表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/65

第23話 再びの戦闘はやはり見ていることしか出来ない

 轟音が鳴り響いている。断続的な破裂音。なにかが砕ける音。うるさいなぁ、そう思った。病院の外壁工事か? 看護師さんはそんなこと言ってなかったぞ。


 いやはや、頭が割れる程の轟音だぜ。身体の不自由な俺は耳をふさぐことも出来ない。勘弁してくれよ。外壁工事が必要だとしても、もっと静かにすべきでは? ここは病院だぜ? それに、体中が痛い。何だこれは。昨夜の点滴袋の中身、新しい薬だったのか? 副作用か?


 それにしても……、破裂音と掘削音のオーケストラに、何か雑音が交じっていて――、


「逃げろ!!」


 雑音の正体は絶叫だった。

 意識は急速に覚醒する。


 そうだ、思い出した。俺はニサとアレッタの案内で質屋に連れてきてもらって、その直後目の前がいきなり弾け飛んで、砕け散った石畳の欠片が俺の顎にクリーンヒット。脳震盪で気を失った。そういうことに違いない。


 爆音と地響きを感じている。体が重い。いや、重いのは身体ではない。俺を覆う物体の方だ。俺は今、瓦礫の下敷きになっている。以前は失われていた五感を五体で感じている。体中が痛みを発しているが、出血はないようだった。奇跡だ、幸運だ。


 瓦礫に押しつぶされてなお、五体満足なことに安心するべきなのだろう。

 だが、そんな余裕は俺にはなかった。何故なら、瓦礫の隙間から見える世界は――、


 現在進行系で街が破壊されている。

 建物が爆炎とともに弾け飛んでいる。質屋だけでなく周囲の建物がほとんど倒壊していて、瓦礫から這い出てきた市民達は必死の形相で逃げ惑っている。機甲服(アーマー)を着込んで三回りは体格がよくなった官憲と思しき男が市民の誘導をしている。その少し先では、同じ機甲服が銃を撃っている。


 その火線の先には、白い軍服を纏った数十人の兵士達。


 しかし、何故だろうか。機甲服の銃撃は効果をまったく発揮しない。白の兵士達は素早い動きだが、姿勢を低くする素振りもない。銃撃を意に介さず、機甲服の男たちを様々な角度から囲むような位置へと展開していく。


 一体何が起きているんだ。


 機甲服の官憲が持つ銃――よく見れば人が持つサイズではない。機甲服がデカいせいで違和感がなかった――の火線に目を凝らす。その巨大な銃が放つ拳大の弾丸は、そのすべてが何もない空中で進路を変えられていた。恐らく、何らかの障壁(バリア)


 理屈は当然わからない。俺の生きた時代には、突き進む弾丸を宙で妨害する科学などあり得なかった。たまたま弾丸同士がぶつかるならともかく。どうせ未来世界の未来技術なんだろうなとは――、


 思えなかった。

 何故なら、銃を乱射する官憲の顔が恐怖に歪んでいるから。俺と同じくらい現状を理解していない。いや、俺以上なのかもしれなかった。敵を倒すべき己の武器が、まったく効果を発揮していないのだから。


 未来世界でも理解の外にある技術があるとすれば、それは遺産兵器(レガシー)だ。


 くそっ、勘弁してくれ。今度は一体どんな代物が現れるんだ。襲撃者が持っていたでかくてゴツゴツした光線銃か、オルスラのような禍々しい甲冑か……。瓦礫を少しかき分けて視界を広げると、白の兵士達の向こう、建物を押し潰してできた瓦礫の山の上に――、


 虹色に輝く、巨大で鋭い立体が聳え立っている。


 ピラミッドを二つ、底面で重ね合わせた形だった。

 双四角錐。数学の教科書に載っていたかもしれない図形。


 へぇ、こういうのもあるのか。

 意外過ぎるシルエットに場違いに間抜けな感想を漏らしながら、機甲服の官憲が集中砲火を浴びて死んでいくのを、俺は眺めている。


 あたりには多くの市民の死体。そして数体の機甲服。あっけなく命が失われていく衝撃的な光景だった。直ぐにこの戦場は静かになった。街を襲った白の兵士達の勝利という形で闘争の幕が下りる。人が死ぬのを見るのは、これで二度目だった。


 目を瞑って夢だと思い込みたいというのが正直な気持ちだったけれども、二度目だったから耐性ができていたようだ。悲惨な光景を前に、気を失うことも出来ない。もちろん喜ぶべき成長とは思えない。




 ■□■□■




 戦闘が終結してから数分が経っていた。


 俺は相変わらず瓦礫の隙間に身を隠している。瓦礫に押し潰されそうになりながら周囲を観察している。建物が密集していた筈なのに、随分と風通しが良くなってしまっていた。本当ならば隙を見つけて逃げ出したいところだったけれど、そんな都合の良いものは存在しなかった。


 この街を破壊した白い軍服の兵士達は、既に周囲にまんべんなく散っていたし――、


 遺産兵器がそこにある。ピラミッドを重ね合わせたような、異形の兵器が。虹色に輝いている。圧倒的な存在感。この惨劇を作り出した元凶、なのだろう。


 この不自然な立体が降ってきたからこそ俺は気絶したんだ。今気づいたことだが、どうやら質屋だった場所の上に浮かんでいる。この遺産兵器が街を破壊し、その巨体から兵士を降ろし、殺戮してのけた。他に説明はあり得ない。


「少佐殿、周囲の安全は確保しました」


 白い軍服を纏った兵士が虹色の双四角錐に向かって声を掛けた。その直後、まるで陽炎のように巨大な立体が掻き消えて――、


 ひとりの女が現れた。周囲に展開した兵士たちと同じく白の軍服を着ていた。

 退屈そうな表情をぶら下げた、垂れ目の若い女だった。顔立ちは整っている。女の帝国軍人は全員美人なのか、と思った。


 ただ、軍人とは言ってもオルスラと違って髪は赤いし、長い。それを後ろで一つにまとめている。


「座標が随分ずれている。予定降下地点は二十ブロックも先だぞ。一体何が起きたのだ」


 少佐殿、と呼びかけられた女は手首の端末から浮き出た立体映像(ホログラム)を眺めている。地図らしい。口ぶりから察するに、どうやら予定が狂っているようだ。俺は息をひそめて会話に耳をすませる。


「申し訳ありません。ヴェンス少佐殿」


「謝罪が聞きたいわけではないよ、先任軍曹。説明が欲しいのだ」


「……それが、わからないのです。突入ルートは完璧だった筈ですが、何故かこうなりました。電波妨害の影響と思われますが、なんとも」


「私の〈雷霆(インドラ)Ⅱ〉に現代のハッキングは通用しない」


「遺産兵器に現代技術は無力。よく存じております。それだけに不可解です。何か裏があるのでは」


「裏、ねぇ……。いや、待て待て。面倒なことを言い出すつもりか? そうだ! 不運が重なったのだろう! 雲がめちゃくちゃ出ていたとか、磁場が悪さをしたとか。そんなところでどうだ」


 少佐殿は急に惚けたようなことを言い、先任軍曹は顔をしかめた。俺が身を潜める瓦礫のすぐ目の前で会話をしてくれたお陰で、すべてがよく観察できる。


「呑気過ぎます。もう少し裏も考えていただかなくては……」


「貴様が勘ぐり過ぎなのだ。昔から変わらんな」


「少佐殿と違い、大人の期間が長いですからな。大人は早々変わらないものです」


「私だってそろそろ三十路が見えているのだぞ。子ども扱いはそろそろ辞めてくれないか」


「小官からすれば、少佐殿は幼年学校入学直後の愛らしい少女のままです」


「勘弁してくれ! 貴様、教官だった頃はもう少し真面目だった筈なのだがなぁ」


 そして二人は笑う。気心をよく知った者同士の会話そのものだった。

 それを聞いて、俺は恐怖を覚える。おいおい、お前たち人を殺したばかりじゃないか。それなのに何故、こんな状況でにこやかに談笑出来るんだ?


 目覚めてから恐怖を覚えてばかりだな。

 まったく慣れることができそうにない。


 笑うふたりの背後では、兵士達が黙々と死体となった一般市民を積み重ねている。

 


 興が乗ったら下にある☆☆☆☆☆から作品の応援をお願いします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。正直な感想で構いません。




 ブックマークもいただけると本当に喜びます。


 作品作りの参考にしますので、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ