第一章 身の程知らず 〜1〜
ここはグルンド村。
人口は40人足らずで、村の周りには弱小の魔物達がいるが村を襲ってくる事は滅多にない。とにかく平穏で小さな村だ。
「リトルサンダー!」
(バチバチっ!)
「リトルサンダー!リトルサンダー!」
(バチバチっ!バチバチっ!)
そして俺はその村の近くの林で日課である魔法の訓練をしている。
「ん〜〜〜……サンダーボルト!」
(………)
「サンダーボルト!サンダーボルト!サンダーボルトぉーー!!」
(…………………)
「はぁ、やっぱり駄目か」
「おっ、アルベルじゃねぇか。まだ懲りずに魔法の特訓してんのか。」
木こりのおっさんが同情8:嘲笑2の割合で話しかけてくる。
「はぁ、おっちゃんは分かってないねぇ。継続は力なりってよく言うだろ?」
「とは言ってもお前さんもう今年で18だろう。昨日あんな事もあったんだし、いい加減自分の将来をだなぁ…」
「俺の将来は冒険者だよ」
「…はぁ、そうかい。まぁ頑張れや」
木こりのおっさんは呆れ果てた表情で去っていく。
「ふぅ。…サンダーボルト!………(ボソッ)リトルサンダー」
(バチバチっ)
「はぁ…」
俺は昔、
「この小さなグルンド村から英雄が生まれた」
と、村からの期待を一身に受けていた神童だった。
1歳の時に他の子が涎を垂らしながら「マンマ、マンマ」言ってる頃、俺は初級雷魔法であるリトルサンダーを発動させ、2歳の時には初級回復魔法であるリトルヒールを習得していた。
普通、どんなに早い子でも魔法を習得するのは10〜12歳頃とされている。
つまり、とんでもない逸材だ。
うちの両親はどちらも昔は魔法使いとして冒険者ギルドに所属していた事もあり、
「魔法の申し子だ!こんな早くに魔法を使えるなんて聞いた事がないぞ!この才能はしっかり伸ばさなければ!」
と、将来俺を最強の魔法使いとなるよう早々に俺を鍛え始めた。
そして鍛え始めてから、両親を更に驚かせる事が判明した。
普通、魔法を使い続けると体内のマナ量が枯渇しバテてしまい休息やマナ回復のアイテムであるエーテルを使う必要があるのだが、俺は一向にバテる事なく永遠と魔法を使い続ける事ができたのだ。
3歳の俺は、10年以上魔法使いをしていた歴戦の元冒険者である両親を遥かに凌ぐマナ量を秘めていた。
とんでもない逸材だ。
幸運な事に両親は魔法使いで色々な魔法を教われる環境、
底無しのマナ量と早々に魔法を使えた才能、
そして、冒険者に憧れ毎日欠かさず努力し続けられる向上心。
最強の魔法使いとなる運命を背負ってきたとしか考えられない。
とんでもない逸材…
だった。
そのとんでもない逸材はすくすくと成長し、現在18歳。
俺は、
どんなに魔法を教わっても、リトルサンダーとリトルヒール以外なんの魔法も習得できなかった。
また、マナ量が多くても魔法の威力を決定する魔力はほとんど上がらなかった。
10年以上毎日唱え続けたリトルサンダーやリトルヒールの威力は幼児の時が"1"だとすると、現在は"3"程度だった。
魔法使いとして冒険者となるには絶望的な成長率の悪さだ。
そして俺が12歳を超えた頃から、両親は魔法を教える事はなくなった。
「さてと、もう1つの日課もこなすか。ふっ!」
それでも冒険者に憧れてしまった俺は諦めなかった。
魔法が駄目なら他の才能があるのではと考え、魔法を教わらなくなった頃から剣技を習得しようと考えた。
これまた幸運な事に、村には昔戦士として冒険者をやっていたダカンさんがいたので剣技を教わる事ができた。
単刀直入に言うと剣技の才能は魔法以上に全くなかった。
筋力や俊敏性も平均以下の俺にダカンさんから「1年だけなら見てやる」と言われ、約束通り1年経ちなんの躊躇もなく匙を投げられた。
両親やダカンさんから魔法も剣技も諦められた俺だが、毎日魔法と剣技の修行は欠かさなかった。
「やっ!せい!ふっ!」
藁で作った模型に対して剣を当てていく。6年間続けた日課だが剣技や筋力の方もほとんど成長を感じられなかった。
ダカンさんの判断は正解だ。
こうして俺は、村の人達から毎日"奇行"を繰り返す"変人"と見なされるようになった。
そして昨日、村に"弱小"の魔物・ゴブリンが一匹現れるという事件が起きた。
俺は今まで鍛えていた成果を試す為、一人でゴブリンに向かっていった。
が、全く歯が立たなかった。
直ぐに両親とダカンさんが駆け付けあっさりゴブリンを撃退し、へたり込んでいる俺を抱きしめながら母は
「もうこんな危険な事はしないで!身の程を知りなさい!」
と言い放った。
もちろん大事な一人息子を心配するが故の愛ある言葉だったが、
冒険者になるなんて無理だ!と言われたも同然だ。
さすがにこれには応えた。
「今日は…これ位にするか…」
いつもの半分以下の時間で"奇行"を切り上げ、帰路につく。
「さすがに、もう諦めた方が良いんだろうな…」
心はほぼ折れかけていた。
しかし、そんな俺の元に冒険者となるチャンスが舞い降りた。
いつもの日課が終わり村に帰ると、村の入口で見知らぬ女性に声を掛けられた。
「あのぉ、ここはなんという村でしょうか?」
その女性は綺麗な金色の髪を結って革鎧やブーツ・グローブ等を着込み、腰には棍棒を携えていた。
自分と同じ位の年齢のその女性の風貌は冒険者然としていて、そしてとんでもない美少女だった。
「ここはグルンド村。なんの変哲もない平穏な村ですよ。こんな何もない村に何か御用ですか?」
初めての村の外の人に対して、多少緊張し必要以上に丁寧な言葉になってしまう。
「いえ、私はあの山の向こうにある村から冒険者ギルドがある都市ザクレンを目指してきて、その途中にこの村に立ち寄ったんです。それで、宿を探していて…」
どうやらこの女性は駆け出しの冒険者らしい。
良く見ると身体の至る所に生傷がある。
「傷大丈夫ですか?」
「あぁここに来るまでに魔物と何度も遭遇してたから」
「え?じゃあ、魔物に遭遇しながら一人で撃退してたの?」
「はい、ずっと鍛えてたんで」
(チクッ)
胸が痛む。そうか。
この人は本当に才能があって、しっかり修練を積んで、ちゃんと強くなったんだな。
俺とは違う。
「それにしてもそんな傷だらけじゃ大変でしょ。ちょっと良いですか?『リトルヒール』『リトルヒール』」
(パァー、パァー)
「あ、回復魔法使えるんですね!ありがとうございます!でもあなたのマナ量がもったいないですよ。エーテルだってタダじゃないんだし」
「あぁ大丈夫。『リトルヒール』(パァー)
なんでだがどんなに魔法を使っても、生まれてこの方マナが足りなくなった事がないんで。『リトルヒール』(パァー)」
「へぇ〜。……え?どんなに使っても?」
「はい。まぁ今まで毎日1000回以上は魔法使ってもマナ切れ起こした事はないし、エーテルは使った事ないかな」
彼女が驚いているのに気付き唯一の長所を久しぶりに自慢したくなってしまった。
「え!?一回も!?それってとんでもない事じゃない!?」
彼女の口調が明らかに変わっている。こっちの方が素なんだろう。
「まぁ。でも使える魔法はリトルヒールとリトルサンダーだけで威力も大した事ないんですけどね」
「いや、それにしたって凄い!そんな人聞いた事ないもの!え?それじゃ-----」
彼女が回復作業中の俺の手を取ってキラキラした瞳で真っ直ぐ見てきた。
ああ、懐かしい。
子供の時に両親や村の人達から向けられた期待や尊敬の眼差し。
そして彼女が急に距離を詰めてきた事で気づいたことがある。
彼女は美少女なだけでなく、かなり立派な胸部パーツをお持ちだ。
武骨な革鎧で気づかなかった。
「-----ねぇ聞いてる?」
「え?あ、ごめん!何?」
しまった。久しぶりに褒められた嬉しさと、豊満なバストを目の前にした事で少しトリップしてしまっていた。
「だから、私と一緒に冒険者にならない?」
「へ?俺と?」
「そうよ!」
「でも俺の魔法は2種類だけで、しかも威力も全然ないんだよ」
「大丈夫!だって私強いもの!」
「じゃあ君一人で充分でしょ」
「そんな事ないわ!今回初めて旅をして思ったけど、魔物を無傷で倒すなんてさすがに無理だった。だから持ってきた薬草を少しずつ使ってここまで辿り着いたけどもう底を尽きてた。正直ここに村がなかったらと思うと恐ろしいわ…でもあなたがいればそんな心配する事ないでしょ?」
彼女は、右手を腰に据え少し前屈みになりながら左手の人差し指をピンと上に突上げ俺を覗き込むように微笑んでとても可愛くウィンクしてきた。
それに前屈みになった事で胸部パーツの主張は強くなった。
「な、なるほど…」
やはりでかい。
じゃなくて、確かに彼女の言う事は俺にとってとても魅力的だった。
今まで一人で冒険者になる事しか考えてなかった。
強い仲間を自分がサポートする役に徹する事が生きてく道なのかも。
というか"そういう事"は得意だ。
「それに私魔法はからっきしだからあなたがいてくれると…あ、すみません!つい興奮して話し過ぎちゃいました!それに名前もまだ名乗ってないのに」
「あぁ、いやそれはこちらこそ。あと話し方はさっきみたいにかしこまらなくていいよ」
くだけてた方が話しやすいし、丁寧に話すのがちょうどめんどくさいと思ってた所だ。
「くすっ、そうね。私はリリア!さっきの誘いは本気だから!よろしくね!」
リリアはいたずらっぽく笑い、グローブを外し右手を差し出してきた。
その手の平は確かに修練を積んだものだった。
「俺はアルベル。前向きに検討させてもらうよ!」
俺も右手を差し出し握手をする。
一応のクッションは入れたものの、もう答えは"YES"に決まっている。
なんてたって
こんな"星5ランク"からの誘いを逃したら、きっともう冒険に出るタイミングがない!
転生してから、18年。
ようやく異世界冒険の始まりだ!