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第20話 義足少女の観光案内

「今私達がいるのが進歩通りといって、この街で一番大きな通り。酷いネーミングセンスと思うだろうけど、感謝通りとか展望通りとかダサいのが多いんだよね。由来は知らない。この星に植民してから一八〇〇年くらい経っていて、住んでる人間もあれこれ入れ替わっているから」


「おう」


 フードを深く被りつつも周囲を伺う。確かに広い通りだった。片道三車線といったところか。一番大きな通りという割に、車は走っていないし、人通りも少ない。特に進歩は感じない。


「で、あっちに見えるデカい広場がティムール広場。真ん中で聳えてる馬に乗ったおじさんの像、西暦の二〇世紀に作られた本物らしいよ。もちろん由来は知らないけど」


「へぇ」


 通りをずーっと行った先に馬に跨る人の像が聳えているのを、フードの端からチラリと確認する。何百メートルも先のはずなのに、像の輪郭がしっかりとわかった。余程大きいらしい。


「そう言えば、異星人はこの街並みを見て興奮するらしいね。私達の先祖の一部は地球にいた頃は中央アジア? って地域に住んでいたらしいけれど、本当に当時の街並みに似ているみたい」


「ふむ」


 先程は欧風と表現しておいて何だけれど、言われてみれば中央アジアっぽいかもしれない。通りの名前もそうだし……、煉瓦造りの街並みは確かに乾いた感じだ。通りに生えている植物もオアシス風に思えるぜ。


 変に大人びて見える義足の少女の説明を受けながら、俺は相槌を打ち続ける。

 当たり屋以外の何者にも思えなかったし、可愛い外側の裏に何を隠しているのかはまったく理解の外ではあったが、義足の少女の説明は意外にも大変丁寧であった。完璧な観光ガイドだ。


 よって、情報を着実に収集することが出来た。正直、誰かに教えてもらわなきゃ、ここまで知識を積み上げることは出来なかったぜ。この少女の話を総合すると、俺が今いるこの星は――、


 地球からの移民が作り上げたものらしい。

 つまり、ジギスムントの法螺はマジだったということ。別の世界とかじゃなくて、馴染みのある歴史の延長線上だ。地球があって、人類は無事に宇宙に進出して、この星にも至ったというわけ。まあ、依然として嘘みたいな話なんだけれど。


 ともあれ、義足の少女の説明は非常に分かりやすい。いちいち「由来は知らないけど」と付け加えるのは案内役としてどうかと思うが。


 自分が今いるこのSF世界がどういう場所か、地に足ついて理解できた気がする。彼女は、ジギスムント(本物)やオルスラ大尉のように、わけの分からない用語を連発するようなことはなかった。それがどれだけありがたいか――。


「今時〈大停止〉前の街並みを残している星は帝国広しといっても数えるほどだから、珍しいんだろうね。銀河中の人工知能が暴走したその瞬間、この星の人工知能のほとんどは更新作業(アップデート)中だったから。当時は惑星全体がエーオン・シミズ社の植民地みたいなものだったけれど、それがかえって良かったのかも……」


「いやいや待て待て。急にツッコミどころを量産するな!! わけの分からない話をするな!!」


 大停止? 人工知能が暴走? エーオン・シミズ社?

 話が違うじゃないか!


「君はわかりやすい説明をしてくれるキャラじゃなかったのか!!?」


「は、何? キャラ? いきなりうるさいよ」


 先行する彼女が振り返って言った。睨まれる。コワ。同時に、何かが顔にぱらぱらと当たるのを感じる。ああ、振り向きざまに凶悪な義足で石畳を砕いたのか。ふっ、この俺が二度も暴力に屈するとでも?


「はい! すいません!!」


「…………」


「なんだよ。俺が無様だと言いたいのか」


「急に強気にならないで……。無様だと言いたいし、あなたさ、さっきから挙動不審すぎない? フードをしっかり被って、視線をキョロキョロと……。いや、もともとそういう人なのかもしれないけれど」


 おっと、この俺がそんな真似を? 無意識の行動かな。だが無理もないことだ。自分でも忘れがちだが、俺は脱走中なんだ。


「どうしたの? 知らない街に来た、というだけでは済まない挙動不審だよ」


「なんでもない。ちょっと、大通りは怖いなーってね」


 さっき身包みと内蔵を剥がされそうになったばかりでもあるしな。


「私達と一緒なら大丈夫。私の義足は目立つから。いくらこの街の人間でも、身内の知り合いを襲うマネはしないよ」


「ともかく、君という案内役を得た今となっては、わざわざ大通りを歩きたくない事情があってだね」


「訳あり感が凄すぎ。しかもお人好しでしょ? これ以上のカモがこの銀河に存在するとは思えない」


「うるさい。なあ、そろそろ裏路地に入ろうぜ。俺は表通り恐怖症なんだ」


「なにそれ……。うーん、しょうがないなぁ」


 彼女は掌を上にして差し出した。

 綺麗なお手々だね。


「なんだいそれは」


「わからないワケないでしょう」


 畜生、タカられまくっている。

 高そうな宝石の嵌った指輪をもう一つ渡した。


「護衛料にしては高いと思うぞ」


「授業料も兼ねてますから」


「かねてますから!!」


 幼女が復唱した。

 畜生、アレッタは可愛いね。


「本当に何も知らないでここに来たの? 恐れ知らずにも程がある。馬鹿なんじゃないの?」


「ばーかばーか」


「いやなに、いろいろ急だったんだよ。子供には分からないだろうけど、責任ある大人にはいろいろあるんだ」


「いろいろあるのは結構だけど……、この星で最も豊かな部類に入るこの街ですら、治安に問題があることくらいは知っておくべきだったね。知っていれば、私にたかられることもなかったのに」


「どの口でそれを。いや待て。最も豊かだって? そうは見えないけど……?」


 どう見ても寂れてるぜ。街一番の大通りのくせに人影はまばらだ。俺が知る唯一の都市、つまり我が故郷でももう少しマシだった。


 俺の故郷は県庁所在地だったけれど、豊かさで言えば国内トップ100に入るかどうか怪しいものだった。人口が減り続けていたらしいし……。まあ、寂れるのを耐え続けている、といったところか。ともかく、そんなどん詰まりかけの我が故郷――病室の窓からの景色しか知らないが――よりも、圧倒的に寂れて見える。


 素朴な疑問を口にしただけのつもりだったが、二人は驚愕の表情で俺を見ている。


「あんちゃん、どこの星から来たの?」


「そんなに違和感ある?」


「おかしいよ。今時の銀河系でそんなに世間知らずなの、ペルセウス腕本領の大貴族くらいのものじゃない? 変なの」


「お、おう……」


 ミスった。

 大貴族どころか皇子だし、おまけに時間旅行者でもあるぜ。


「帝国の領土はどこもこれくらい寂れてるよ。この星を含めたオリオン腕は特にそう。〈大停止〉の爆心地たる地球に近いからね。まぁ、千年以上前の話だけど」


 どこもこんな感じだって? 西暦四〇〇〇年だってのに? 歴史が逆回転でもしたのかよ。それに……、〈大停止〉? さっきも聞いたが、何だそれは。マジで何を言っているかわからん。


「何その顔。冗談にしても物を知らなさ過ぎる。これくらいはアレッタでも知ってるよ」


「そうよ! あたしではなんでもしっているのよ!!」


「偉いなぁアレッタは。次の店でも何でも買うといい。ただし、次はお姉ちゃんにねだってね」


「あんちゃんのお金で食べたい」


 やっぱり可愛くないかも。

 いやともかく、観光案内や世界観説明にはもう我慢できない。限界だ。わけのわからない単語の意味を調べるのは後にすべきだ。俺は逃走中なんだ。


「あー、そろそろ観光案内はストップで頼む。俺は今直ぐにでも質屋に行きたい。ちゃんと質屋に連れて行ってくれたら、寛大にも指輪をもうひとつくれてやろうではないか」


「また脅されたいの? もともと私のもので、半分返してあげたという認識なんだけれど」


「すいませんでした。どうかお慈悲に縋らせてください」


「ま、一応は約束だからそろそろ質屋に案内するか……」


 はい。そうしてください。


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。正直な感想で構いません。




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 作品作りの参考にしますので、何卒よろしくお願いいたします。

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