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第24話 盗み聞きの中身が軍事的過ぎる


 瓦礫の隙間から、直ぐ近くの空を何か大きなものが幾つか降ってくるのが見えた。大きな落下傘(パラシュート)が三つ。底部からジェット噴射で減速。今度は何のお出ましですか。


「ふむ、重装備は問題なく降りてこられたか」


「選抜小隊の戦闘能力は整いました。正直、これだけで(セント)・バーナードを征服できそうですな」


 俺は、相変わらず下敷きになったまま息を潜めている。眼の前の軍人達がなんのためにここに来たのかは知らないが、価値観が合いそうもないことだけは確かだった。見つかったらどうなると思う? 考えたくもない。


 身じろぎ一つ出来ずにいる俺の目の前で、軍人たちは理解不能な会話を続ける。


「ともかくですな……。アイール隊、ルオ隊も二十ブロックずれて降りたようです。おかしいとは思いませんか」


「だから、聞きたくないと言っただろう。そのうるさい口をつぐめ」


「艦隊司令部の電脳障壁が突破された可能性は?」


「…………勘弁してくれ。司令部は尊いお方の直卒だ。不敬に当たるし、ほじくり返しても良いことがない。奴らの失点を暴いても、軍人生活は豊かなものにはならないぞ」


「では、純粋な戦術面に限定しますが、他にも気になることが」


 少佐殿は覇気のない表情をかすかに歪めて答える。


「……まぁ、それはそうだ。警保局の対応が素早い。単なる現地警察組織が一分以内に迎撃してくるとは。降下地点がずれたことよりも、こちらの方が驚きだ。総督府襲撃で指揮系統は麻痺している筈」


「そして、電波妨害はこの星の連中にも平等に働きます。ならば何故即座に迎撃態勢を取れたのでしょうか。少佐殿が仰るとおり、ハッキングの可能性も低い。ならば」


「だから、勘ぐるのはやめろ。違和感を認めると言っただろう。そこまでだ」


「司令部の失策ではなく、意図した結果では? 本作戦は奴らが主導しています。我々星戦隊(ランドフォース)にヘマをさせようと」


 ちくしょう。一体何を話しているんだ。これまで味わってきたのとは別の角度で意味不明だぜ。SF的なあれこれはもちろん今でも戸惑うばかりだが……、これは単に難しすぎる。専門的過ぎるというか、軍事的過ぎるというか。逃げ出すためのヒントがあればと思ったが、何もわからないぜ……。


「貴様は本当に話を聞かない。……細かいことはさておいて、おおらかな気持ちで任務にあたろうではないか。考えても見ろ。最大の脅威たる敵艦隊は逃げてしまった。一体どの勢力が妨害できるというのだ」


 少佐殿は不意に真面目な顔をする。


「……よしんば貴様の懸念が正しくとも、司令部は何もできんよ」


「と、言いますと」


「総督府襲撃の失敗、不可解な電波妨害、早すぎる警察組織の迎撃。すべての違和感はこの星にあり、一方で司令部は我らの艦隊と共に宇宙にある。明日以降、すべての証拠を抑えて、言い逃れできないタイミングで突きつければ良い」


「……最初から司令部を疑っておいででしたか。いらぬ気遣いをしたようで、大変申し訳ございません」


「私も小娘のままではないということだ先任軍曹。……それにしても、随分積み上がったものだ」


 少佐殿は死体の山を見上げて言った。


「何人死んだのかな? あまり殺すとヴィルヘルム殿下の統治に触りが出てしまう。おい、怒られるのは私なのだぞ」


「あー、この街の官憲を除けば、百人前後というところでしょう。標的捜索の過程でもう数十人死ぬかも知れませんが」


「一ブロックまるごと潰してそんなもので済むのか。ツイている。よかったよかった」


 百人が死んで、そんなものかだと? ツイているだと? よかったよかっただと?? 

 一体何なんだ。どうしてそんなに平然としていられるんだ。


「外出者が多かったようです。戒厳令はあまり守られていないようですな。統治に問題ありと見做さざるを得ません」


「変な星だ。ジギスムント殿下はやはり噂どおりのお方なのだろうか。罪悪感が薄れて、大変結構ではあるがな」


「何にせよ、仕事がやりやすくてありがたいことです」


「そうだなぁ……、殿下が簡単に見つかればもっとよいのだが。偶然瓦礫の下敷きになって死んでいてもらっても構わない。あー、さっさと見つからないかなぁ。暴虐皇子」


 ああ、くそ。

 薄々わかっていたことだが――、


 数十人を殺して平然としている彼等は、やはりジギスムントを狙っているらしい。そして、俺はジギスムントなのだった。くそっ、くそっ。どうしてこんな目に遭わなくちゃならないんだ。


 叫び出したい気分だ。だが、それは出来ない。

 俺は生きねばならない。生きねば、ならないんだ。ほとんど死んでいたみたいな人生を送ってきた俺などどうなってもいいが、それは両親の期待を裏切ることになる。


 こんなところで、死ぬワケにはいかない。


 何かないか。この瓦礫と直ぐ側にいる弟君の部下達から逃げ出す方法は。もし、あるとすれば。そう、ぶら下げている勲章だ。


 勲章のどれかは、認識阻害の力を持った外套のように、役に立つ遺産兵器の筈だ。ジギスムント殿下がいざという時に備えて身につけている秘密道具。


 が、俺はジギスムントじゃない。俺は自分の手札を知らない。不用意にうるさいタイプの遺産兵器が発動したら一体どうなる? 愚問だ。瓦礫ごと粉砕される。俺がジギスムントだとバレる前に殺される。奴らは軍人で、俺は無力なのだ。


 脱出する策なんて思いつかない。

 何か、誰もが想像すらしない何かが起きなければ--、


「電波妨害があるとしても、揚陸艦経由の光通信(レーザー)は機能しているのだろう。本日は快晴なり。連絡は可能だ。他の隊はどうしている?」


「作戦はプラス三九〇秒で進行中」


「ふむ、酷く遅れている――」


 少佐が言いかけた瞬間、視界が明るくなった。今度は何だ、と思う間もなく爆音が届く。少し遅れて俺を包む瓦礫がかたかたと鳴った。爆発の発生源は遠いと即座に理解できた。この十数時間で爆発に慣れてしまったらしい。


 白の兵士達は、死体の回収をやめて少佐殿を取り巻くように展開する。

 先任軍曹が叫ぶ。


「報告!!」


 機械――通信機器か――を背負った兵士が応える。


「アイール隊が接敵! ……敵勢力は南東方向へ突出しあり。複数の遺産兵器を確認。八月革命通りで応戦中との由」


 それを聞いて兵士達は警戒を解いた。なんだなんだ。なんなんだ。くそっ、今度は何が起きたんだ。 この時代はまったく俺に優しくない。


「少し距離がありますな……、七ブロック先です」


「遺産兵器があるとは聞いていないが」


「親衛隊でしょう。ひとつやふたつ、隠し持っていたとしてもおかしくはありますまい。先遣隊が総督府襲撃に失敗したのはこれが要因では」


「奥の手というわけか。それを切ったならば、ジギスムント殿下はこの街にいるということ。で、ルオ隊は?」


「こちらから聞く前に、アイール隊をカバーすると言ってきました」


「気が利くな青二才め。……実に結構。であれば、我々も動くとしよう。ゆっくりと。何がどうなっても勝てる作戦だ。犠牲はなるべく他所に押し付けようではないか。情報なしで遺産兵器と戦っても良いことなんてないからな」


「それでは」


「これより我等はティムール広場まで移動し、然るべきタイミングで敵の後背を突く。まあ、そんなタイミングは来ないかも知れないが」


「サボりですか。そこらへんは変わりませんな……。選抜小隊は移動準備!!」


 先任軍曹の叫びに応じ、兵士達は荷物をまとめ始める。


 どうなることかと思ったが、弟君の配下達はどこかに行ってくれるらしい。一か八かの賭けに出なくて済むならそれに越したことはない。ふぅ、と俺は小さく息をつこうとして――、




 眼の前が弾け飛んだ。直後に強い衝撃。身体を覆う瓦礫が強く振動して、肉体を痛めつける。瓦礫がズレて先程までよりも少し良くなった視界は、粉塵でいっぱいだった。


 例によって、俺は状況の変化を理解できていない。

 俺と同じくらい困惑した表情で背を屈める、白い軍服の兵士達が目に映る。

 今度は一体何が起きたんだ?

 視線を動かし周囲を確認する。


 徐々に晴れゆく粉塵の向こう、広場の中央に――、




 欧州大陸で発展した甲冑染みた外見だった。どろどろゆらゆらと、その装甲は溶岩のようにゆっくりと蠢いている。兜からは二本の角が突き出ていた。そして、背中には後光めいて見える多数の筒。不気味さを感じるほどの獰猛さを全身から発揮していた。



 水銀の騎士が立っている。



 その中身を、俺は知っている。

 メテオラ・オルトギース大尉、ジギスムント殿下の親衛隊長は叫んだ。

 迸る殺意を乗せて。


「死!! ね!!!」


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。正直な感想で構いません。




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