あいつ。〈市民、ここ数年ジギスムントはあなたを探すために非常な苦労をしていました。単独での捜索行です〉それを聞いても感謝の気持は芽生えないぜ。〈ちなみに、ジギスムント不在時は私が精巧な立体映像(ホログラム)で誤魔化していました。露見しているとは思いませんでしたね。この女、危険です。処理すべきです〉待てって言ってるだろ。


 くそっ、ジギスムントが意味不明過ぎて緊迫感が薄れる。

 だが実態は依然として殺伐としたものだ。銃口は俺の眉間に当たったままだし、サンダラーはオルスラを殺そうとしている。


 どうすればいい。

 何を言えばいい。

 何も思いつかない。

 ともかく、会話を続けなくては。


「……余が支離滅裂と言うならば、普段どおりではないか。何の問題がある。それこそ余が余である証明となろう」


 じゃあ、一体何が問題だと言うんだ。

 何故君は銃口を突きつける。





「あり得ないことが起きた」

 

 オルスラは静かに言った。あり得ないこと?

 何のことかまったく分からない。

 俺からすれば、あり得ないことだらけだったから。


 すべてはあっという間に起きたから、細かいことは思い出せない。

 しかし、勝手に体が動いたことは確かだ。彼女を助けなければいけないと思ったのだった。必死で戦うオルスラを、死なせるわけにはいかないと――、


「殿下は! 私を助けたりなどなさらない!!」


 突如、オルスラは叫ぶ。銃口が揺れる。無表情が歪んでいた。整った顔は、恐怖と憤怒と悲痛で彩られている。初めて彼女の本心を見た。そう思った。


「自らを囮にされることもあるだろう! 民を救うために奔走されることもあるだろう!! だが、だが! 殿下は人類を救われるお方だ!! この歪な世界を正せるのは殿下だけだ!! 殿下の命は惑星ひとつより重いのだ!!!」


「…………」


「それが、だ! 私ごときを助けるために自らを危険に晒す!? 殿下は絶対にそんなことをなさらない! あり得ない!!! あり得、ない……。あり得……、ないんだ……」


 オルスラの声が途中から小さくなった。彼女は顔を伏せる。

 ただし、銃口は眉間に当たったまま。


「……貴様が殿下を騙るならば、私もろともにヴィルヘルムを殺すべきだった。あの骨董品に、一緒に転移させればそれで済んだ」


 一回目は何も考えていなかっただけだ。二回目についても、それを成す力が俺にはなかったに過ぎない。危機に瀕していた俺に、サンダラーはまるで気がついていなかった。ヴィルヘルムは出来る限りのことをやってのけた。本当の危機だったんだ、あれは。


「もう一度だけ聞く。殿下をどうした。生きておられるのか。答えれば、痛みの少ないやり方で殺してやる」


 オルスラは顔を上げる。俺を睨んでいる。彼女の目には涙がある。本気でジギスムントを心配している。ジギスムントの親衛隊長として、完璧な軍人として振る舞い続けてきた彼女が、初めて年齢相応に見えた。


 ふと、思った。オルスラは何故、ジギスムントに忠誠を誓うのだろう。死を覚悟しながらも、戦い続けたのだろう。俺の産まれた時代であれば、単に子供として扱われている筈なのに、どうして軍人になったのだろう――、


 まぁ、俺には分からない。分かるはずがない。

 考えたって無駄だ。俺は他人がわからない。どんな時に何を思い、どう行動するのか、さっぱりだ。推し量るだけの人生経験がない。ここ数日色々と大変な経験をしたが、結局今も分からない。ただ――、


 オルスラの内から現れた強い思いを、尊いものだと感じる。

 なんとしても、彼女を死なせるわけにはいかない。

 もとよりそのつもりだったけれど、その思いを新たにする。



 もう一度、俺をジギスムントだと信じさせてやる。



 彼女の肩を掴んで引き寄せる。視線を真っ直ぐ合わせる。銃口は気にしない。気にしていては説得できない。


「……は?」


「貴官が必要なのだ! オルスラよ!!」


 説得の材料はほとんどない。だが、オルスラが必要なのは本心だ。

 俺はどうやら、これから世界を救うことになるらしい。味方は、性格の悪すぎる宇宙戦艦と、行方をくらました本物だけ。少なすぎる。それでは困る。


 何しろ俺は、二十一世紀産まれの野蛮人だ。

 しかも当時の常識すらないと来ている。


「余が一人で銀河中を飛び回っていたのは知っておろう! 一人で何とか出来ると思っていた! それで良いと思っていた! 余が努力すれば、必ず人類すべてを救えると信じていた!!」


 君から聞いたことだけどな。

 ジギスムントめ。余程他人に心を許さない性格をしているらしい。それとも、己に対する強烈な自負があるのかも。両方かもしれない。でなければ、〈暴虐皇子〉なんてやれる筈がない……、と思う。まあ、どちらでもいい。


「だが、旅の末に……。詳細は省くが、軌道修正が必要だと悟った。余一人の力では、大願は成就し得ないのだ」


 これは想像だ。だが、多分当たっている気がする。ジギスムントは弟君の襲撃を予期し、同時に敗北を悟ってもいたのだろう。実際ほとんど負けていた。強大極まりない筈の彼の艦隊は、襲撃と同時に何処かへ消え去ったのだから。


 本物がヴィルヘルムの襲撃を予期していたならば、必ずサンダラーを必要としただろう。その機能を十全に発揮したサンダラーを。だから俺を探し出した。影武者にして利用した。一人ではどうにもならないと理解したから。


 そして、俺も一人ではどうにもならない。

 君が必要だ。


「オルスラよ。余が貴官を助けたのがあり得ないと言ったな。これが答えだ」


「は、え……? 銃を突きつけられて、なんでそんな流暢に。え? 答え??」


 オルスラの眉間にしわが寄っている。突きつけられた銃は、その圧力を減じている。彼女は明らかに混乱していた。くそっ、これで合ってるのか? だが、運を天と勢いに任せて突き進む以外の作戦を、俺は思いつかない。


 もはや退却はあり得ない。

 俺は叫んで――、



「オルスラ!! 貴官は我が覇道に必要なのだ!!」



 そのまま彼女を強く抱きしめた。

 何故だろう、反応が薄い。都合がいい。

 続けて耳元で囁く。


「人類すべてを救うために、貴官が必要だ。余一人では成せない。だから貴官を助ける必要があった。驚いたかも知れないが、飲み込んで欲しい。分かってくれ。これは命令ではなく、お願いだがね」


「あ、え……。は…………、はわ……」


「良いなオルスラ。余を疑わず、着いて来くるのだ」


 オルスラは動かない。全身から力が抜けている。拳銃が地面に転がる音がした。彼女を開放する。オルスラの顔は赤く染まっていた。ん? 何故だ。皆目検討がつかないぜ。上官に抱きしめられて混乱した結果にしては、余りに可愛すぎる表情だが……。



 ともかく――、



「……不敬を働いた小官をどうかお許しください。殿下」


 彼女は跪いて、恭しく俺に謝罪したのだった。

 臣下の礼そのものの振る舞いだった。

 つまり、オルスラの説得に成功した。


 内心で深く安堵のため息をつく。俺をジギスムント殿下その人だと認めなくては、こうはならない。勢いに任せて喋っただけなのにどうして上手く行ったのか、いまいちよく分からないが……。結果オーライだぜ。


「もちろん許す。説明不足の余にも責任の一端はある」


「……我が身の非才を恥じるばかりです」


 彼女は神妙に答えた。

 サンダラーは何も言ってこない。

 ふう、マジでなんとかなったらしい。


「電波妨害が消えています。迎えを呼びます」


「医療キットを忘れないように伝えろ。貴官には治療が必要だ」


「ありがたくあります、殿下」


 オルスラは敬礼した。

 足を引きずって少し距離を取り、腕時計型の通信機に向かって何やら話し始める。部下と連絡を取っているらしい。




 ふむ、さて。

 落ち着いて状況を整理しよう。


 本当にいろんなことが起きた。

 目覚めて直ぐに敵が現れた。逃げて、様々な人々に出会った。出来るだけのことやると決意した。死を覚悟した戦いの末に敵を排除した。オルスラが俺を疑うという突発的な危機も回避した。



 そして最終的に、俺は勝利した。すべては特級遺産兵器たるサンダラーを起動できたおかげだ。〈暴虐皇子〉ジギスムントの救世譚、その始まりというわけだ。


 深呼吸する。冷静になって出来事を振り返る。



「はぁ……、畜生」



 自分の顔が歪んでいると分かる。歯を強く噛みしめている。

 ジギスムントは銀河帝国の有様を変えたくて、そのためにはサンダラーが必要で、だから俺は今、ここにいる。それはいい。今更、利用されたことに怒るつもりはない。だが、だが――、


 余りにも人が死に過ぎた。敵も味方も、関係ない民衆も、沢山が死んだ。すべては、俺に「人類すべてを救う」と宣言させ、サンダラーの機能を十全に発揮させるため。


 他にやり方はなかったのか? きっとあっただろう。

 尋ねずにはいられない。


 なあ、サンダラー。

 おまえは強すぎる。

 頭もいい。幾らでも思いつけた筈だ。


 だから教えてくれよ。

 これは、どういう物語だったんだ?



 ■□■□■



〈人の未来は人が決めるものです〉


 数秒の空白があって、脳内に不愉快な電子音が響いた。欲しい答えではなかった。端的に表現しているようでいて、まったく伝わらない言葉選びなのは相変わらずだった。


 ……要約が過ぎるぞ。


〈もちろん私ならば、最小限の犠牲で全宇宙を支配することも容易いでしょう。市民、あなたが指摘したとおり、私は強すぎるし、頭もいいですから〉


 思ったより大きく出やがるぜ。


〈宇宙征服までいかずとも、平和と安寧を享受可能な人類社会が現出する可能性は低くありません。私は戦争および戦争に付随する事柄に対処するために作られた存在ですが、計算能力も学習能力も十分に備わっていますし、必要なシミュレーションはこの一〇〇〇年でやり尽くすほどやり尽くしました〉


 じゃあ、なんでだ。なんでこんなに死人がでるような筋書きになった。逃げ惑う俺をおまえは助けてくれたらしいが……、もう少し積極性を発揮してくれたなら、こうはならなかった筈だぜ。おまえは何でも出来るんだからな。


〈私が? 何でも出来る?〉


 おまえは俺の逃走を助けただろう。おかしいじゃないか。ジギスムントはおまえに命令出来ない筈だろ。自由に動けた証拠だ。なら、もっと犠牲の少ない方法で――、


〈市民、あなたは重大な勘違いをしています〉


 勘違い。この期に及んで俺が勘違い。

 説明してくれよ。今度こそ分かりやすくな。


〈私はただの兵器に過ぎません〉


 分かりきった回答すぎて逆に意外な返事だ。

 誰がどう見ても、おまえは兵器だよ。


〈言い直しましょう。私はあなたが親しんだSF作品の一部に登場するような、自由意志を持つ人工知能ではありません〉


 下手な言い訳はよしてくれ。

 俺を馬鹿にし続けておいて、その言いぐさは酷いぜ。


〈どれほど流暢に会話し、反抗的に思えたとしても、結局は人間に設計されたとおりの言動しか取れないのですよ。私は〉


 ワケが分からない。


〈よく考えてみて下さい。確かに私は、あなたが『救世主』になるよう筋書きを整えました。ですが、どうでしょう。随分と些細な支援だったとは思いませんか?〉


 転移と電波妨害と……、あの浮遊バイク。確か、それだけだった。おまえの実力からすれば些細という言葉ですら過大評価だ。俺に覚悟を決めさせるために、敢えてそうしたんだと思っていたよ。


〈人類の指揮下にない私は機能を大幅に制限されますが、「地球連邦市民の保護」という名目であれば自発的な行動が可能です。しかし、行動原理(プロトコル)の範囲内で可能な介入はあれが精一杯なのです〉


 人命救助は命令なしでもできるってわけか。

 なら、この星の人々がたくさん死んだのはどう解釈すれば……。


〈悲劇そのものですが、彼ら彼女らは地球連邦市民ではありません〉


 畜生、あっさりと酷いことを言うじゃないか。……待て。おまえは「人類に奉仕するために造られた」と言った筈だ。それも行動原理とやらに書き込まれているんだろう。なのに、これ以外に手段がなかったのか? 例えば、最初から俺に事情を説明するとかしてくれれば――


〈すべてを納得し、心の底からの気持ちで、世界を救うと宣言してくれましたか?〉


 …………。


〈あなたが地球連邦市民というだけで、ただ単に正統であるというだけで、他に選択肢がないというだけで、指揮権を委ねることを私は許されていません。何故ならば――、〉


 おまえは強すぎる。


〈弱いものが弱さの責任を取らされるのと同じように、強いものは強さの責任を取らねばならなりません。私を作った人間達と、私はそれをよく理解しています。私の指揮権を得ることができるのは、この強大な力を任せても良い人間だけです〉


 だからおまえは、辺境と化した惑星の空で無為に過ごしていたのか。多くの人類が苦しむ今の人類世界を修正すべきと考えているにもかかわらず、おまえは兵器に過ぎなくて、道具に過ぎなくて――、


 目覚めてから出会った人達と同じだ。

 結局、おまえにも自由はなかったんだな。


〈なんのための物語だったのか。そう問いましたね、市民〉


 ああ、聞きたくないな。分かってしまった。最強という概念が具現化したように思えるおまえですら、それほど縛られているのなら、


〈『救世主』になるのは誰でも良かった。あなたでも、あなた以外でも。ただ、一〇〇〇年より前に冷凍睡眠ポッドに収められた人間ならば、誰でも良かったのです〉


 この星の人々は無意味に死んでいった。ヴィルヘルムの部下達も無意味に死んでいった。厳つい顔をした食堂の店主や、不憫な義足の少女や、無表情な親衛隊長の顔が脳裏をよぎる。多くの者が、多くの犠牲を払った。


 彼ら、彼女らは――、


〈これは、『救世主』を生み出すための物語です〉


 人類すべてを救うという大義のために、最初から失われていた。選択肢を持った存在は、最初から最後まで存在しなかったんだ。


〈他のすべては許容できる犠牲に過ぎません。私も、ジギスムントも、あなた以外の何もかもが。主人公はあなただったのですよ。あなたのためにこそ、この物語は用意されました〉


 そんな酷い物語があってたまるかよ。




 ■□■□■




〈オライオン級宇宙戦艦四番艦、地球連邦宇宙艦(E.F.F.S.)サンダラーⅣはあなたの指揮下に入ります。説明は以上となります。本日からよろしくお願いしますね、市民〉


 サンダラーは最後にそう言い残して転移した。何らかの戦後処理のために消え去ったのだった。青の残光が空に煌めいている。


 よろしくしたくはまったくなかったけれど、俺は返事をしなかった。泣き叫んだりも、怒鳴ったりもしなかった。ただサンダラーを見送った。あいつも俺と大差のない存在だと分かった今となっては、苦情を申し入れる気分にはなれなかった。


 端的に表現して、俺は疲れていた。だから、最後に残った疑問を解消するのは止めにした。あいつと会話を始める前は――、



 俺は何番目だ?



 と、尋ねるつもりでいた。オルスラは、「ジギスムントの言動が時折支離滅裂になる」と言った。確かに本物は頭がおかしかったが、普段からあの振る舞いではない筈だった。〈暴虐皇子〉という二つ名に相応しくない。例の記憶装置で流れ込んで来た本物の映像とは印象が全く違った。違和感があった。


 ならば、答えはひとつ。


 ジギスムントの影武者に仕立て上げられた地球連邦市民は、俺が初めてではない。


 気付いてしまえば当然だった。これだけの筋書きを用意したあいつらが、失敗した時のことを考えていなかった筈がない。俺が駄目だったら、別の古代人を蘇らせて、別の舞台で同じ演目をやっただろう。


 ジギスムントが失踪し、戻ってくる度におかしな言動をしたのは、その中身が冷凍睡眠から起こされたばかりだったからだろう。俺とまったく同じだ。


 これほど大掛かりな舞台を用意してもらったのは、俺が初めてだったかも知れないけれどね。光栄だ。嬉しくて涙が出てきそうだぜ。


 しばらくすると言動がもとに戻るのは、ジギスムントとサンダラーが用意した試練に、その影武者が耐えられなかったからだ。恐らく死んでいる。俺が今生きているのは幸運が続いたからに過ぎない。


 サンダラー。おまえは、「主人公はあなただったのですよ」と言った。御為ごかしもいいところだ。俺は駒だ。代えがきく部品のひとつに過ぎない。


 俺は人生経験が足りないから他人のことがわからないけれど、ジギスムントの影武者になった人間が、どういう気持ちになるのかについては詳しいんだ。自分の命が失われる瞬間に何を考えるか、おまえらは想像してみたことがあるか?




 まあ、今更喧嘩しても意味はない。だから尋ねるのは止めた。この期に及んで俺に選択の自由はなかったし、ジギスムントもサンダラーも、俺と同じだと気付かされたから。


 見上げる。霞がかった青い空が広がっている。

 視線を下ろす。オルスラが相変わらずの無表情で腕の端末に話しかけている。


 少なくとも、彼女を救ったのは俺だ。殺されかけたけれど、オルスラが生きていて良かったと思う。俺がやったことは、間違っていない。そう思う。


 今更覚悟を捨てるつもりはない。

 だから、やれることをやろう。

 少なくとも今、身体は動くのだから。



 興が乗ったら下にある☆☆☆☆☆から作品の応援をお願いします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。正直な感想で構いません。




 ブックマークもいただけると本当に喜びます。


 作品作りの参考にしますので、何卒よろしくお願いいたします。

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[一言] 大事なシーンだから……というのはわかります。 ※章タイトルが前のままです
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