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第21話 責任を感じるべきなのか

 観光案内は中止となった。俺は今、路地裏を歩いている。さっきまでいた大通りでもそれほど人は歩いていなかったが、裏路地は完全な無人だ。安心するぜ。


「最短距離なら十分くらいで質屋に着くけど、本当に観光はいいの? なかなか他の星で見られない文化財があるし、けっこういい街だったでしょ? いくら後ろ暗いところのある逃走者でも、絶対に街歩きした方がいいけど……」


「逃走者と察しているなら観光を勧めるな。どんだけ地元愛が強いんだ」


「偉そうな台詞はやめてくれない? えーと、臓器の価格表はどこにしまったっけなー」


「はい、大変申し訳ありませんでした」


 義足の少女がすこし前を歩きながらぶつくさ言って、俺は文句を投げかけて、脅されて、謝罪した。


 観光案内から道案内に切り替わったのはありがたいし、裏路地に移動してくれたことはこの上ない喜びだ。だが、くそっ。この少女、会話できそうな雰囲気を見せるくせに、たまにつっこむと虐めてきやがる。どういう性格をしている。


 それにしても、当たり屋を生業とするような奴に地元愛があるとは……。

 いや、うん? いい街? 人が沢山いる街ばかりがいい街とは言わないが、通常のいい街ってのはもっと賑わっているものなんじゃないか? 街一番の大通りがあんなに寂れていてどうしてそんなに自慢気なんだ。


「何その顔。大したものでしょ。ゴミはほとんど落ちていないし、石畳も綺麗に整えられてる。大通りには、という但し書き付きだけど物乞いはいないし、代わりの脚も貰えるくらいには行政が機能してる」


 そう言って彼女は地面を蹴った。石畳が弾ける。破片がまた顔に当たる。

 確かにその足は立派だね。


「すべては、この星でダイオライトが採れるから。この街の産業も鉱業よ。あなたには寂れているように見えるようだけど、日中はみんな地下で働いているからね。ここも夜は賑わうの」


「はー、そんなもんかね」


 ダイオライト? なんだったかな。聞いたことがある。

 そうだ。オルスラが今朝、今日の予定を宇宙戦艦の展望台で告げている時に出てきた単語だ。確か、この星が産出する希少な鉱物資源だったかな。働き手が地下に潜ってるから大通りが過疎ってるってわけか……。


 いや、待て。違和感がある。みんなが地下で働いているにしても、さっきから豊か豊かだと主張する都市にしては――、


「もう少し人がいてもいいだろ? 希少資源採掘っていう立派な産業があるなら、付随して色々他の商売が盛んになるんじゃないのか? そしたら人通りもあるだろ」


 かなり核心をついた指摘を――もしかしたら、人生で一番冴えているかもしれない――したつもりだったが、義足の少女は溜息をもって返事に代えた。あれ? そんなにおかしいことを言ったかな。


「今日は特別というか……、異常というか、珍しいことが起きているというか。えぇ? マジで知らないの? 信じられない。襲われたのが私達で本当に良かったね」


「知らないんだ! 知らないんだ! ばーかばーか!!」


「むぅ……」


 義足の少女はともかく。そしてアレッタ、そんなに若いうちから人を罵倒するのはよしなさい。ろくな大人になりませんよ。もちろん口には出さない。お姉さんが怖いからね。


「……知らないと言えば、俺は君の名前も知らない。そろそろ教えてもらえないか?」


「あたしはアレッタ!!」


「アレッタは可愛いねぇ」


「あたしはかわいい!!」


 うん、幼女の名前は知っている。滅茶苦茶可愛い笑顔を俺に見せてくれた。いろいろ買ってあげたら懐かれたようだ。初対面時の、あの恨みに満ちた表情は何だったんだよ。


 無邪気な幼女のことはともかく、少々緊張を感じている。なにしろ、女の子に名前を尋ねるのは初めて……、多分初めてだからだ。小学生の頃は体が動いていたからそんなこともあったかもしれないが、何しろ小学生の頃なのでよく覚えていない。


「女性に名前を聞く前に、自分から名乗るべきなんじゃないの?」


 そういうものか。そういうものなんだろうな。確かに俺が読んできた小説でもそのようなシーンが散見された。大人しくセオリーに従うべきだろう。


「俺の名前はジギ……」


 おっと、まずい。

 逃走中なのだった。


「ん? 名前は?」


「あー、ヴィルヘルムだ。よろしく」


 弟君の名前を借りることにしました。

 これで問題はなかろう。この姉妹が今後口を滑らして、ジギスムント(本物)の親衛隊に俺の逃走経路がバレてしまっては困る。ふっ。とっさの機転で身バレ回避だぜ。もしかしたら、この街の当たり屋が全員弟君に体当たりしてくれるようになるかもしれない。


「うーわっ。完全に帝国中枢のお貴族様の名前じゃん。どおりで世間知らずなわけだ。やっぱりもう三個ほど指輪を貰える?」


「かねもち! せけんしらず! ゆびわもっとちょうだい!!」


 あるれぇ? タカり方が激しくなった。全然想定と違う。おかしいな。嘘こそついたが、普通の自己紹介のつもりだったんだぞ。


「ともかく!!」


「いきなり大声を出さないで」


「あ、はいすいません。それで? 俺は名乗ったよ。もう少し自己紹介が欲しいというのなら、そうだな。君にタカられるためにこの街に来た男が俺だ」


「嫌味のつもり? 私はニサ、ニサ・オチキス。まあ、当たり屋になるために生まれた女。そんなところかな。ははっ」


 そんな嫌味の返し方があるか。性格が悪すぎる。怒鳴り返したい気持ちはあった。何の罪もない俺を襲っておいてその言い草はなんだ、と。自分の所業を正当化したいのか、と。


「そうかよ……」


 だが俺は、顔をしかめることしかできない。ニサの表情が自然だったから。あまりにも自然に、自らの不幸を受け止めているように見えたから。どうしてそんな風でいられるんだ。


 義足の性能が良いから気づけなかったが――、


 彼女は幼い妹の面倒を見ている。彼女は運良く捕まえた金づるに食料を買い込ませている。彼女の妹は俺と出会った時、年齢にそぐわない恨みに満ちた目を向けた。彼女の妹は姉に懐いている。彼女は襲った相手に丁寧に観光案内をした。彼女の妹には無邪気さが残っている。彼女は結局、襲った俺の内蔵を剥がなかった。彼女の口調はぶっきらぼうだが、知性と育ちの良さが伺える。


 そして、彼女は彼女の足は生まれ持ったものではなく、彼女は――、




「君は意地悪だね」


 彼女は生活のために当たり屋をしている。

 何も言い返せないじゃないか。


「色々あってさ」


 ああそう。色々、ね。

 怖くて聞けないぜ。


 義足の少女はきっと、しっかりとした家庭で、立派な教育を受けて育ったのだろう。それが何故、こうなっているんだ。意外と優しい奴かも知れないと、何も考えず気安く接していた俺が滑稽に思えてくる。


「それで、先程の質問の答えだけど」


 質問? 何か質問したかな? 義足の少女――ニサ・オチキス――との会話がいきなり重くなってしまい、忘れてしまった。えーとえーと。


「ほら、今日は特別とか異常とか言ったでしょ? 流石に普段はもう少し人通りがあるって」


「言ったような、尋ねたような。そうでもないような……」


 ふーむ。マジで何か尋ねたか? 俺がしたらしい質問を思い出そうとしていると――、

 不意に開けた場所に出る。視界が一気に広がった。乾いた大地と街並み、そして青い空。街を一望する広場というか、展望台らしい。気が付かない間に高いところに来ていたのか。


「どうして知らないのかマジで理解に苦しむけど……、だからこそのカモということなのかも。ほら、あれを」


 ニサが遠くを指さした。言われるがままに街を見下ろす。うむ、異国情緒溢れること以外には、別に何もおかしなところはないように思えるけれど……?


「そうじゃなくて。私の指先」


「んん?」


 彼女の指先を辿ると、地平線すれすれに黒いシミのようなものが広がっていた。


「おい、あれって……」


 黒煙。もちろん映画や記録映像を見ての知識でしかないが……、多分、街が燃えている。煙の規模からして大都市が。何故? とは思わなかった。俺はその理由を知っている。いや、理由そのものなのだった。


 ジギスムントを逃したことに怒り狂った弟君が報復に出た。それ以外にはあり得ない。


 俺は悪くない……、筈だ。ジギスムント(本物)が悪い。身柄を狙われて逃げないほうがおかしいし、そもそも親衛隊が勝手に救ったんだ。俺はほとんど、間抜けな声を上げながら腰を抜かしていただけだ。そうだ、俺には関係ない。責任はない。


 畜生、あんなに遠いのに、黒々とした煙が地平線の彼方を覆っている。一体、どれだけの人間が死んだんだ。まったく実感できない。くそっ、本当に俺に関係がないと、確信をもって言えるか?


 俺の葛藤をよそに――、


「久々のクーデターかなぁ。星府の半分が燃えてるんじゃないの」


「いっぱいしんじゃったね!!」


 ニサは昨日の天気を振り返るような無関心さで都市の炎上を語り、アレッタは天真爛漫に無邪気に笑うのだった。


「そうだね。ははは……」


 分かっていたことだけれど、価値観が違う。


 興が乗ったら下にある☆☆☆☆☆から作品の応援をお願いします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。正直な感想で構いません。




 ブックマークもいただけると本当に喜びます。


 作品作りの参考にしますので、何卒よろしくお願いいたします。

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