泊さん 1
事故物件──と呼ばれる物件を御存知ですか?
御存知ですか、そーですか。
実は…此処だけの話なんですけどね、お客さん!
これ、誰にも言ったら駄目ですよ?
お口チャックでお願いしますよ、お客さん!
他言無用って事ですよ、解ってますよね?
大人の優しさを掻き集めて、約束は守ってくださいよ、お客さん!
実はですね……事故物件って──、2週間程…誰かが寝泊まりすれば、普通の物件として売り出しする事が出来ちゃうんですよ!
でね、本来は業者の新人社員が2週間だけ事故物件の部屋に寝泊まりするんですけど、これが精神的に辛くて、か〜な〜り堪えるらしいんです。
で──、新人社員が音信不通になってしまったり、入院したり、退職してしまったりするらしくて、業者は困るわけですよ。
そんなわけで新しく始まったビジネスが「 泊さん 」なんですねぇ〜〜。
この「 泊さん 」は業者からの依頼を受けて、事故物件の部屋に2週間だけ寝泊まりしてくれるんです。
2週間の寝泊まりに支払われる報酬額は約20万 〜 50万程と少々お高くなっていますが、業者さんからすればはした金らしいです。
実際には50万以上も支払われる事故物件もあるらしく、相当ヤバい雰囲気を醸し出している事故物件らしいですよ。
そんな高額な依頼を請け負う「 泊さん 」なんて居ないと思われるでしょうけど、居るんですよねぇ!
実は…「 泊さん 」には、強者な「 泊さん 」が多いんです。
たったの2週間の寝泊まりで50万以上の報酬が懐にポンポンと入って来るんですから、簡単に止めれるわけがないんです。
「 泊さん 」は、お金に目が眩んだがめつい元ニート共なんですよ!!
つい3年前にも若くして「 泊さん 」となったニートが居ました。
「 泊さん 」としてはペーペーの新米さんですけど、なかなかガッツのある方でした。
何でも、両親と叔母と自分の葬式代や墓石に掘る名前代,伯父が作った借金を返済する為のお金を稼ぐのが目的だったらしいです。
偉いですよねぇ、ニートなのに……。
伯父は借金を作るだけ作って押し付けた後、失踪してしまったそうです。
どうやら伯父の職業も「 泊さん 」だったそうですよ。
押し付けた借金を返済する為に「 泊さん 」をしていたのでしょうかねぇ……。
そんな事は横に置いときましょう。
3年前に「 泊さん 」となった彼は、もう「 泊さん 」をしていません。
お金が貯まったから「 泊さん 」を止めたと思われますか?
いやいや、それが違うんですよ。
実はね、彼の身に不可解な事が起きたんです。
お祓い…ちゃんとしてもらってたんでしょうかねぇ?
例え気休めでも、お祓いはした方が良いと思いますよ。
気持ち的にもね。
──*──*──*── 3年前
オレは「 泊さん 」をしているトミヤと言う。
トミヤは苗字だ。
今回、オレは先輩の「 泊さん 」のヘルプで来ている。
高級マンションの1室が先輩の請け負った事故物件だ。
先輩の請け負った事故物件の報酬額は何と80万円!
オレは先輩のヘルプをするだけで30万円も貰える事になっている。
金にはがめつい先輩って有名なのに、ヘルプを雇って30万もくれるなんて随分と太っ腹だよな…。
オレは緊張している所為で生唾をゴクリ,ゴクリ…と飲み込みながら、事故物件のインターフォンを押した。
インターフォンが鳴ると、ドアが開き、先輩が顔を出した。
先輩…だよな??
「 こんちゃス、先輩。
トミヤです。
ヘルプに来ました 」
「 あぁ……ヘルプの…待ってたよ…。
いらっしゃい…入って… 」
先輩は窶れた顔をしていて、掠れてしゃがれた声でオレに話かけて来る。
先輩はガリガリの細い腕を伸ばして、オレに向かって手招きしてくれる。
おぃおぃ…先輩、大丈夫かよ…。
「 …………あの…先輩…大丈夫ですか?
病院に行った方がいいんじゃないッスかね?
オレ…先輩が戻って来るまで留守番しとくんで、病院に行って来てくださいよ。
徒歩10分ぐらいの場所にデカい総合病院がありますよね 」
「 …………お前…良い奴だな…。
…………やっぱ止めとくわ…。
他の奴にする…。
お前…帰れ…… 」
「 はぁぁぁ?!
何言い出すんスか、先輩!
今にもブッ倒れそうなヤバい顔色しといて!!
病死したいんスか!?
オレ、帰りませんよ!
30万なんて要らないッスから、病院に行ってくださいよ!
電話借りますよ、救急車、呼びますから!! 」
オレは今にも倒れそうな先輩が心配になって、強引にドアを開けたら、靴を脱ぎ捨てて部屋に上がった。
電話を見付けて、119に掛けたら救急車を呼んだ。
「 これで良し!
先輩──、救急車、直ぐ来てくれますからね! 」
「 お前は……馬鹿かよっ!!
何で…何で……入って来たんだよ…。
帰れって……言ったのに…………馬鹿野郎… 」
「 そんな死にそうな顔して何言ってんすか?
ほら、床なんかに座らないでソファーに座ってくださいよ 」
何故か涙を流しながら、嘆いている先輩に手を差し伸べてソファーに座らせる。
部屋の中を見回してみたが、実に良い部屋じゃないか。
流石は高級マンションの1室なだけはある。
こんな凄ぇ部屋で過ごせるなんて最高の御褒美じゃないかよ。
これならバスタブにジャグジーでも付いてそうだな。
顔色が悪い先輩にはソファーに座ってもらっといて、オレは部屋の中を見て回った。
良いねぇ〜〜〜、高級マンション!!
金を貰えて寝泊まりするだけなんて、マジで役得だわぁ〜〜〜。
暫くすると救急車が高級マンションの前に停まった音がした。
もう直ぐ救急隊員が来てくれる。
「 先輩、ちゃんと診察とか検査とか受けてくださいよ。
報酬を貰ったら、先輩に渡しに行きますから、入院代とか診察代とか検査代とかに使ってくださいよ 」
「 トミヤ……済まない……本当に…済まない……許してくれ……。
オレを…恨んでくれてもいい……。
報酬は全額…お前にやるから……生きて…生き残ってくれよぉ…… 」
「 せ…先輩ぃ〜〜?
急にどうしちゃったんスか?
いや…マジで…… 」