泊さん 2
何故か泣きじゃくる先輩は、来てくれた救急隊員達が持って来た担架に乗せられて運ばれて行った。
先輩……大丈夫かなぁ……。
入院しちゃいそうな先輩の為にも、頑張って期限まで寝泊まりしないとな!
まっ、これも人助けだよ。
偶には人助けしたって良いよな?
そんなわけで、オレは先輩の代理者として高級マンションの寝泊まりを続ける事にした。
念の為に先輩に依頼した業者さんへ事情の説明をする為に連絡をしとく。
後で業者と揉めたくないからな。
オレはバスタブにジャグジーが付いているVIP感満載な浴室で入浴をした。
入浴後はソファーに座って窓から見える夜景を眺める。
これでビールがあったら最高なんだけどな…。
生憎と冷蔵庫の中には酒の類いは入っていなかった。
入っていたのはペットボトルのミネラルウォーターとお茶類だ。
オレは冷蔵庫の中から麦茶を拝借して、ソファーに座りながらラッパ飲みする。
救急隊員に搬送される間際、先輩は奇妙な事を言っていた。
「 “ かくれんぼ ” の相手は絶対にするな 」とか「 “ かくれんぼ ” に誘われても知らん顔しろ 」だの「 見えても見えない振りをしろ 」だの「 聞こえても聞こえない振りをしろ 」だの「 耳栓はしても無駄だ 」とか……意味深な言葉を言い残して行った。
どういうこっちゃ?
かくれんぼ??
この部屋で “ かくれんぼ ” なんか出来るのか?
う〜〜〜ん……分からん。
日を改めて、見舞いがてら先輩に聞いてみるかな。
その日は時間も時間だった事もあり、オレは寝室へ移動してベッドに入って就寝した。
妙な夢を見た。
血塗れの服を着た子供が部屋の中に居て、部屋のあちこちを走り回っている夢だった。
子供は何かを言っているみたいだったが、生憎と無音だった事もあって、何を言っているのかは分からなかった。
血塗れの服を着た子供が夢に出て来るなんて気味が悪い。
こんな不気味な夢を見たのは、生まれて初めてだった……。
あの夢は1度きりだと思っていたけど、1度きりで終わらなかった。
転た寝をしても、昼寝をしても、血塗れの服を着た子供が頻繁に夢の中に出て来る。
部屋の中で元気に走り回っているんだが、何で血塗れの服を着ているのかは分からない。
野太い男の声が聞こえた。
「 “ かくれんぼ ” をしよう。数えるから隠れなよ 」って男が言うと、血塗れの服を着た子供は「 隠れるのは、お兄ちゃんだよ。見付けるのはボク達だよ 」って言った。
ボク達…だと??
夢の中には1人しか居ないのに「 ボク達 」って何だよ……。
しょっちゅうそんな夢を見る所為で、オレは寝不足になっていた。
リビングのソファーに座ったまま、ぼおぅ〜〜〜〜とする事が多くなった。
不思議な事だけど、何をする気も起きなくなっていた。
居眠りをした後、眠い目を開けたり瞑ったりしていると、誰かが居るような気がした。
「 お兄ちゃん、ボク達と一緒に “ かくれんぼ ” しよ? 」
幻聴か??
子供の声が聞こえるんだが……。
部屋にはオレ、1人の筈だ。
オレ以外の誰かが部屋の中に居るわけがない。
それなのに身体をゆさゆさと揺らされる。
誰がオレの身体を揺らしてるんだよ…。
「 ねぇ…… “ かくれんぼ ” しよ? 」
「 しようよ〜〜。
“ かくれんぼ ” しよ〜〜〜 」
「 かくれんぼ!
かくれんぼ!
かくれんぼ! 」
うるせぇよ……。
何が “ かくれんぼ ” だよ…。
此方はそれどころじゃねぇんだよ……。
頼むから…黙ってくれよ……。
繰り返される “ かくれんぼ ” と言う言葉に苛立ちを感じていたオレは、我慢が出来なくなって怒鳴った。
そして、オレは、言ってしまったんだ。
先輩が搬送される直前まで繰り返していたのに……。
オレに忠告をしてくれていたのに……。
オレは、言ってしまったんだ。
子供達に向かって、決して言ってはいけない言葉を────。
「 泊さん 」をやっていた新米さんの青年はですね〜〜、意識不明の重態で近所の総合病院に搬送されて、今でも入院しているんですよ〜〜〜。
未だに意識は戻らなくて、植物状態なんですよ…。
どうしてか気になっちゃいますか、お客さん?
もぅ〜〜〜出血特別大サービスですよ!
「 泊さん 」だったトミヤさんは、夢の中に囚われてしまっているんですよ。
夢の中で “ かくれんぼ ” をしているんです。
逃げられない “ かくれんぼ ” をしているんですよ。
あの高級マンションの1室で殺害されてしまった多くの子供達と一緒に。
あぁ、因みにトミヤさんより前に病院へ搬送された「 泊さん 」は、入院中に亡くなりました。
死亡原因は不明ですが、遺書らしきものが残されていたそうですよ。
【 “ かくれんぼ ” はしたくない──── 】って、赤い色で書かれていたそうですよ。
怖いですねぇ…。
「 泊さん 」はですね、時に命懸けの職業なんです。
それでも…お客さんは「 泊さん 」になりたいんですか?
いえね…、「 泊さん 」が増えてくれるのは業者的には有り難いんですよ。
ですけどね……1人の人間としては、お薦めしたくない職業なんですよ…。
今なら未だ間に合いますから、「 泊さん 」になるのは止めて、他の職業を探しませんか?
その方がお客さんの為ですよ。