1章 ここから始まる旅!
第1話:この世界に来る前
西暦2022年 12月24日 PM:21:15
「お先に失礼します!お疲れ様でした!」
ふ~、やっと終わった~。今日で8連勤か・・・シフト埋めの為とはいえ、さすがにきつい。
まぁ、時給上げてくれるって言ってたし、いいか。
そうして、本屋でのアルバイトが終了し、いつもより人の多い大通りを、一人歩く。
歩いていると、雪がちらついてきた。最近、天気予報外れてたんだけどな~。なんで、今日は当たるんだ。
小学生の頃は、雪が好きだった。雪が積もったら、友達と雪合戦をしたり、雪だるまを作っていた。よく、手と足が霜焼けになったものだ。だが、今は寒い、通学に邪魔などの理由で、あまり好きではない。
「雪だ~!」「雪、降ってきたね!」
周りにいる多くの男女は雪を見て興奮している。
「あー寒い。なんでこんな日に俺は1人悲しくバイトなんだ・・・」
そう、世間はクリスマス・イヴ。多くの男女が共に過ごす日だ。
みんな何をしてるんだろう。
スマホを取り出し、イソスタを開く。周りの友達は彼女と過ごしたり、クリスマスパーティーをしているようだ。
正直、羨ましい。だが、そのようなイベントとは残念ながら縁がない。
告白の通算成績は0勝3敗。
”もっとアタックしろ!”や”次は成功するって!”といわれるが、正直、自信を無くしてしまった。たった3人に振られただけだと思われるかもしれないが、僕のメンタルには十分響いた。もし、可視化できるなら、今にも粉々になる寸前だろう。メンタル弱くてごめんなさい・・・
「あ~高校性になったら彼女できると思ってたんだけどな・・・」
現実は自分の思い通りにはならない。この世界の誰もが夢を見るだろう。だが、夢は夢。当たり前だが、全員が上手くいくとは限らない。もちろん叶えるために、それなりの努力は必要だ。だが、努力をしても叶わないこともある。
「まぁ、いいや。早く家に帰ってゲームしよ。今日は22:00からレイド戦あるらしいし。」
多くのゲームをこれまでプレイしてきた。僕にとってゲームは癒しであり、現実の辛さを忘れさせてくれる大切なものだ。最近はMMORPGにハマっている。これまでにもいくつかプレイした。ジョブはほとんど魔法職を選んでいる。
”魔法使い 白魔術師 黒魔術師、付与魔術師”など。あとはたまに魔法戦士なんかもやっていた。
魔法と剣、両方を使い、敵を倒す。とても気持ちがいい。
今日のレイド戦のボス報酬は美味しいらしい。しかも、一定確率で魔導士専用装備をドロップする!
魔導士の僕としては見逃せない。これは参加するしかぁない!まぁ、強制参加なんだけど・・・
そうだ!帰る前にコンビニでスイーツでも買おうかな。せっかくのクリスマスだし。
近くのコンビニに寄り、中に入る。
「いらっしゃいませー!」
意外とスイーツが残っていた。どれにしよう。ここは無難にケーキにするか。
それよりもどこからか、視線を感じるような。
肩を軽めにトンットンッと叩かれる。
「玲君じゃん!やっほー!何買うのー?」
ん?この声は。
振り返ると、見知った女性が立っていた。
「あ、咲さんこんばんわ。ケーキでも買おうと思って。」
彼女は僕がやっているゲームで同じギルドの人だ。最近、近所に住んでいることを知った。
「そうなんだ!私はいつものこれ!」
カゴをみると缶ビールが5本入っていた。彼女は大のお酒好きであり、通話をするといつも酔っている。
「お酒もほどほどにしてくださいよ。この前なんて酔ってて味方攻撃してましたし・・・」
「あはは・・・それよりもな~に。私の心配してくれるの?玲君やさし~!」
バシッ!背中を強めに叩かれる。
この人既に酔っているんじゃないか?まぁ、気にしないでおこう。
「ここで喋るのもあれなので、会計済ませましょう。」
「ふふ~ん。今、機嫌が良いから、お姉さんがおごってあげよう!」
「え!いいですって。自分で払いますよ。」
「まぁまぁ。お兄さんご遠慮なさらずに。」
ここは甘えておこうかな。こうなったら断るのも申し訳ないし。
「すみません。ありがとうございます。」
「いいって!いいって!今日のレイド戦、頑張ろうね~。もし、魔導士装備ドロップしたらあげるね!」
「ほんとですか!助かります!」
「いいよ~!その代わり騎士装備ドロップしたらお願いね!」
彼女のジョブは竜騎士だ。騎士から派生する上位ジョブ。サーバー内でも、かなりの有名人であり、ついたあだ名は「炎帝騎士サリア」多くのプレイヤーファンがいる。あまり想像できないが、実際にサーバー内でも上位プレーヤーだ。
「もちろん!ドロップしたら連絡します!」
「ありがとー!助かる―!」
なんだかんだ良い人なんだよな。酔ってるときはめんどくさいけど・・・
「お会計、1353円になります。」
「ん?あれ?」
咲さんが焦っている。なんだか嫌な予感がするぞ。
「ごめん、財布忘れたみたい。あはは...」
「・・・」
結局、自分の分とお酒1本分のお金を出した。
会計をすまし、コンビニを出る。
「ありがとうございましたー!」
「ごめんね・・・こんなみっともない姿見せて・・・」
彼女は顔や耳が真っ赤になっていた。今にも泣きそうだ。さっきまでの元気がなくなってしまっている。正直、あんな経験したら、誰でもこうなるだろう。
僕もこうなっている自信がある。
「まぁまぁ、そんな気にせず。というか22:00まであと15分しかありませんよ!」
まずい!思ってたよりも時間が過ぎていた。時間に遅れるとギルマスうるさいんだよなぁ・・・
「マジだ!じゃあ、あたしはこっちだから、またあとで!」
「あいつでいいや。俺の人生を飾る奴は!」
黒色のパーカーを着た猫背の男はそう呟くと、走り始める。
「ハッ、ハッ、ハッ」
「はい、またあとで!」
別れようとした時だった。
咲さんの顔がなぜか徐々に青ざめていったように見えた。
「玲君!後ろ!」
ん?後ろ?
「ハハハッ!」
ドスッ。
「え?」
追突された反動で両ひざを地面につき、前かがみになる。
なんだ・・・?背中に何か違和感が。
「アハハッ!やってやったぞ!これで、俺の人生は飾られた!」
なんだ、こいつは。気がおかしいのか?
男は何かブツブツと小声で話している。
「れ、玲君?」
顔を上げる。
咲さんそんな顔してどうしたんだ?
それよりもなんだか背中が熱い。背中に手を当ててみる。
手には赤い色の液体がビッタリとついていた。
なんだこれ・・・
ズサッ。
体に力が入らなくなり、うつ伏せになる。
「玲君大丈夫!?しっかりして。誰か救急車を!」
地面には赤い色の液体が広がっていく。
あぁ、もしかしてこれ、刺されたのか。
徐々に状況が整理されていく。
周りに多くの人が集まっており、中にはスマホを向けている人もいる。ハハッ、嫌な世の中だ。
僕を刺したであろう男が大人5人ほどに囲まれているのも見えた。それにしても、なんで僕なんだ?
刺されたであろう場所が、かなり痛い。刺されるとこんな感じなんだな・・・
「玲君!玲君!大丈夫だからね?もう少しで救急車来るから!」
咲さんが涙を流しながら必死に声を掛けてくれているのが伝わる。
安心させようと声を出そうとするが、声が出せない。
視界もぼやけ始めた。画面にノイズがかかってるみたいだ。
「れ・・・ん!・・くん!」
音も聞こえなくなってきた。痛みもなぜかない。
もしかして、これ結構やばいか?
プツッ。
12月25日 朝のニュースをお伝えします。 えー、昨日、午後10時頃三角町で男子高校生の白洲 玲さん(17)が自称 自営業の男(27)に刺され死亡しました。
男は警察による取り調べで「誰でもいいから殺したかった」などと動機を述べています。




