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044 一触即発

 あれから、ダンジョンを脱出してヴォルノの町に戻る頃には日も暮れかけていたので、宿屋で一泊して休むことにした。

 どうやら私達はダンジョンの中にほぼ丸一日潜っていたらしく、宿屋の部屋に入ると途端に疲労感がドッと溢れ出し、二人揃ってそのまま気絶するように眠ってしまった。

 目を覚ますとすでに朝になっていたので、朝食をとって、ボロボロになっていた服の修繕をして宿屋を後にした。


 余談だが、魔力での強化をした服は、魔力を流すと傷などを修復することが出来る。

 これは、冒険者の使っている防具なども同様らしい。

 あれだけマグマやら炎やらでボロボロになっていた服も、リートが魔力を流すだけであっという間に新品同様に戻るものだから、流石に驚いた。


「これって凄い技術だよね」

「そうか? 魔法の知識が少しあれば、当たり前のことだと思うが……」


 町の中を歩きながら褒めると、リートはそう言いながら目を伏せる。

 それに、私は「そんなことないって」と返した。


「私のいた世界では、服に穴が空いたりしたら自分で縫ったりして直さないといけなかったからさぁ。一瞬でこんなに綺麗に直せるのは凄いよ」

「そうか……そういうものか……」


 私の言葉に、リートはそう呟きながら、どこか照れ臭そうに目を伏せた。

 頬を赤らめている彼女の姿に、私は少しだけ驚いた。

 なんていうか、照れてる彼女の姿って、新鮮だなぁと思った。

 昨日あんなに平然とキスした彼女とは、本当に同一人物なのだろうか?

 実は二重人格だったりしない?


「確かにそうだよなぁ。あんなボロッボロだった服が、ここまで直っちまうなんてスゲーよ」


 そして、隣からそんな声がした。

 すると、リートは途端に表情を不機嫌そうに曇らせ、その声の主をジロッと睨んだ。


「宿屋を出た時からずっと言おうと思っていたが……なんでお主がここにおる!?」

「えー、別に良いじゃんかよ~」

「ダメじゃ!」


 ヘラヘラと笑いながら言うフレアに、リートは不満そうにそう怒鳴った。

 私を挟んで言い争う二人を「まぁまぁ」と宥めつつ、フレアに視線を向けた。

 リートのように不満を露わにするつもりは無いが、それでも、当たり前のように一緒に歩いているフレアに疑問はあった。

 宿屋を出てから少し歩いていると当然の如く私の横に並び、気のせいだと思って無視していてもこうして相槌を打ったりしてきて、リートも流石に無視できなかったのだろう。


「えっと……なんでここに?」


 ひとまず、フレアを刺激しないように言葉を選びながら、そう聞いてみる。

 ずっと一緒に歩いていたことから敵対の意思は無さそうだが、それでも彼女が戦闘狂であることに変わりは無い。

 ちょっとしたことで怒って暴れる可能性は、ゼロではない。


「なんで、も何も、お前等が俺を生かしたんだろ?」


 私の言葉に、フレアはそう言いながら首を傾げる。

 彼女はそれからガリガリと頭を掻き、続けた。


「自分の好きなように生きろとか言われても、俺今まであの部屋から出たこともあんま無いから外のこととか分かんねーし、ずっと戦いたかったリートとも戦って……ぶっちゃけ、やりたいことが無いわけよ」

「それが、なぜ妾達に付き纏うことになるわけじゃ?」

「まーそう急ぐなって」


 急かすように言うリートを宥めるように、フレアが言う。

 彼女の言葉に、リートは明らかに不機嫌そうな表情を浮かべ、「チッ」と分かりやすく舌打ちをした。

 うわ、ここまでイライラしてるリート見るの、何気に初めてかも。


「で、俺を自由にしたのは、お前等二人。……そんでもって、俺が知ってる自分以外の人間も、お前等二人」

「つまり、頼れる人が私達しかいなかったから、私達の所に来た……と?」

「そーゆーこと!」


 私の言葉に、フレアはニカッと笑いながらそう言って、ビシッと指をさした。

 すると、リートは不機嫌そうに「却下じゃ!」と声を上げた。


「急にそんなこと言われても知らん! 妾達は二人で旅をしておるからのう」

「じゃあ、今ここで俺を殺すか?」


 断固拒否という態度を取るリートに対し、フレアはそう言いながら自分を親指で指さした。

 それに、リートはギョッとした表情で、フレアを見た。

 すると、彼女はニヤリと笑い、続けた。


「俺は引かねーぜ? 一人になったら、いよいよ何すりゃいいか分からなくなるし、何が何でもお前等に付いて行く」


 フレアの言葉に、私は言葉を失った。

 彼女は彼女で強い意志を持っており、譲る気は無さそうだった。

 まぁ、彼女を殺さなかった私達にも責任はあると思うし、今後の世話を見る義務はあると思うが……。


「……私は、別に良いと思うけど……?」

「イノセ!?」


 なんとなく同意してみると、リートが驚いた声を上げた。

 それに、私は「えっと」と頬を掻きつつ、続けた。


「フレアを生かしたのは私達だし、彼女の今後について全く何も考えずにあんなことしたのは、無責任だったと思う。責任を取る義務はあると思うし……それに、彼女は強いし、仲間になれば心強いかな、って」

「おっ! イノセ、話分かるじゃねぇか!」


 私の言葉に、フレアはそう言ってバンバンと背中を叩いてくる。

 彼女の攻撃力は私の防御力に平気で通用するので、叩かれると割と痛い。

 苦笑していると、リートは「じゃが!」と口を開いた。


「それでも、元々妾を倒すために生まれた奴じゃぞ? 今後一緒に過ごしていったら、何をされるか……」

「あー、それなら大丈夫だ。気にすんな」

「何をじゃ」


 不満そうに言うリートに、フレアは私を一度どかし、彼女に近付く。

 それからリートの胸を指でトン、と軽く突き、口を開いた。


「俺が生まれたのは、お前から心臓を守る為だ。で、その心臓をお前が回収した今、俺はお前から心臓を守る理由が無い。つまり、お前と戦う理由は無い」

「……妾から心臓を奪い返すつもりは?」

「それかなりグロくね? 俺そんな繊細作業、絶対無理だし」


 物騒な仮説を唱えるリートに、フレアはそう言ってヒラヒラと手を振った。

 しかし、そうなってくると、余計にフレアの同行を許さない理由は無いと思う。

 リートはなぜか嫌ってるけど……。


「……イノセは、賛成なのか?」

「ん? まぁ、断る理由も無いし……」


 どこか不満げな様子で聞いて来るリートに、私はそう答えて見せる。

 すると、リートはさらに不満そうな表情になるが、やがて大きく溜息をついた。


「……足手まといになるでないぞ」


 小さく呟くリートに、フレアは「よっしゃぁッ!」と大きな声で言いながら、ガッツポーズをした。

 それに、リートは煩わしそうにしながら、耳を塞いだ。

 二人の様子に苦笑しつつ、私はフレアに視線を向けた。


「でも、そんなに喜ぶとは思わなかった。……そんなに一緒に来たかったの?」

「ん? そりゃあそうだろ。だってお前がいるんだからな」


 私の言葉に、彼女は笑顔でそう言いながら、ガッと強引に肩を組んで来た。

 予想外の言葉と行動に、私は「へっ!?」と素っ頓狂な声を上げて驚く。

 すると彼女は、犬歯を見せて笑いながら続けた。


「だって、お前すっげぇツエーじゃん? 俺、強い奴好きだぞ」

「いや、あれはリートのおかげで……」

「そうじゃなくてさ。戦いももちろん強かったけど、お前、すごいボロボロになってもリートを守ろうとしてたろ? 俺、それがすげぇカッケーと思ったし、お前のことすっげぇ強い奴だと思ったんだ。だから、お前と一緒にいたい!」


 そう言ってニカッと笑うフレアにどう答えようか迷っていた時、リートが彼女の腕をガシッと掴んだ。

 見ると、その顔はかなり不機嫌そうだった。


「イノセに勝手に触れるな。妾の奴隷じゃぞ」

「俺はアンタの分身みたいなものなんだから、別に良いじゃねぇか。それとも……愛しのイノセを取られるのが不安か?」


 言いながら、フレアは私の肩をガシッと強く掴む。

 二人の間に流れる不穏な空気に、私は困惑する。

 なんていうか、火花が散っているというか……一触即発の空気感。

 ……出来れば関わりたくない。

 少しして、フレアは小さく息をつき、パッと私の肩から手を離した。

 それにリートは表情を緩め、前を見た。


「まぁ良い。それより、先を急ごう」

「……これから、どこに向かうの?」

「ひとまず、南に向かって……この大陸の最南端にある、イブルーという国のイブルー港を目指す」

「港、と言うと……船に乗るの?」


 地図を広げながら説明するリートの言葉に、私はそう聞いてみた。

 すると、彼女は顔を上げて、コクッと頷いた。

 それに、フレアはピクッと僅かに反応を示した。


「なるほど。つまり、次に目指すのは……」

「あぁ。ここより南にある大陸、タースウォー大陸のリブラという国じゃ」


 そこに二つ目の心臓はある、と。

 どこか不敵な笑みを浮かべながら、リートは言った。

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