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第1話 不治の病、日本生まれ病室育ちの少年

 宇宙戦艦を見たことはあるだろうか。


 勿論ない筈だ。宇宙戦艦というものは、映画かアニメでしかお目にかかれない代物だからね。21世紀初頭に生きる俺のような人間であれば、絶対にノーと答えるだろう。だが、重々承知の上での発言だ。常識知らずを代名詞とする俺だけれども、それくらいは知っている。


 そんな無益な質問を何故、わざわざしたかといえば――、


 今、乗り込んでいるんだよ。

 俺が、宇宙戦艦に。


■□■□■


 まずは自己紹介といこう。


 俺は西暦2012年生まれの18歳、通信制高校の3年生……、ということになっている。日本で生まれて、日本で育っている最中だった。パッしたところが一切ない、存在感のない男子である。宇宙戦艦なんて代物に縁なんてない。そんなものは数十年か数百年か先に存在するものだから、現代日本男児にとって映画化アニメの中の存在である。


 まあ、宇宙戦艦のことはともかく。なにかひとつ、揺るぎない個性を挙げるとすれば――、病院のベッドと付き合いが長い。これに尽きる。


 正確に表現すれば、不治の病に侵されている。

 現代の科学と医術ではどうしようもない類の病を患っている。

 全身の筋肉が動かなくなり、最終的には心臓が止まって死ぬ、そんな病。


 人間の遺伝情報すべてを書き出せるようになってから数十年が経過している筈なのに、どうしてこんな目に。そろそろすべての病が根絶されていてもいいんじゃないのか。


 と、苦情を申し立てたい気持ちはもちろんあるが、21世紀の科学はそれ程完璧じゃない。あれこれ高価な機械と薬を使っての延命しか選択肢のない病はまだまだ多い。俺の病は、治療不可能かつ原因不明だ。


 ともかく。


 症状が重くなってきた10歳以降、俺の人生はすべて県立病院の中にある。

 ベッドに横たわり、他には何もしていない。横たわり、横たわって、横たわり続けている。どんなに気合を入れてみたところで、最近は瞼すら動かない。もちろん手足も動かない。何も出来ない。最後に歩いたのは何年前のことだったかな。


 太かったり細かったりする管を身体のあちこちに繋いで、機械があれこれ自動で薬を投入してくれて、それでやっとぎりぎり生きている。


 どう楽観的に見積もっても大人になれそうもない。

 過去に例がまったくない病のようで、もしかしたら俺の名前が病名になるかもしれない。光栄だね。医学への貢献さ。涙が出る。


 さて、更に重要な情報を付け加えよう。俺の余命は、だいぶ短いらしい。大人になれそうもないどころではなく、明日をも知れぬ状況にある。


「残念ですが……」


 担当医師がそう言ったのを最近聞いた。会話相手は両親だと思う。泣き崩れる音が病室にまで聞こえてきた。俺の死を悲しく思ってくれる存在は両親くらいだ。身体は動かないが、聴覚は生き延びている。補聴器がたるんだ鼓膜をサポートしてくれている。


 とは言っても、自分の余命を知ったところで、特に絶望が深まったりはしなかった。

 自分に未来がないことなんて、とっくに受け入れている。


 既に十分絶望している。この病との付き合いは長いし、瞼すら動かせなくなってからはだいたい半年かな。朝か夜かも分からない時間に意識が覚醒して、朝か夜かも分からない時間に眠るだけ。無力感にも流石に飽きる。


 しかし――、


 何もできなかった自分への歯がゆさ?

 みたいなものは確かに感じていた。


 せめて、この世界に生まれた証拠をなにか残したかった。そう思っている。

 何かをしたかった。俺を生かし続けた両親と、病院の先生と、看護師達のために。見返りなんて一つもないのに、俺のために時間を費やしてくれた彼らのために。


 でも無理だ。近い将来必ず俺は死ぬ。後、何日生きられるのだろう。さっさと終わりにしてもらっても構わないのだが……。何もできないし、どうせ身体は動かない。


 今日もまた、いつものように絶望感を抱えながら眠りについた。

 朝になったら、動かない瞼越しに電灯の明かりを感じるのだろう。


 そして、未来に展望を描きようもない俺は目を覚まして――、


 ここで冒頭の問いに戻る。

 宇宙戦艦を見たことはあるだろうか。


 俺はあるぜ。今、宇宙戦艦に乗り込んでいるからね。

 はい? どういうこと?



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