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061 最高のライバル

「うおおおおッ!」


 フレアはそう声を上げながらヌンチャクに炎を纏わせ、近くにいた魔物にぶつけた。

 丸いゼリーのようにプルンとした、半透明の青色の体に、赤色のつぶらな瞳が二つ付いた生物。

 俗に言うスライムのような見た目をした魔物は、フレアのヌンチャクがぶつかると、その体を弾けさせた。

 それと同時に体は炎によって蒸発し、瞬く間に姿を消した。


火球(フースフェール)ッ!」


 リートはそう叫びながら、手を構えた。

 すると、彼女の掌から射出された火の球が目の前にいた二体程のスライムが蒸発し、姿を消す。

 その様子を視界に収めたフレアは、「チッ!」と大きく舌打ちをして、目の前にいるスライムの軍団を睨んだ。


「ンだよこの数はよぉッ! イライラすんなぁッ!」

「愚痴を言う暇があるなら手を動かさぬかッ!」


 ヌンチャクを振り回しながら叫ぶフレアに、リートはそう声を張り上げた。

 しかし、フレアが愚痴るのも仕方が無かった。

 二人がどれだけスライムを蒸発させても、その数を上回るような速度でスライムが増え続け、あまり広くない通路の中で囲まれているのだから。

 少しでもスライムを倒す手を止めれば、瞬く間に辺りはスライムによって埋め尽くされてしまうだろう。

 下手したら、スライムで生き埋めなんてことも有り得る。

 フレアはそれを自覚しているのか舌打ちをして、ヌンチャクを振るって二体程のスライムを始末する。

 スライムが蒸発していくのを横目に見つつ、フレアは口を開いた。


「つってもよォッ! 流石にこの数はねぇだろッ! どんだけ湧いてくんだって話だッ!」

「お主は戦闘好きであろう!? もう少し楽しまぬか!」

「コイツ等は手応えが無さ過ぎてつまんねぇんだよッ!」


 叫びながらフレアは身を捩り、コマのように体を回転させながらヌンチャクを振るった。

 遠心力によって大きく振るわれたヌンチャクは、近くにいたスライムの十体程を一度に葬る。

 それを視界の隅に収めつつ、リートは火魔法で目の前に現れるスライムを葬った。


 しかし、フレアの愚痴にも一理はある。

 スライム自体はそこまで強くないのに、数が多いせいで全ての個体を倒すことが出来ないのだ。

 ダンジョンに侵入してすぐにこのような襲撃に遭っている為に、未だ初期地点からあまり遠くない場所にて足止めを喰らっている。

 行方不明のこころを捜索しなければならないことを踏まえると、その事実は余計に焦燥を募らせ、フレアの苛立ちを加速させていた。


 だが、フレアのように面に出していないだけで、リートも内心ではかなり焦りを感じていた。

 スライムの多さも勿論だが、何よりもこころの安否が心配だったから。

 しかし、フレアを傷つけないように注意しながらでは大掛かりな魔法が使えず、範囲の狭い魔法ではスライムの殲滅は難しかった。

 ──今頃、イノセが危ない目に遭っているかもしれないではないか……ッ!

 内心でそう愚痴りつつ、リートはギリッと強く歯ぎしりをすると、すぐに近くにいたフレアの手を掴んだ。


「あッ!? おい何すん──」

火砲(フーカノン)ッ!」


 リートはフレアの手を握ったままそう叫び、反対の手をスライムの軍団に向かって突き出した。

 すると、掌から今までの火魔法とは比にならない量の炎が、まるで大砲のように噴射された。

 通路いっぱいに広がった炎はその方向にいたスライムを全て焼き尽くし、あっという間に殲滅した。

 リートはすぐに反対方向にいたスライムにも同じ魔法を撃ち込み、先程までの軍勢が嘘のように、全てのスライムを焼失させた。

 彼女の放った炎は水属性の魔力から生まれた壁の岩によって蒸発し、大量の水蒸気を発生させた。

 水蒸気によって視界が埋め尽くされる中、突然の出来事にフレアは驚いていたが、リートがフラッ……とよろめくのを見て、慌ててその体を支えた。


「おいッ、大丈夫か……!?」

「……無理、し過ぎ、た……運べ……」

「は、運べっつったって……」

「魔物がおらん、今が、チャンスじゃ……イノセが心配ではないのか……!」


 顔面蒼白と言った様子の顔色に、荒くなった呼吸で言うリートに、フレアはグッと唇を真一文字に結んだ。

 しかし、すぐにリートの体を肩に担ぎ、片手にヌンチャクを握り締めて駆け出した。


「しっかし、さっきの魔法は何だったんだ? あんなすげぇ魔法があるんだったら、最初から使えば良かっただろ」

「初級魔法で、充分、倒せると思ったのじゃ……あと、妾一人では、あそこまでの威力は、出ん……」

「は? どういうことだ?」


 フレアはそう聞きながら、二手に分かれている通路を左に曲がった。

 彼女の問いに、リートは少し間を置いてから、口を開いた。


「お主の魔力を、使ったのじゃ。お主は、妾の心臓の、火属性の魔力から、生まれた存在であろう? つまり、妾と魔力を、共有できる」

「……? つまり、どういうことだ?」

「……お主の魔力は、妾の魔力と同じじゃ。つまり、お主と魔力を共有すれば、単純に妾の魔力は、二倍になる。さっき使った魔法は、その増えた魔力も少し、込めて、威力を上げたものじゃ」

「なるほど……つまり、俺の魔力を使って魔法の威力を上げたってことか」

「……そういうことじゃな」

「んで、魔力切れ、ねぇ……ま、あの量じゃそうするしかなかったか」


 フレアはそう答えながらヌンチャクを振り上げ、目の前に現れたスライムに向かって振るった。

 一撃で消滅していくスライムを尻目に、フレアは続けた。


「しっかし、魔力切れ起こしてまで先を急ぐとは……よっぽどイノセのことが心配なんだな」

「当たり前であろう。……そう言うお主は、あまり心配はしておらんのか?」

「何言ってんだ。イノセはツエーだろ? ちょっとやそっとじゃ、死にやしないだろ」

「……? イノセは弱いぞ?」


 当たり前のことのように言うフレアに、リートは首を傾げながらそう聞き返した。

 それに、フレアは「はぁ?」と聞き返した。


「何言ってんだよ。アイツは強いだろ?」

「……分からんなら良い。妾のちょっとした独り言じゃ」


 どこか呆れた様子で吐き捨てるように言うリートに、フレアはこめかみに青筋を浮かべながら「あぁッ!?」と聞き返す。

 それに、リートはぼんやりと遠くを見つめながら、小さく口を開いた。


「……妾がイノセを見つけた時、あやつはほぼ死にかけのような状態じゃった」

「……は?」

「腕と足が一本ずつ千切れた状態でのう。むしろ、あの状況からよく生き延びたものじゃ」

「おい、急に何言ってんだよ」

「独り言の延長じゃ。気にするな」


 リートの言葉に、フレアは不満そうに口を噤みつつも、足を止めずに通路を駆け抜けた。

 それに、少し間を置いてから、リートは続けた。


「イノセは弱いぞ。すぐに一人で無理をするし、妾と会う前は自分の意思もロクに口に出せない、流されやすい性格だったらしいしのう」

「……あのイノセが?」


 頬を引きつらせるようにして笑いながら、フレアはつい聞き返す。

 彼女の脳裏に過るのは、リートの奴隷だからと自分の前に立ちはだかる姿や、リートと喧嘩しているといつも仲裁に入って来る姿だった。

 大人しい性格ではあるが、それでも自分の意思をハッキリと口に出来る、強い人間であるように感じていた。

 フレアの言葉に、リートはクスッと小さく笑って「意外か?」と聞き返した。


「まぁ、会ったばかりの頃に比べれば、大分自分の意見を口にするようにはなったかもしれんのう。……じゃが、まだ弱いというか……放っておけないのじゃ。自分の意思が弱いから、妾達を優先して無理してしまうかもしれん。あやつは割と自己犠牲的な部分があるから、そこが不安じゃ」

「……それは、なんか分かる」


 リートの言葉に、フレアはそう重々しく答えた。

 言われてみると、確かに自分が合流してからでも、そう思う節は幾つかあった。

 自分がこころの強い部分だけを見て、弱い部分には目もくれていなかったことに気付き、辟易とした。


 ──コイツ、イノセのこと、俺よりちゃんと見てんじゃん。

 内心で、そう呟く。

 これがこころと会ってからの時間の差ではないことは、なんとなく自覚していた。

 仮に出会っていた順番が逆だったとしても、きっと自分はこころの強い部分しか見ようとせず、リートのように彼女の全容を把握しようとしていなかったかもしれない。


「……あー、なんか悔しいッ!」

「うおッ、急に何じゃ?」


 急に大声を上げるフレアに、リートはギョッとした表情を浮かべて聞き返す。

 フレアはそれには答えず、少し俯きながら「……負けてらんねェ」と小さく呟いた。


「やっぱ、お前は最ッ高のライバルだわ」

「は? 急に何を……」

「さっさとイノセ見つけるぞ! 今じゃ勝負になんねぇ!」


 そう言いながら、フレアは中層への階段を駆け下りていく。

 リートはそれにしばらく驚いていたが、やがて大きく溜息をついてから、「望むところじゃ」と答えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 恋敵(?)同士の共闘、アツいです...! リートとフレア、元は同じものなのにこころに対する接しかたや理解に差があり、それぞれのキャラが垣間見えます。 水の番人戦も今から楽しみですね...!
[一言] 『061 最高のライバル』読ませて頂きました! やっぱリート、燃費悪いなぁ……。強力な魔法使うとすぐ魔力が空になっちゃいますね。
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