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第38話 だからここにいる

「貴様らの狙いは余であろうが」


 俺は宣言した。外套のフードを払い、銀河帝国皇子の顔を満点下に晒し、精一杯偉そうに言ったのだった。大急ぎで戻ってきたせいで、息が上がっていることは意地でも隠した。


 さて、何故戻ったか。身柄を狙っている敵の間の前にわざわざ進んで危険に身を晒していることについて、俺自身納得がいっているわけではない。だが、だが。


 やるべきことがあって、

 やりたいことがあって、

 やれることがあるのだった。


 俺は、俺は――、


「俺はやるって決めたんだ」


 ニサを死なせる訳にはいかない。そう思った。

 この強くて不憫で健気な少女の命が失われて良い筈がない。ニサは凄い。俺より幼いのに、足は機械なのに、妹を育てている。必死で生きている。そんな苦境に身を置きながら、良識と知性を捨て去ってはいない。


 俺を襲ったことなど可愛いものじゃないか! 不公平なこの世界で、恵まれた人間から財産を少々強引に移動させるくらいは、却って公正というものだ。少々強引な論理かな? まあいいさ。ニサが持つ眩さに間違いはない。だから、俺はやるのだ。


「これは……、いやはや」


 ヴェンスは呟いた。驚愕の表情を浮かべている。

 拾い上げようとした義足の少女のことは意識の外。


「ジギスムント殿下……、ですな」


「弟に見えたか?」


「ふぅっ……、まさか。ヴィルヘルム殿下は空の上ですから、これはただの理屈です」


「ならば確認の必要はあるまい」


 ヴェンスは意識を完全に俺に向けていた。これでいい。作戦の第一段階は成功だ。俺はこれから、ヴェンスの意識を引き付け続け、ニサが逃げる時間を作る。そのために出来ることは全部やる。俺がイメージする、あの糞野郎の演技を全力でやるのだ。偉そうに、冷酷に振る舞うんだ。


「余がジギスムントである。他の誰に見えるというのだ」


「ひとつ、質問をよろしいでしょうか」


「差し許す」


 お、いい表現ができたんじゃないか?

 差し許すなんて言葉、よく思いついたものだ。

 めちゃくちゃ偉そうだぜ。


 さあ、怒るなり黙るなり、好きな反応をしろ。これまで盗み聞きしていた内容から察するに、お前は帝室への尊敬の念が足りないキャラだろう。しかも、ジギスムントを好んではいない。さあ、怒れ。神経をすべて俺に向けろ!


「何故今、お姿を現されたのですか。このタイミングで出てくる意味がわかりません。御身の配下からも逃げていた理由は、我々に補足されないためだったのでは」


「……お、おう。気にしてくれるのか。君は優しいな」


 あ、マズイぞ。皇子っぽくないぜ。

 尊大な態度にキレて欲しいと思ったのだが、全然そうはならなかった。ヴェンスは静かに尋ねてきた。大人が持つ冷静さ、と言うやつなのかも知れなかった。予想外の返事に、思わず本心が出た台詞を吐いてしまった。

 

 さて、どうリカバリーをしたものか。

 と、脳みそをぐるんぐるん回したが――、


「馬鹿にしているのですか? やめた方がいいですね。小官は殿下の敵なのですから」


 ヴェンスは俺の発言に素直に応じた。彼女は違和感に気づかなかった。しかも、助言までもらえた。え、実はめちゃくちゃ良いやつなのでは? この時代で目覚めてからこっち、ちゃんと会話ができた相手は全然いなかったから、なおさらそう思った。


 まぁ、どうでもいい。俺はニサを救わねばならない。彼女が逃げ出すだけの時間を稼がなくてはならない。いまだ地に伏せ、気絶したままのニサが起きるまでの時間を。無意味な会話を続ける。


「なあ貴様、余の部下にならないか? 好きな階級を言え。昇進させてやる」


「ふぅっ。尊き血筋のお方にしては面白いご冗談ですな」


「銀河帝国の皇子は何をしても良いことになっているのだろう? 軍人ひとりを昇進させることなど、街を破壊して回ることよりは簡単な筈だ」


「噂通りのお方ではないようです」


「『暴虐皇子』とは仮の姿なのだ。余には目的がある。だからここにいる」


「つまり?」


「世界を救う、と言ったら笑うかね?」


 ジギスムントの捨て台詞をそのまま言ってやった。

 他に台詞を思いつかなかったからだが――、



「ふぅっ……、ふ、ふはっ。世界を? ふっ、ぅう………ふふ。救う? ふ」


 そして、ヴェンスは滅茶苦茶に笑った。

 退屈そうな表情を捨てて、腹を抱えて大声で長く長く笑う。


「ふぅーはっはっはっは!!!」


 俺も一緒に笑った。精一杯偉そうに。意味がわからないのはまったくそのとおり。なんだよ、世界を救うって。馬鹿かよ。




「ふふ、ふぅっ……。はぁ……、似合い、ませんね。暴虐皇子と呼ばれるお方が」


 笑い終わって静かになって、それからゆっくり姿勢を上げたヴェンスの顔には、無が張り付いている。


「はっは」


 恐怖を覚えたが、乾いた笑いを返すくらいしか出来ない。他に何が出来る? それはわからない。だが少なくとも、ニサだけは救わせてもらう。


「それでは、そろそろお縄についていただきたいのですが」


「何故だ。余の部下になれば昇進できるのに」


「殿下を捕まえても昇進できます」


「余に勝つつもりか?」


「勝利は小官の仕事であります」


「余としては、大人しく軍門に降って欲しいのだが」


「ふぅっ。挑発が得意ですな、殿下は」


 ヴェンスは姿勢を真っ直ぐ俺に向けて、強い視線で睨んでくる。

 雷霆(インドラ)Ⅱは禍々しく虹に輝いていた。

 彼女は明らかに戦意を漲らせている。


 そう、それでいい。ニサのことは忘れて、俺に集中してくれ。作戦の第一段階――ヴェンスの注意を惹きつける――は、どうやら上手く行ったらしい。第二段階がどんな結末を迎えるかは……、うーん。あまり考えたくないぜ。


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