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051 協力者の存在-クラスメイトside

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 ダンジョンの魔女の失踪に続き、心臓の回収事件があったことにより、クラインは魔女の情報を集めることにした。

 まだギリスール王国に魔女を倒す手段は無いが、それでも、このまま魔女の動向を見過ごすことは出来なかった。

 だから、クラインは国王に掛け合って城の騎士数名の小隊をヴォルノに向かわせ、魔女に関する情報を探させた。


 魔女の情報は、三百年前の宮廷魔術師が記したものが残っており、そこにあった見た目の情報を頼りにヴォルノにて情報を集めることになった。

 この世界では髪と目の色が違うこと自体が珍しく、黒髪に青い目を持つ女となると、かなり限られてくる。

 ヴォルノにてここ数日での目撃情報を集めれば、自ずと魔女の動向は掴めるものだと判断していた。

 ……だというのに……。


「……どういうことだ……?」


 帰還した騎士団の持って帰ってきた魔女の目撃情報に、クラインは重々しく呟いた。

 魔女の目撃情報が無かった……というわけではない。

 正確な期間は定かではないが、黒髪に青い目をした少女の目撃情報は多数集められた。

 問題は……一人でいる所を見た目撃情報が、一つも無いのだ。

 ある者は白髪に赤目の少女といるところを見たと言うし、またある者は赤髪に同色の目をした少女といるところを見たと言う。

 またある者は、その二人と一緒に、三人で歩いていたと話す。


 この状況に、クラインは頭を悩ませた。

 今まで、魔女は一人で行動しているものだとばかり考えていた。

 当然だ。大体、自分の住む世界を脅かしかねない魔女に協力するなど、正気の沙汰ではないのだから。

 しかし、魔女に協力者がいるとなると、これまで積み重ねて来た計画が白紙に戻る可能性すら出てくる。

 単純に、倒す敵が増えるのだ。今の計画を一度見直し、練り直さなければならないのは間違いない。


 赤髪の少女に比べて白髪の少女との目撃情報の方が倍以上あることから、少なくとも、白髪の少女とやらが魔女に協力しているのは確実と見て良いだろう。

 最低でも一人、現段階では、最大二人の協力者がいる。

 その事実に、クラインは頭を抱えた。


 しかし、協力者候補として目撃されている二人の内、赤髪の少女については目星が付いていた。

 恐らくだが、それは魔女の心臓を守らせていた守り人のフレアだ。

 この世界で赤い髪など珍しくは無いので正確ではないが、元々守り人に自我が芽生え、支配出来なくなっていたことを考えると不思議ではない。

 心臓を回収されたことによって自由の身となり、魔女に唆されて同行したという可能性は十分に考えられる。


 問題は……と、クラインは白髪の少女の目撃情報について書かれた紙を見つめた。

 彼女については、全く手がかりが無かった。

 魔女と一緒にいるところは目撃されているが、二人がどういう関係なのかとか、そう言った情報は不明だった。

 白髪が銀髪の間違いで、目も同色であれば風の心臓の守り人の可能性もあったが、赤い目と言われていることからその可能性は無い。

 魔女の黒髪に青い目と同様、白髪に赤い目も相当珍しい。

 そんな二人組が歩いているのを見れば忘れるはずもなく、見間違えることも無いだろう。


「白髪に、赤い目……か……」


 小さく呟きながら、クラインはトントンと机を指で叩く。

 この二人組が目撃された場所の中には料理店や宿屋などもあり、赤髪の少女の情報よりも多いことを考えるに、二人はヴォルノに来る前から行動を共にしていた可能性が高い。

 考えられるとすれば、ダンジョンを出てからヴォルノに着くまでの間に協力関係になったか……──


「──ダンジョンの中で……か……」


 クラインはそう呟くと、僅かに目を細めた。

 彼の中で、徐々に点と点が結ばれ、一本の線を結んでいく。

 あくまで確証の無い、例えばの話。

 例えば、もし……──その協力者が、死んだクラスメイトの内の一人だったら……?


「……」


 脳裏に浮かぶ一つの仮説に、クラインは机を叩く手をピクッと止めた。

 しかし、考えられなくもなかった。

 指輪からの魔力の反応が途絶えたため死んだと判断したが、実際のところ、三人の生死をこの目でハッキリと確認したわけではない。

 魔女が何らかの形で指輪に干渉した結果、魔力の反応を追えなくなったという可能性もある。


 元々別の世界から強引に召喚された彼女等には、この世界への愛着などほぼ無いに等しい。

 そこに魔女が何かを吹き込んで仲間に引き入れた可能性は、充分に考えられる。

 生まれてからずっとこの世界に生きている人々に比べれば、三人の内の誰かが魔女に協力している可能性の方が、圧倒的に高いだろう。


 そこで気になるのはやはり、見た目の情報だ。

 亡くなった三人どころか、召喚した生徒の中に髪色と目の色が違う生徒は一人もいない。

 白髪と赤い目を分けて考えれば、亡くなった生徒の内の東雲理沙と葛西林檎のどちらかである可能性は高いだろう。

 髪と目の色の違いには疑問が残るが、そこは魔女が何らかの術を施したと考えれば、まぁ納得は出来る。


『前に、ダンジョンに行って死んだメンバーの中には……私の友達もいます』


 その時、クラインの脳裏に、先日の友子の言葉が過った。

 彼はそれに、口元を手で覆い、考え込む。

 ──……このことは、彼女に伝えるべきなのだろうか……?

 一瞬湧いた考えに、クラインは少し考えて、静かに首を横に振った。

 考えるまでも無い。生きている生徒が彼女の友達である確証は無いのだし、違った場合は不必要に彼女を傷つけるだけだ。

 そもそも、死んだ生徒である可能性が高いというだけの話で、確実にそうであるとも言い切れない。

 クラインは眉間を揉んで小さく息をつき、魔女の目撃情報が書かれた紙から視線を離した。


 協力者の存在に意識が削がれていたが、結果として、心臓の回収を行ったのは魔女で間違い無さそうだった。

 問題は、協力者がいることにより彼女の行動が速まり、想定していたよりも早く心臓の回収を行っていること。

 このペースなら、次の心臓の回収の報告が来るのも、時間の問題だろう。

 ダンジョンからヴォルノへの道筋を考えると、そのまま直線上に南下していき、タースウォー大陸のリブラにある、水の心臓を回収しに行くと考えるのが妥当。

 クラインは苛立ちを隠さぬまま貧乏揺すりをしつつ、軽く舌打ちをした。


 何もかもが、上手くいかない。

 協力者を得て想像以上の速度で心臓を集める魔女に対し、こちらはただでさえダンジョンで三人と城内での殺人事件で一人、戦力を失っている。

 オマケに、その影響か残ったメンバーの結束も崩れ、現在もまだ完全には解決していない。

 ひとまず元々作っていたグループ内での連携は上手く行っているみたいだが、それでもやはり、ぎこちなさは拭えない。


 とはいえ、このまま現状維持でいるつもりはない。

 現在、柚子達のグループはダンジョンへと潜り、レベルアップに勤しんでいる。

 ダンジョン内でのレベルアップは上手く進んでいるらしく、このまま行けば、三つ目の心臓を回収されるより前に動き出すことが出来る。

 二つ目の心臓は諦めることになるが、この際致し方ない。

 そもそもの目的は魔女の動きを止めることであり、心臓の破壊はその為の手段でしかないのだ。


 当面の目的は、三つ目以降の心臓を、魔女に回収されるより先に破壊すること。

 そして、最終的には魔女を殺す。

 全てが終われば、召喚した生徒達は元いた世界に帰せば良い。

 クラインはそこまで考えて、拳を強く握り締めた。

 ──そうなれば、私の悲願の達成も近い。

 心の中で呟き、僅かに口角を上げる。


 ──だが、今はまだ、そのことを考えるには早すぎる。

 クラインはフードを深く被り直し、立ち上がる。

 ──今はとにかく、目先のことに集中しよう。

 そう心の中で続けつつ、クラインは資料を片付け、部屋を後にした。

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