093 アラン⑥
「安心せい、イノセ。……良い作戦を思いついたぞ」
不敵な笑みを浮かべながら言うリートに、私はなんだか嫌な予感がした。
だが、現状では打開策が無く、彼女の言う作戦とやらに頼ることしか出来なかった。
私は小さく息をつき、顔を上げた。
「……作戦って?」
「ふふ、耳を貸せ。イノセ」
リートに言われ、仕方なく私は髪を耳に掛ける形で片耳を露わにし、彼女の方に向けた。
すると、彼女は両手をメガホンのような形にして私の耳に当てて口を寄せ、耳打ちで作戦とやらを伝えてくる。
全てを聞いた私は、ポカンと口を開いてリートを見た。
「ねぇ、それ私かなり危険な役回りじゃない?」
「そうじゃが、まぁ回復魔法が使える者もおるし、死ななければどうにかなるぞ」
ニッコリと笑いながら言うリートに、私はげんなりした。
回復魔法って……山吹さん?
そりゃあ、さっきオーバーフローしたからレベル50は行っているみたいだし、それなりに回復魔法は使えるだろうけど……。
ふと顔を上げて後ろにいるクラスメイト達の方に視線を向けてみると、確かに他の三人は回復が済んでおり、先程までの満身創痍といった様子からは見違える程だった。
……と、そんなことを考えていると、こちらを見ている友子ちゃんと目が合った。
「ッ……」
なんとなく気まずくなり、私はつい目を逸らした。
……戦いが終わったら、ちゃんと色々と説明しないとな。
寺島からある程度のことは聞いているはずだけど、リートのことをきちんと話していない分、曖昧に濁したり嘘の情報を混ぜたことを伝えていたはずだし。
しかも、あれからフレアとリアスの加入もあり、色々と困惑させているかもしれない。
……友達だし、友子ちゃんには嘘とかつきたくないし。
「まぁ、危なそうじゃったら妾がサポートするわ。ほれ、行ってこい」
「……はいはい」
本当に人遣いが荒いなと呆れつつ、私は剣を抜いてアランと交戦するフレアとリアスの元へ駆けた。
アランは地面を介しての攻撃を止め、今は大槌と魔法を使った攻撃で二人を翻弄していた。
戦い方や身のこなしは、先程までとは大きく違っている。
……やっぱり、さっきまでの戦いはまだ全力では無かったのか……。
「リアスッ!」
私が名前を呼ぶと、リアスはバッとこちらに振り向いた。
その後ろでアランがリアスに向かって大槌を振りかぶるので、私は咄嗟にリアスの腕を引いて距離を取らせ、大槌を躱させる。
「イノセ?」
「ここは私に任せてッ! リアスはリートの元にッ!」
「分かった」
私の言葉に頷くと、リアスはクルリと踵を返し、リートの元に駆け出す。
すると、アランが「ちょっと~! 逃げるの~!?」と不満そうな声を上げた。
それに、私はすぐにアランと向き直り、剣を構えた。
「はぁぁッ!」
すぐに、私は彼女に向かって斬りかかった。
彼女は私の剣を大槌で弾きながら、「おぉぉぉ!?」と興奮したような声を上げた。
「何々!? 次は君が私の相手!?」
「俺も忘れるんじゃねぇよッ!」
爛々と目を輝かせながら言うアランに、フレアはそう言いながらヌンチャクを振り下ろした。
すると、アランは大槌でフレアの攻撃を弾きながら、パァァッと目を輝かせた。
「あっはは! 忘れてないよ! 二人纏めて掛かって来いッ!」
「チッ……!」
アランの言葉に、フレアは大きく舌打ちをすると、手から連続で三発程の火の球を撃ち出した。
しかし、アランはそれを軽々と躱した。
私はそれに剣を構え、「ファイアボールッ!」と叫んで火の球を射出した。
それに、アランはサイドステップでそれを躱しながら、「おー!」と声を発する。
「何だぁ、君も火が使えるんだぁ! 火属性コンビで攻めてくるんだね!」
「別にそういうわけでもねぇけどッ!」
フレアはそう言いながらヌンチャクを思い切り振るい、アランの体を弾き飛ばす。
距離が出来たことで、彼女はすぐに私に視線を向けてきた。
「おいッ! リアスはどこ行ったッ!」
「リートの所! ちょっと作戦で……!」
「俺は何すれば良いッ!?」
「リートが合図するまでアランの相手ッ!」
「了解ッ!」
私の言葉に応えたフレアは、すぐさまヌンチャクを構えてアランを睨む。
それに、アランはフレアにふっ飛ばされたのを何とか持ち堪え、「いったぁ……」と小さく呟いた。
「もぉ~何すんのさぁ~……って、あの二人何して……」
「余所見してんじゃねぇよッ!」
リートとリアスの方に注意が向きそうになったアランに、フレアはそう言いながらヌンチャクで殴りかかる。
それに、アランはヌンチャクを大槌で弾きながら「ひょえ~」と気の抜けた声を発した。
「おっかないなぁ。これならどうだ!」
アランはそう言うと、大槌をフレアの胴体に向かって横薙ぎに振るう。
しかし、フレアはヌンチャクを手から離すと、その手で大槌を受け止めた。
がっしりと大槌を掴まれ、アランは目を見開いた。
「うわぁ! 何すんだよ~! 離せよ~!」
「はいはい、離してやん、よッ!」
フレアはそう言うと、グルンと体を大きく捻り、大槌ごと彼女の小柄な体を上空に向かって放り投げた。
突然投げ上げられたアランは、驚きに目を見開く。
「何を……ッ!」
「まだまだぁッ!」
フレアはそう叫ぶと空中に投げ上げたアランの服を掴み、投げつけるかのように地面に思い切り叩きつけた。
アランはそれに、「がはぁぁッ……!?」と声を漏らした。
「イノセッ!」
その時、遠くからリートの声がした。
私はそれに、すぐさま倒れたアランの体を掴み、背中から羽交い絞めにして動けないようにした。
「イノセ……!?」
「フレア、そこ離れて!」
驚いた様子で声を上げるフレアに、私はそう声を掛けた。
彼女はすぐに大きく頷き、ヌンチャクを拾ってその場を離れた。
すると、アランの肩越しに、リアスと手を繋いでこちらに向かって空いている方の手を構えているリートの姿があった。
「えぇ!? ちょっと……!」
それを見て、アランは慌てた様子で声を上げ、ジタバタと暴れ出す。
私はそれに、腕に力を込めて彼女を逃がさないように必死に押さえる。
リートの考えた作戦というのは、本当にかなりシンプルなものだった。
まず、私がリアスと交代することで、リアスをリートの元に行かせる。
移動時間やリートがリアスに作戦を伝えたり等をしている間は、私とフレアでアランの相手をして時間を稼ぐ。
どうやら、フレアやリアスはリートの魔力から生まれた存在である為、二人はリートと魔力を共有することが出来るらしい。
つまり、ああして手を繋ぐことで魔力を共有し、強大な魔法を使うことが出来るのだ。
だが、それだけ大掛かりな魔法である為に、絶対に外すわけにはいかない。
なので、魔法が当たる寸前まで、私がアランの動きを止めるのだ。
「氷砲ッ!」
リートがそう叫んだ瞬間、彼女の手から青い光が撃ち出された。
光はまるで光線のように、凄まじい速度でこちらに飛んでくる。
来る……! と思い、私はすぐさまアランの手を離して横に逃げようとした。
しかし、その時……腕が強く掴まれた。
「ッ……!?」
「逃がさないよ!」
アランはそう言って笑うと、私の腕を強引に引っ張り、まるで私を盾にするように前に出した。
ヤバい! と思って身構えた瞬間、背中を強く蹴られた。
「あッ……!?」
「お前が喰らえ!」
アランはそう言ってあっかんべーをすると、素早く光の攻撃範囲から外れる。
コイツッ……! と恨むが、私はすぐさま思考を目の前まで迫ってきている光に向ける。
とにかく今は、目の前の状況をどうにかしなければならない。
「ソードシールドッ!」
叫び、私は咄嗟に剣を構えた。
直後、剣に青い光がぶつかった。
しかし、このスキルはあくまで剣の防御力を上げられるというもので、私自身の防御力を上げられるわけではない。
剣にぶつかった光は弾くことが出来るが、剣で防ぎきれなかった光は私の体に当たり、ピキピキと音を立てて凍り始めていた。
「クッソ……!」
小さく吐き捨てた私は、少しでも早く光から逃れるべく、剣を構えたまま地面を蹴って横に跳んだ。
右腕は剣を握っている手先から付け根までが完全に凍り付き、左腕も二の腕部分より下の方が凍り付いている。
足も所々凍っているようで、まるで正座をした後の痺れているような、感覚が鈍っているような感じがした。
そんな中でも必死に両足を動かして、光の攻撃範囲から避けた時だった。
前方に、アランの姿が見えたのは。
……一緒の方向に避けていたのか……ッ!
「ばぁ~か」
そう言って笑い、アランは私の腕を引いた。
至る箇所が凍り付いた私の体ではそれに抗うことが出来ず、腕を引かれた方に体が動いてしまう。
アランはそれにニヤリと笑うと、腕を引いた時の力を使って、そのまま私の体を放った。
……近くにあった、大きな亀裂の中へと。




