美代子
翌朝、秀司が自宅にて遺体で発見された。第一発見者は妻の美代子だった。遺体の状況を一言で説明すると、『ダウマン』だ。くり抜かれた目には代わりに石を詰められ、口にも石を詰められていた。腕や身体には石で切り裂かれたような傷が多数あった。布団に入ったまま亡くなっていた秀司の枕元には、拳ほどの大きさのきれいな石がひとつ置かれていた。その石には『ダウマン』とマジックで書かれていた。
「剛田さん、私もう何が何だか⋯⋯」
剛田とは秀司の先輩の名だ。親友が殺されたと聞いて真っ先にやってきたのだ。剛田と美代子が顔を合わせたのは昨日が初めてだったが、美代子にとっては今1番頼れる人物だった。
「昨日の夜俺が送ってきたのは22時頃だが、あれから朝までこいつが外出したのを見たか?」
「いいえ、秀ちゃんはずっと家にいました」
剛田と食事をした後は外出しておらず、それから朝までの間に殺されたということはまず美代子が疑われる。
「俺はあんたのことを疑ってねえから、それだけは言っとくぜ」
その時玄関の方から物音がした。剛田が外に出るとそこには拳ほどの大きさの石を持った男が立っていた。
――石。
それを認識した瞬間、剛田の背筋は凍った。
「お前、石持ってるか」
男が質問してきたが剛田はあまりに急な展開のため声が出ず、ただ首を横に振るだけだった。しかしそれでは満足しなかったようで、肩を強く掴まれてしまった。痛かったけれど何も言えなかった。怖いのだ。
「俺はダウマンの痕跡を追っている。犯人が分かったからここに来たんだが、このパトカーの数を見て絶望したよ。遅かったか、と」
どうやら警察関係者ではなさそうだ。ダウマンを追っている一般人だろうか。
「ここで犯行があったということは、必ずどこかに石があるはずだ」
ハッ、石! 秀司の遺体の枕元にあったはずだ。取りに行かねば!
「待て。この家の中には殺人鬼がいる。迂闊に動くな」
この家にいるっていったら美代子さんしかいないはずだ。ということは美代子さんが犯人なのか⋯⋯?
「犯人は原 美代子。被害者の妻だ」
やはりそうなのか。疑いたくは無かったが、こいつが言うなら仕方がない⋯⋯ん? こいつ誰なんだ?
「あんた一体何者なんだ」
「俺はダウマンを個人で追っている者だ。つい先日までお前を犯人だと思っていたよ。10年前にお前がやった手口だったからな」
心拍が上がっているのがわかる。鼓動の音も聞こえるほどバクバクしている。なぜこいつがあの事件を知っているんだ。知っているならなぜ俺を警察に突き出さない? ダウマンを追っているということは少なくとも悪事を許すということはしないのではないか?
「お前が今考えてることは分かる。だがそれは一旦置いておけ」
「置いておけません」
「分かった、説明しよう。ただ単に証拠が無かったんだ。お前あの時手袋してただろ、指紋もついてないんだよ」
こいつよく見てたんだな。こわい。
「ここからが肝心だ。あの場には俺の他にもう1人、目撃者がいた。それが美代子だ」
そんなに見られてたのか。よく今まで捕まらなかったな俺。
「あの殺し方を見た人間は俺を覗いて3人だ。秀司は死に、お前はあの事件のことをとても後悔していると知った。よって美代子ダウマン説が有力となった」
なるほど。だが、なぜ美代子は秀司を殺したんだ? その疑問が残る。本人に直接聞いてみよう。
「おい待て! 行くなって言っただろうが!」
男の声を無視して美代子の元へ向かう剛田。
「美代子さん、なぜ秀司を殺したんだ」
「あら、疑わないんじゃなかったの? ⋯⋯その様子じゃ、私が犯人だって分かってるみたいね。いいわ、話してあげる」
美代子の話によると、小学校時代いじめられていた美代子はある男子に助けられたという。しかし、その子に会ったのはその1回きりで、日に日にその子の顔を忘れていった。
高校で秀司に「僕、あの時助けた生徒だけど、覚えてる?」声をかけられた美代子は、あの時自分を助けてくれたのはこの人だったのか! と思い彼と付き合うことになる。高校2年の冬、あの事件の証拠隠滅の協力を頼まれた秀司を少し離れて追いかけていた美代子は被害者の遺体を見た。その殺され方に衝撃を受け、これは芸術だと思ったそうだ。
それから10年たった今、石で人を殺す技術を身につけた美代子はダウマンとして次々に人を殺していた。そして昨日剛田と初めて会った。細かく言うと、事件の時には会っていたはずだが、暗くて顔が良く見えていなかったようだ。剛田の顔を見た美代子はピンと来たそうだ。「この人が私をいじめから救ってくれた子だ!」と。
となると秀司は嘘をついていたことになる。嘘をつき私に近づき、私を抱き、結婚までした。そんな嘘つきは許せない。許せるはずがない。秀司を殺して剛田とくっつきたかったという。しかし、感情が昂りすぎていたため、普段のような華麗な殺しは出来ず、自分しか容疑者がいない状況になってしまったそうだ。
これがダウマンの全てだ。なんともあっけない最後だった。




