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第19話 タカられているように見えるが見事な交渉術の結果である

「あんちゃん、もういっこ!!」


「……ん、ああ。買ってやる買ってやる。店主の旦那、この幼女にもう一つお願いね」


「あたしはアレッタよ! やっぱりひとつじゃなくてぜんぶほしいわ!!」


「えぇ……、全部? 結構するんじゃないの」


「買う以外の選択肢があると思うの?」


「あっ、はい」


 結局いくつ買ってくれるんだ、とる菓子屋のおじさんが眉を上げている。俺は義足の少女に向かって頷く。彼女は俺の内ポケットから金貨を一枚強奪し、自分の財布から紙幣を数枚取り出して菓子屋のおじさんに手渡した。


 流れるような挙動。あっという間だった。

 文句を言う暇もなかった。


 義足の少女が大量の菓子が入った包みを受け取り、幼女にそのまま渡している。幼女は顔を綻ばせていた。はいはい、マジで可愛いね。無邪気さの化身かな? 


「はぁ……」


 ため息をつく。いったいどうしてこうなった。俺は何故、幼女に菓子を奢ってやっているのだろうか。本当なら、今頃遠くに逃げている頃なのに。


「いったいどうしてこうなった……」


 すぐ目の前で、義足の少女が跳ねるように歩いている。実に機嫌がよさそうだ。人の財布で買い物ができるなら、そりゃあ楽しいだろうさ。そして、その隣には妹のアレッタだ。こちらは満面の笑みで菓子を頬張っている。幸せという感情を具体化させたら、こうなるのかもしれない。


 まあ、幼女の可愛さを素直に受け止めることは出来ない。軍服のポケットに入っていた指輪と金貨、その半分は既に強奪されていた。そうとも。俺は今、当たり屋姉妹に貴重な逃走資金の半分を提供した挙げ句に、更に浪費させられているのだった。不服だぜ……。


「何か言った? 命を拾った上に財産全没収をも逃れた癖に、幸運を噛み締めていない音がしたような」


 義足の少女は振り返らずに言う。先程までの丁寧語はあっさりと捨てさられていた。くそう、せめてこっちを向け。俺は年上だぞ。多分三、四歳は……、いや、二〇〇〇歳も歳上なんだぞ。


「どんな音だよ。あと年上を敬え」


「ふっ……」


 失笑が返ってきた。くそう、完全に馬鹿にされているぞ。そんなに俺が惨めに見えるかよ。あと、せめてこっちを向けよ。


「あなたが死なないでいるのは、私のおかげだということを忘れないでね? 残りの指輪を、肉と骨ごと回収してもいいんだから」


「ぐむぅ……」


「あんちゃんかわいそう!」


「おいアレッタ。可哀そうなんかじゃない。君が美味しい菓子を頬張っているのは、すべて俺のおかげであるということを忘れてはいけないよ」


「私の大事な妹に『おい』って言った? 私達とあなたはそんな態度を取れるような仲じゃなかったと思うんだけど」


 義足の少女は石畳を軽く蹴って――破片が飛び散る。痛いぜ――、振り返る。その顔には満面の笑み。俺以外の誰かが見たなら、美少女の無邪気で可愛い笑顔としか受け止めないだろうが……。


「はい、すいませんでした……」


 この笑顔、言葉とも声色ともまったく合っていない。コワ。俺は彼女の本性を知っている。脅迫以外の何物でもないぜ。おい! 俺が君の義足にまったく太刀打ちできないからってなぁ! 調子に乗りやがっ――、


「さて」


 義足の少女は言った。


 ――てよ……ぉ……。

 ん? 様子が変わったな。


「大分付き合ってもらったし、アレッタも楽しそうだし、そろそろ対価を支払おうかな」


「……?」


 対価? なんだそれは。日常生活でなかなか聞かない単語だな。


「……あなた、襲われたのが私達で本当に良かったよね」


 彼女はため息をついてから言った。何を呆れることがある。まったくわけがわからない。何を言っている。


「身包み剥がすかわりに、この街を案内する約束だったじゃない。質屋に行きたかったんでしょ?」


「あ」


 忘れてたぜ。財産半分を抵抗なしに渡す代わりに、道案内を要求したのだった。等価交換だぜ。対価だぜ。


「そうだったそうだった! お前との丁々発止の劇的な交渉戦の結果、俺は道案内を勝ち取ったんだった!! 大勝利だ!!! はっはっは!」


 俺は高笑いする。それを見て、アレッタは呆れ顔を隠そうともしない。もちろん大勝利なわけがなかった。中勝利でも小勝利でもない。俺が道案内を勝ち取った経緯は――、




「何卒! 何卒お許しください!!」


「……ねえちゃん。このあんちゃん、かわいそうになってきた」


「そうね……。こんなに綺麗なドゲザ、銀河上網(Gネット)の時代劇以外で初めてみたよ。余程困ってるんだろうね……」


 ――経緯は、


 余りに情けなさ過ぎる俺を不憫に思ったこの義足の少女が、「ここまで卑屈だと、流石に良心が痛む」と言って、引きつった笑みを浮かべながら譲歩してくれたに過ぎない。


「はぁ……、助けてあげよっか。いいよね、アレッタ」


 幼女は姉を見上げて、とりあえずと言った風で頷いていた。


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