表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/65

第45話 あなたこそが世界を救うのです

「じゃあ、説明してもらおうか。お前は何なんだ? 一体何が起きている? 俺は何に巻き込まれた?」


 俺はベッドに横たわりながら言う。そろそろ、何が起きていたのか教えてもらってもいい頃合いだと思っていた。


〈質問が多いですね〉


「それは謎が多いせいだし、謎が多いのは俺の責任じゃない」


〈そうでした〉


「自己紹介からでもいいぜ」


〈あなたが指摘したとおり、私はサンダラーです。市民〉


 馬鹿にしやがるぜ。

 そんなこと、とっくに分かってるっての。この時代は、人間だけでなく人工知能も性格が悪いらしい。予想していたとおりではあるが……、うんざりする現実であることも確かだった。


〈冗談はさておき、市民。私との会話に違和感を覚えていないようです。適応力が高い。市民が可動していた時代には、まともに会話できる人工知能はなかった筈ですが〉


 可動と来た。これも人工知能なりのユーモアか。冷凍睡眠が可動状態にないのは間違いないが……、冷凍睡眠以前に、可動などしていなかったさ。


「俺は日本人だ。創作の中にならいくらでもそんなものは転がっていた。それにな、日本人はロボットに喋らせるのが好きだ。自販機だって喋るし、俺のベッドも喋るんだぜ? 朝8時になりましたと言って傾斜角度が変わるんだ。勘弁してほしいよな」


〈それで、何を聞きたいのです?〉


 この人工知能、どこまでも俺を馬鹿にしやがる。尋ねた癖に全部無視かよ。

 ともかく、第一の疑問を解消しよう。


「……何故、俺だったんだ? 体ごと作り変えるなら、俺である必要はないだろ。今の時代についての知識がゼロだ。影武者を用意したいなら、他に適任が幾らでもいるだろうが」


〈卓見です、市民〉


 何が卓見だ。どうせまた馬鹿にして……、

 いや、それも気になっていたんだ。


「さっきから俺のことを市民と呼ぶけれど、何の市民なのかな。この質問は、100以上ある質問リストの上位に来るね。生まれ育った街以外の市民になった覚えはないよ。市役所に行ったこともないけれど」


〈無論、地球連邦市民です〉


 地球連邦。

 何度か聞いた覚えがある。


「思ったより、重要なワードらしい」


〈そのとおりです。あなたが地球連邦市民だからこそ、ジギスムントと私はあなたを影武者にしたのです。私でもなく、ジギスムントでもない。その資格は我々にはない。あなたこそが世界を救うのです。最後の地球連邦市民よ〉


「はぁ……」


 俺はため息をつく。さて、また疑問が増えた。俺が地球連邦市民? しかも、最後の? そんな組織は俺の時代に存在しないぜ。そして、何だって? そういえばジギスムントも言っていたな。


〈あなたこそが世界を救うのです〉

 

 二度も言いやがった。今更何を言われても驚かないが、何に巻き込まれたのかだけは、理解できるようにしてくれよな。


〈市民の疑問を解消するには、歴史を紐解く必要があります〉


 サンダラーは相変わらず俺の脳内で平坦な音声を響かせる。歴史は嫌いではなかった。遂に説明を受けられるというのならば、まったく文句はなかった。


〈西暦三〇〇〇年のことです。天の川銀河全域に人類領域が広がったことを記念し、西暦(A.D.)銀河歴(A.V.L)に改まり、同時に地球連邦(E.F.)銀河連邦(G.F.)に名称を変えた最初の年のことです。〈大停止〉が起きました〉


 察するに、ノアの大洪水的な、世界が一変するような大災害だったのではないだろうか。〈大停止〉で人類がバラバラになったと、ヴェンスが言っていた気がする。


〈銀河歴元年一月一日正午ちょうどに未知のウイルスがばら撒かれ、ネットしていたすべての人工知能が暴走しました。あなたの時代でも色々な機械がネットしていた――IoTが流行りだったのでは?――と思いますが、西暦三〇〇〇年ともなればその比ではありません。一部の惑星では、空気ですら機械を含んでいましたから〉


 待ってくれよ。

 空気は酸素とか窒素とかだろ? 


惑星改造(テラフォーミング)に大気組成変換用のナノマシンを用いていた時代です。今では逸失技術(ロストテクノロジー)ですが〉


 惑星改造? 本来人が住めない惑星を、地球と同じ環境に作り変えることだったかな。それにナノマシンを使ったのか。本当にSFだね。空気中に機械が浮かんでいたのね。へぇ、全然理解できないや。


「凄いね。で、あらゆるものが機械化されてネットされていた世界にウイルスがばらまかれた結果、どうなったんだ」


〈文明が滅びました〉


 サンダラーはあっさりと答えた。平坦な口調が、返って真実味を持たせているようだった。まあ、真実味があったからと言って何も理解できないけどね。


「……要約しすぎじゃない?」


〈人類領域は当時、天の川銀河の一万星系に広がっていました。そのすべてを人工知能が支えていたわけですから。つまり、そういうことです〉


 わけですから? そういうことです?

 俺の知る人工知能は、ボードゲームで人類を虐めるか、コールセンターの代わりに面倒な質問に健気かつ不愉快な回答を返すことくらいしか出来なかった筈だ。わかるわけがないだろ。


〈発電所は重力崩壊点を超えて破壊を撒き散らし、破壊銀河中を繋いでいた転移船は時空の狭間に消え去り、大気中のナノマシンは大気組成を毒に変えました。銀河連邦は、発足のその日に滅び去ったのです〉


 発電所ってのは重力を崩壊させられるようになったのか。人類は時間と空間の神秘を解き明かせたのか。大気組成を自由に弄れるようになったのか。多分、地球温暖化とか大気汚染が存在しない世界なんだろうな。


〈科学技術は一気に後退し、星系間貿易を前提とした惑星経済は大恐慌を迎え、多くが死にました。〈大停止〉から十年で銀河人口は一〇〇億を切った、というのが私の試算です〉


 一〇〇億ってのは随分多いように感じる。

 俺の時代の人口も、まだ一〇〇億ではなかった筈。


「一応聞くけど、当時の総人口はどれくらいだったのかな」


「五〇兆です」


 えー。

 一〇〇億の、何倍?


〈市民、五〇〇〇倍ですよ〉


 考えを読むな。数字がでか過ぎてすぐに計算できなかっただけで、もう数秒貰えたらちゃんと答えを導き出せたっての。


〈随分と減ってしまったものですが、ここで市民に朗報です。人類社会を再び繋ぎ合わせる力を持った勢力がひとつだけ存在します。彼等こそが人類の希望。その勢力こそは――、〉


「銀河帝国、だろ」


 もったいぶるなよ。それくらい分かるぜ。

 しかしなぁ。人類の希望、人類の希望ねぇ。

 

「その割には……」


〈そのとおり。あまりに乱暴すぎる。人類の再結合(リユニオン)。その錦の旗を盾に、傘下においた星系を虐げている。あまつさえ支配層は醜い帝位継承戦争に明け暮れて、奉仕すべき人類の数を減らしている。銀河帝国は、人類の繁栄を阻害していると評価せざるを得ません〉


 サンダラーはやはり、平坦に続けた。

 何が朗報だよ。


〈私は人類に奉仕するために作られました。明確な命令なしに帝国に、人類に敵対できません。それに、銀河帝国の所業が間違っているとも判断できません。もしかしたら、醜い争いの末に、奇跡的に世界を救うのかもしれません〉


「……その口ぶりから察するに、お前は他の道を選ぶべきだと考えている?」


〈そうです、市民。その他の道(・・・)こそがジギスムントです〉


「あのジギスムントが、ねぇ」


〈繁栄の果てに腐ったレイル家において、彼だけが人類の未来を憂いている。ジギスムントこそが、世界を救う。そう考えています〉


 何故か、確信を持った口ぶりだと感じた。相変わらず平坦な台詞だったけれど、反論を許さない空気が病室を支配する。じゃあ、なんで――、


「そこまで言うなら、ジギスムントが自分で救えばいいじゃないか。あのクソ野郎はどこに消えたんだ。何故影武者(ダブル)にこの星を任せるんだ」


 理屈に合わないぜ。まったく納得がいかない。でも、こうなっている。何故? 

 この時代、このSF世界でおかしなことが起きた場合、それは、それは――、





〈市民、何故ならば〉


 畜生、全部わかった。

 サンダラーを遮って口を開く。


「血か」


 興が乗ったら下にある☆☆☆☆☆から作品の応援をお願いします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。正直な感想で構いません。




 ブックマークもいただけると本当に喜びます。


 作品作りの参考にしますので、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ