Interlude 1
ベルティーユのベッドには白色の天蓋がついている。この部屋に入ってきたときにはかならず遮光カーテンが閉まっていて、僕がそれを開けると外の光が入ってきて天蓋のカーテンが淡く輝き部屋全体が眩しくなる。
ベルはその天蓋のなかに閉じこもるように横たわっていて、僕の来訪を煩わしがっていた。
「ベル、朝だよ」
「知ってるわ」
不機嫌そうな声色が返ってくる。僕は溜息を吐きそうになるが、相手は他人の些細な言動から感情を読みとるのがうまい十一歳の少女だった。
だからぐっと溜息を飲みこんで、革の鞄を床に置きそこからA4の紙の束を取りだした。
「この前の続き書いてきたから」
「へえ、それで?」
「読んでもいい?」
「ご自由に」
許しを得た。
前回来訪したときには、嫌になったら途中で止めてくれていいから、と彼女のために書いた小説を冒頭から読み聞かせた。
読んでいる途中、私が出てくるのね、という反応があったっきり彼女は黙ってしまった。でも、うとうとしつつも最後まで物語を聞いてくれたのだ。
たとえ彼女からのよい反応がなくても最後まで聞いてくれたというのは、今まで生きてきたなかで一番の嬉しい出来事だったかもしれない。
部屋の隅に置いてある木製のちいさなスツールをベッドサイドまで持ってきて坐った。明るいブラウン色の髪が枕元に広がっているのがよく見えた。
こんな不摂生な生活を送っているというのに艷やかに輝いていてとても綺麗だった。
一月ほど前にベルと出会ってから彼女がベッドから降りた姿を見たことがない。最初の数回は、僕はただ決まった日にやって来て、彼女と話をし、そして帰るだけだった。
そして僕はそれでは足りないのだと思った。
だから僕は彼女のために小説を書き、そして彼女たちの物語を語る。