第一章 身の程知らず 〜4〜
更新が随分と遅れてしまいました(汗)
「へっ!金獅子っていう位だからどんなゴツい女かと思ったら、こりゃまた可愛い嬢ちゃんじゃねぇか!」
ギルド内の掲示板でクエストを眺めていた俺達に、立派な顎ヒゲをたくわえた大男が話し掛けてきた。
「一緒にいる兄ちゃんが従者か。こっちは予想通りヒョロっちいなぁオイ!」
「は?」
後ろからリリアの殺気を感じる。
「もーぅ。そーゆう言い方しないのぉ。気を悪くしたらごめんなさいねぇ。この人悪い人じゃないんだけどぉ。話し方がちょぉっと乱暴なのよねぇ。」
黒いローブに三角帽子。大男の後ろからTHE・魔法使いって出で立ちのお姉さんが気怠い話し方でフォローに入る。なんとも言えない大人の色気を撒き散らしている。
「ニャハハ!話し方が乱暴ニャんじゃなくて、グラッドの馬鹿はなにも考えてないだけニャ。」
「おいルル!馬鹿は余計だろ!」
な、なぬ!?猫耳!?噂に聞いてた獣人族か!転生してからようやく見れたよー!
しかもロリ!素晴らしい!
「アルベル。何をそんなにニヤけてるのかしら?」
さっきとは別の殺気がリリアから放たれている。
きっと俺は、お姉さんと猫耳ちゃんを交互に物色しニヤけていたのであろう。
口元のヨダレがその証拠だ。
「皆さん。元々の目的を忘れてませんか?」
おぉ。弓矢のセットを携え、色素の薄い肌に金髪から覗く尖った長い耳。
同性でも見惚れてしまうなんとも美しいお顔。
エルフだ。これまた初めて見た。
「色々と失礼があり、申し訳ありません。この度あなた方に話し掛けたのにはとある相談がありまして。
私はシグニールと申します。私達は1年前にパーティーを組んで、現在銀等級なんですが、そこからずっと停滞していまして。
そこにきてあなた方二人だけで一気に金等級まで登り詰めた活躍を耳にし、もし可能でしたらその勢いを私達パーティーに活かせないかと思いまして。」
「シグっ!んな固っ苦しい挨拶なんて、いらねぇだろ!おい、お前ら!俺等のパーティーに入らねぇか!」
「グラッド…あなたという人は…まぁ、単刀直入言うとそうゆう事なんでして。いかがでしょう?」
キタっ!キたっ!!キターーっ!!
リリアと俺の2人だけで一気に金等級までいけばそりゃ噂になり、強い冒険者がパーティーに誘いにくると予想はしていた。
実際今までも何度か誘いはあったが☆3〜4位の人達のパーティーは断っていた。
最低☆5は1人いるパーティーに誘われるまでリセマラしていたのだが。
そしたら、なんと!
全員☆5のパーティーに誘われちゃったよ!
何周年記念キャンペーンガチャなんだ!?まさに神引きだ!
4人全員もちろん固有スキル持ちだ。
ヒゲの大男=『ベルセルクカウンター』ダメージを受けるとその1.2倍のダメージを自動で相手に与える。
魔法使い巨乳お姉さん(ナターシャ)=『ダブルエンチャント』唱えた魔法が必ず連続で放たれる。マナの消費は1回分で済む。
猫耳っ娘=『ナックラーズハイ』戦闘の間、相手に攻撃を当てた数だけ攻撃力が上昇していく。
美青年エルフ(シグニール)=『ディスタンスパフォーマンス』相手との距離が離れる程攻撃力が上がる。
見た目で判断するに、多分それぞれの役割に合った良いスキルばかりだ。
しかし、ここで1つの懸念が出てくる。
「リリアだけじゃなくて、俺もパーティーに入って良いのか?」
今まで誘ってきた奴等はパーティー勧誘という名のリリアの引き抜きが目的だった。まぁそりゃ従者は必要ないんだろう。
「あん?だってお前ら仲間なんだろ?なんでわざわざ引き離すんだよ」
「『従者・アルベル』。一気に金等級にいった要因は貴方にもあると私は睨んでいまして」
「はは、嬉しい事を言ってくれるね」
この人達は今までの勧誘とは違うようだ。とても好感が持てる。
「リリア。俺はこのパーティーに入ろうと思うんだけど、どうだろう?」
「ふーん。今までのパーティーは断ってたのに、魅力的な女の子がいるパーティーは断らないのね」
リリアはムスっとした顔で俺を睨んでる。パーティー参入を渋ってるのか?
「でもまぁ、アルベルがそうした方が良いって言うならきっとその方が良いんでしょ?アルベルの言う事聞いて間違ってた事ないし」
「それは言い過ぎな気がするけど、わかってくれたなら良かったよ。
お待たせ。パーティーに加入させてもらうよ」
「ぅおっし!決まりだ!」
「ニャーイ!良かったニャー!」
「よろしくねぇ」
こうしてリリアと俺は新たな仲間達と共に冒険をする事になった。
仲間達の戦っている所を見てると、やっぱり☆5なだけあってみんな強い。
きっとステータスが高いのだろう。
今まで2人で苦労した魔物も6人なら余裕で倒せていた。
しかし、何度もクエストをこなしていく中でリリアと二人きりの時からあった疑念が確信へと変わった。
この世界の人達は、自分の固有スキルの内容はおろか、そもそも固有スキルがあるという事を知らないのだ。
そのせいなんだろう。
グラットは打たれ強いくせに攻撃を良く避ける。
ルルは一撃必殺に拘って手数が少ない。
ナターシャはまさかの攻撃魔法を覚えていない。
シグニールは短弓でやたらと接近して戦う。
自分の特性を理解してない立ち回りで、あまりにももったいない。
なのでそれぞれの長所を活かせるよう、
グラットには防御に特化した装備を、ルルには手数を増やすように、ナターシャには攻撃魔法を覚えてもらい、シグニールには長弓と命中率を上げる装備させて離れて戦うよう各々に上方修正案を提案した。
しかし全員素の能力が強いからか、今まで上手くいってた事をなんでわざわざ変えなければいけないのかっていう反論がでてきた。
まぁ、そりゃそうだろう。
しかし、リリアの
「私達二人が金等級なのはアルベルのおかげよ」
という説得にもなってない自信満々の言葉に、パーティーの皆も試しにやってみるかという形で俺のアドバイスを受け入れてくれた。
そして半年が経った。
とある古代遺跡ダンジョン。
「ひぃーー!こんな入口付近にヴェノムウルフの群れがでるなんて!」
「に、逃げろー!」
「駄目だ!後ろにも回られてる!」
少し離れた所に見知らぬパーティーが魔物に襲われている。
「あニャま。先客がいるニャ。」
「にしてもひ弱な連中だな。たかがヴェノムウルフで何をそんなに怯えてんだか」
ヴェノムウルフは☆3の魔物でざっと30頭以上はいる。本来全然"たかが"って状況じゃないんだけど。
「アルベルぅ。助けるのぉ?」
「うん、そうだな。というかもうリリアは向かってるよ」
「はぁ、またですか…金''獅子"と呼ばれているのに猪突猛進なんでして」
「はぁーーー!」
リリアの太刀筋一閃で4〜5頭吹き飛んだ。
「アルベルがきっと逃げやすい状況にしてくれるから頃合いを見て逃げて!」
「あ、アルベル?…え?あ!あんたは、金獅子の戦乙女!」
「た、助かった!」
「ナターシャ。今リリアが攻撃した左右に範囲魔法を頼む」
「はぁい。『フラットボムぅ』」
(ドーン!ドーン!)
「今だ!逃げろ!」
冒険者達はリリアとナターシャがこじ開けた群れの穴から一目散に逃げていく。
しかし、冒険者を追って魔物が襲いかかる。
「うりゃ!早く逃げんかい!」
グラットが大盾を構えカバーする。魔物達は、盾にぶつかっただけで大きく吹っ飛んだ。
「ニャニャニャニャニャニャー!」
ルルの連撃も魔物達をどんどん蹴散らしていく。しかし、ルルの死角から魔物が飛びかかる。
と、同時に魔物の頭部には矢が刺さっていた。
「ルル。油断し過ぎですよ」
遠く離れた位置からシグニールがバシバシ魔物を射止めていく。
「こ、これがプラチナ等級のパーティーの力…」
「つ、強すぎる。とりあえず俺達は逃げて、応援を呼びに行こう!」
難を逃れた冒険者達が遺跡から出ていった。
俺達はこの半年で冒険者全体の2〜3%程しかなれないとされているプラチナ等級まで登り詰めていた。
ちなみにダイヤ等級は現在1つのパーティーにしかその称号を与えられてない。
つまりはこの世界で1番強い者にしか与えられない等級だ。
それにしても元々強かったみんなは、自分の特性を活かせた事でとんでもない強さになっている。
その中でも特にリリアは、「エンドレスフィニッシャー」の効果により攻撃力が常に成長し続けているので、強さが化け物じみていた。
「さて!それじゃこの遺跡もさっさと攻略しちまうか!」
ちなみに古代遺跡は既に幾つも攻略してきている。
遺跡を攻略していて分かった事がある。
①遺跡の奥にはボス敵がいて、そいつがいる部屋に必ず有能なアイテムがある。
※ちなみにこの有能なアイテムの事を、俺は総称して遺物と名付けてる。
②ボスを倒しただけでは見つからないような場所に遺物は隠されてる。
③遺物を手に入れると遺跡は消滅する。(主を倒しただけだと消えない)
④遺物は1人につき1つしか装備できない。(ただし付け替えは可能)
⑤遺物はアプレイザルアイでレア度と付与効果が分かる。ちなみに遺物は今の所軒並み☆5だ。
結構②の性質があるせいか、ボスはいなくても遺物だけ残されてるという遺跡もあった。
こういう隠し扉とか謎解きは元々前世でRPGをやっていたのが活かされている。
遺物は、リリア以外のパーティーメンバー各々の特性が活かされるような物が手に入っていて、良い具合に長所を伸ばせている。
しかし、当たり外れもあり「これ何に使うんだろ?」っていう遺物も少なくない。念のため取っておいてあるけど。
今回の遺跡では当たりが出ると良いな。
そして今回も遺跡の最奥の証である仰々しい扉の前まで来た。
ここの遺跡をクリアすればこの地域の遺跡は全て踏破した事になる。
「今回こそ私に合う遺物が手に入る気がするわ」
「ニャハ、リリア最近いつもそれ言ってるニャ」
「まぁ遺物がなくても貴方がこのパーティーのエースでして」
「そうねぇ。リリアの強さとアルベルの指導でぇ、アタシ達プラチナになれたようなもんだものねぇ」
「え?リリアはともかく、俺は殆ど何もしてないよ」
「んな事ねぇだろ!お前のおかげで俺らがここまで強くなってるって事は俺でも分かるぞ!」
「ニャム。アルベルがいなかったらうちニャはずっと銀等級ニャよ」
「そんな…うん、でもありがとう!」
単純に嬉しかった。転生して18年間は誰にも必要とされずに生きてきたから。リリアと、この仲間達と出会えて本当に良かった。
「うしっ!そんじゃ扉開けんぞ!」
扉の先にはいつも通り広間があった。しかし今までよりも少し…いや、かなり広い。そして、地鳴りと共に地面から大蛇が現れた!
でかい!10階建てのビル位でかい!
そしてその大蛇の頭上には☆が5つ輝いていた。名前はグランドスネークか。
「今までのボスより強いぞ!みんな気を引き締めて!」
初☆5の魔物だ!油断できない!
「グラットは一旦敵の攻撃を引き付けて!ルルはグラットの後ろに続いて!」
「おう!!んだりゃーー!『徹山盾』!!」
グラットがグランドスネークの前に大盾を構えながら突っ込んでいく。
待ち構えてたかのようにグランドスネークの尾がグラットを殴打する。
しかしグランドスネークの尾は強く弾かれる。
「くぁーっ!中々しびれるなぁ!」
「ルル!今弾かれた所をボコボコにしてやれ!」
「ニャー!ニャニャニャニャニャ!」
グランドスネークの尾が少し歪んではいるが、素早く尾を引き、今度は牙でグラットとルルに襲いかかる。あまりダメージがないようだ。
「ニャー!こいつ硬いニャ!」
「大丈夫!次の手はもう打ってるから!ナターシャ!詠唱は終わってる?」
「大丈夫よぉ。『アイシクルレイン』!」
氷柱がグランドスネークに降り注ぐ。
「キシャーー!」
悲鳴とも取れる鳴き声を発し、動きが鈍ってきた。予想通り爬虫類系の魔物は氷魔法に弱い!
そして動きが鈍った瞬間グランドスネークの目に矢が刺さり更に悲鳴があがった。
「アルベル!貴方の狙い通り、これでよかったですか?」
「シグニール!完璧なタイミングだ!リリア!」
「まーっかせなさーーい!」
グラットに指示した後にリリアには『精神統一』というスキルで力を溜めてもらっていた。
「これで決まりよ!『閃、光、烈、斬』!」
リリアの一撃はグランドスネークの大きな頭を縦から真っ二つに裂かれ、そのまま倒れ込んだ。
「ふぅ。おしまい!」
「しゃーー!今回も楽勝!」
「にゃーー!」
うちのパーティー強ぇーー!
素晴らしいね全く!☆5の魔物でもこんなにあっさり勝てちゃうなんて!
とても頼り甲斐のあるメンバーだなぁ。
それじゃ早速遺物を見つけますか。
その時。
半分に裂かれたグランドスネークの、潰されていないもう片方の目が動き、
俺と目が合った。
「へ?」
その瞬間、グランドスネークの尾が俺を叩き潰すように襲って来た。
(ドーーン!)
「アルベル!!」
パーティー皆が俺の名前を叫んでいた。