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第51話 自壊する帝国

 ペルセウス腕中央部の惑星ブランデンブルクⅤから広漠たる銀河に泳ぎでたレイル家、その支配下に他の惑星が初めて加わったのは銀河歴四七三年――西暦三四七三年――のニューイヤーズデイのことだった。


 この日、レイル家の家長たるアルブレヒト・ザウエル・レイルは銀河帝国の樹立を宣言し、自らを初代皇帝と称した。そして銀河帝国は銀河全土の統一を目指した侵略事業を開始する。人類の再結合(リユニオン)という大義のもとに。


 征服事業の原動力は遺産兵器(レガシー)であった。


 銀河連邦時代の超兵器に内蔵された人工知能は、銀河連邦の消滅という異常事態によって誤作動を起こして久しい。仕えるべき組織を失った人工知能たちは連邦遺産法に従い、その子孫にその運用権を委ねている。故に、銀河連邦海兵隊総司令官をその祖先に持つレイル家は、各惑星が死蔵する他なかった海兵隊の資産を起動、運用することが出来た。


 兵卒が用いる光線銃はもちろんのこと、破壊の化身たる揚陸兵器や星海を征く艦船に至るまで、すべてレイル家の思うがままだった。


 また、遺産兵器を扱える血筋の人間を貴族階級として遇することで、銀河帝国は次々に旧文明の超兵器の力を取り込んでいった。銀河帝国は星を新たに手に入れるごとに強力な戦力を手中に収め、征服は加速する。


 遺産兵器を扱えない人間の自由を制限し、搾取した資源・富を貴族階級に集中することで、新たに支配した星の戦力を効率よく吸収していったのだった。


 銀河帝国の樹立から五〇〇年超が経過し――、


 銀河歴一〇〇〇年を迎えた今日、二〇一八星系と一〇〇〇億人がその支配下にあった。


〈大停止〉以前の銀河連邦には五〇兆の人間が生きていたことを思えば随分と些細な帝国だった。だが、その版図はペルセウス腕からサジタリウス腕に至る天の川銀河の実に三分の一にまで広がっていた。それに、銀河帝国が抱える一〇〇〇億という数についても、人類が〈大停止〉で滅びの淵に立たされていたことを思えば大したものだった。


 つまり、銀河帝国は人類を救った。

 征服と弾圧を繰り返す数百年を経て、この天の川銀河を再び人々が生きることのできる世界に作り替えたのだった。


 帝国には、旧文明の遺跡を分析して再現した転移機関(ワープドライブ)の製造技術がある。銀河連邦時代に実在したとされる、人間ひとり単位での転移(ワープ)を再現することは出来なかったが――、


 各星系に幾つか存在する重力の安定した地点(ラグランジュポイント)の間を、数十時間単位で移動することが可能だった。なお、転移機関による超光速移動が可能なポイントはこの時代、転移門(ゲート)と呼ばれている。


 現在、帝国軍の保有する艦艇だけでも一万隻は転移機関を搭載しているし、政府民間のそれを含めたならば百万を超えた。二十一世紀前半、地球の海を所狭しと泳いでいたコンテナ船は一万隻より少ない。銀河は広大であるからして、百万隻でも足りないのかもしれなかったが――、


 征服した領土を転移機関搭載船(ジャンプシップ)で繋ぎ、孤立していた星々を帝国という大きな経済圏に接続することで、人類を救ったのだった。


 文明が崩壊した星々は、独力で生き延びることが出来ないほど衰退していた。そうでなければ、(セント)・バーナードは星形要塞を再発明しなかっただろう。


 銀河帝国が宇宙から降って来た一〇〇年前まで、バーナード人は十九世紀レベルの戦争を行っていたのだった。今日では銀河帝国の総督府が置かれている低く分厚い城壁の連なりは、惑星ひとつに閉じ込められ、文明レベルが退化したバーナード人同士の争いが生み出したものなのだった。


 銀河帝国が再び人類を繋ぐ術を見出さなければ、天の川銀河の片隅に存在する地球という星で育った人類という種は、隔離された星々の重力圏で完全に滅びていただろう。ほとんどの星は、聖・バーナードと大差ない歴史を辿ってきたのだから。


 人類世界の未来はレイル家と共にある。救世主たる皇帝陛下に長寿と繁栄のあらんことを。銀河帝国万歳。万歳、万歳、万歳。




 ここまではすべて建前だ。




 建前は真実の裏返し、という言葉がある。


 銀河歴一〇〇〇年の現代において、銀河連邦の正当なる後継者にして人類の第一人者を自称する第三十代銀河帝国皇帝フリードリヒ・ザウエル・レイルは、祖先と自らが救ってきた人類の未来について深刻な懸念を抱いていた。


 銀河帝国が人類を救った(・・・)のはまったくの現実であり、そこに間違いは一切ない。しかし、これから先も人類を救い続ける存在であり続けられるだろうか?


 発達した医学と機械による長命措置により、その治世が一五〇年になる今代の皇帝陛下は、時代の変化を正しく見据えていた。


 彼が銀河帝国皇帝になったのは銀河歴八五〇年のことだった。彼が父親から受け継いだ領土はペルセウス腕における百十四星系だけであって、周囲にはレイル家と同じく銀河連邦海兵隊高官の子孫が支配する複数の勢力が盤踞していた。


 レイル家は銀河帝国を自称するにはまったく誇大あった。


 だが、若き日の第三十代皇帝フリードリヒがすべてを変えた。

 有形無形の同盟裏切り挑発その他のあらゆる方法を用い、たった半世紀で主要な敵勢力すべてを打倒し、続く半世紀でサジタリウス腕にまで広がる現在の銀河帝国を成立させたのだった。


 帝国とはフリードリヒであり、フリードリヒが帝国であった。


 しかし、帝国の拡大も近年は滞っている。

 銀河歴九五〇年から一〇〇〇年に至るまで、帝国が新たに手に入れた星系はたったの九だった。一五〇年に及ぶ彼の治世において、版図の拡大は最初の百年に限られている。



 何故か。



 帝国が広がりすぎ、統治に必要な金と人員が増大し続け、征服に必要なリソースが枯渇したからだった。銀河帝国の領土の大半は〈大停止〉によって滅びかけた星々であって、その復興はあまりにも多くを要求した。


 銀河帝国の正義である再結合(リユニオン)は、敵ではなく、支配した民によって停滞したのだった。解決には新たな富――鉱物でも水でもいい。人間ですら消費と生産という観点で富と呼べる――を獲得するための征服が不可欠だったが、拡大した帝国自体がそれを不可能にしていた。


 しかし、停滞の中でも、転移船を量産し植民星を繋ぐことで、帝国全体の幸福は増大した。

 レイル家の本拠地たる惑星ブランデンブルクV周辺の帝国本領に住まう特権階級はもちろん、搾取対象たる植民地人も間違いなく豊かになっていった。帝国は無謬と言ってよかった。



 だが、とうとう限界が訪れた。

 銀河帝国皇帝フリードリヒは己の支配する世界をそのように認識している。



 人類を再び繋ぎなおすという大事業は、特権階級に仕立て上げた銀河連邦軍の子孫たる遺産兵器の使い手によって実現されたものだったが――、


 歴代の銀河帝国皇帝と、何より自らが造り上げてきた特権階級自体が、帝国を停滞に導いている。崩壊しかけた人類社会を復活させるために必要なリソースが、特権階級を維持するために費やされている。


 特権階級の成立は、当然被抑圧階級を要する。

 懐かしき西暦の二十一世紀における格差社会は、資本主義に基づく分まだマシだった。金を稼げるならばどんな生まれでも価値を認められた。もちろん、金を稼ぐにも結局生まれ持った才能が必要だったけれど、努力という価値観を大事にする社会であったことは確かだった。少なくとも、可変な要素を内包していることは確かだった。


 しかし、銀河帝国においては血こそが価値だった。

 遺産兵器を操れるか、否か。


 階級は固定されていた。〈大停止〉を生き延びた銀河連邦海兵隊の子孫の数は増え続けていたけれども、その子孫は子孫同士の婚姻の結果であって、階級間の移動は存在しなかった。結果、帝国の成長は停滞し特権階級のみが増え続けた。


 フリードリヒもまったく後悔している。

 機械と医学によって人類史上の長寿記録を更新し続けている自分自身が、いつまでも若々しい自らの肉体の衝動に従い、特権階級の代表たる皇族――息子と娘たち――を数百人単位で増やしてしまっていた。民に還元されるべきリソースが、一体どれだけ吸い上げられたことか。




 それの意味するところは?

 その結末は一体?







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