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041 フレア①

 リートのいる小島に着地した私は、呆然と龍の魔物が沈んでいった箇所を見つめた。

 先ほどのマグマの槍は、一体何だったのだろうか。

 リート……ではないだろう。彼女の魔法は龍の到達に間に合わなかったのだから。

 当然、私でもない。

 そうなれば、消去法としては、私達以外の第三者の介入があったと考えるのが妥当だ。


「一体……誰が……」

「さぁな」


 背後から聴こえた声に、私はパッと振り向いた。

 そこには、どこか疲れたような表情を浮かべながらも、こちらに歩いて来るリートがいた。

 彼女は私の元まで来ると、龍の魔物が沈んだ方向に視線を向けて、ゆっくりと続けた。


「もしかしたら……このダンジョンで、妾の心臓を守っている奴かもしれんのう」

「えっ……?」

「龍の魔物が殺された時、このダンジョンの中にある心臓から僅かに反応があった。恐らく、奴が何かをしたのじゃろう」

「……なんで……」


 リートの言葉に、私はそう呟く。

 だって、おかしいじゃないか。

 ダンジョンの心臓の守り人は、リートから心臓を守る為に昔のギリスール王国の宮廷魔導士が生み出したもの。

 つまり、リートを助ける理由が無い。


「そんなのこと分からぬ。……じゃが、本人に会えば、きっと分かるじゃろう」


 リートはそう言うと、両手を広げてきた。

 ……早く行こうという催促だろうか。

 だが、このまま考えていても分かるはずもないし、それなら早く先に進んだ方が得策だ。

 私はすぐに彼女を背負い、また先程のように移動を始めた。


 龍の魔物の一件があってからは特に目立つ障害も無く、何とか下層を抜けることが出来た。

 リートの道案内により辿り着いたのは……赤い壁に出来た、石の扉だった。

 ひとまずその前の陸地の上でHPの回復や水分補給をしつつ、私は扉を見つめた。


「……この奥に、このダンジョンのボスが……」

「……さっさと行こう。もうマグマは見飽きたわい」


 リートはそう言うと、石の扉に手を添えた。

 しかし、彼女の力では扉は開けられない様子で、どれだけ力を込めても開きそうになかった。

 私はそれに苦笑し、同じようにして扉に手を添え、一緒に開いた。

 すると、ズズズッと音を立てて、扉が開いた。


「……おっせぇよ」


 扉を開けた途端、そんな低い声がした。

 部屋の中はダンジョンと同様に、床の所々にマグマ溜まりがあり、壁に空いた穴からマグマが流れ出ている。

 炎のように赤い部屋の奥の壁に出来た出っ張りに、誰かが腰かけているのが見えた。


「ずっと待っていたんだよ……テメェの到着を」


 言いながら、彼女は出っ張りからゆっくりと立ち上がる。

 それは、私と、同い年くらいの見た目をした少女だった。

 炎のように赤いショートヘアに、同色の目には闘志の炎をギラギラと燃やしながら、彼女は私達を見つめている。

 いや、私達というよりは……私の隣にいる、リートだけを……?


「……誰じゃ、お主は。妾はお主など知らん」


 リートはその少女の言葉を、バッサリと切り捨てた。

 容赦ないな……と呆れていると、赤髪の少女は「くっははは!」と笑いながら、自分の目元を手で覆った。

 そして顔から手を離し、ニヤリと笑って続けた。


「あぁそうだなァ……そういえば、初めましてだったなァ、リートさんよォ」

「なんで、妾の名前を知っておる?」

「ンなの、俺がアンタの心臓から生み出されたからに決まってんだろ?」


 その言葉に、リートは微かに目を見開いた。

 なるほど……コイツが、リートの心臓の守り人、か……。

 すると、彼女はずっと握り締めていた金属製のヌンチャクを振って肩に掛け、私に視線を向けて「お?」と声を上げる。


「アンタは流石に初めまして……だよな?」

「あぁ、うん……初めまして?」


 確認するように言う彼女に、私はそう返す。

 すると、彼女は大股でこちらまで歩いて来て、私の手を強引に掴んでブンブンと握手してきた。


「俺はフレア! このダンジョンで、そこの魔女……リートの、心臓の守り人をしてる」


 フレアと名乗った少女は、そう言ってニカッと笑った。

 笑うと、綺麗な犬歯が牙のように露わになる。

 それも相まって、笑うと犬っぽいな、とか思いつつ私は口を開いた。


「わ、私は、猪瀬こころ……リートの、えっと……」

「妾の奴隷じゃ」


 何と説明しようかと困っていると、リートがそう言って、フレアと繋いでいた手を強引に離させた。

 すると、フレアは少し不機嫌そうな表情をしながら「奴隷?」と聞き返した。

 それに、リートは頷く。


「そうじゃ。じゃから、あまり触れるでない」

「へぇー……つまり、アンタはリートの味方ってわけ?」


 そう聞いて来るフレアの声が、ワントーン低くなったのを感じる。

 ひとまず頷いておくと、彼女は「あ、そう」と呟き……ヌンチャクを、リートに向かって思い切り振るった。


「危ないッ!」


 私は咄嗟にリートの腕を引っ張って背中に隠しつつ、左腕でヌンチャクを強引に受け止めた。

 すると、ミシィッと腕から鈍い音がして、激痛が走る。


「ぐッ……」

「んじゃあ、二人共倒して良いってことだよなァッ!?」


 満面の笑みで言いながら、フレアはすぐさまヌンチャクを引き戻し、二発目を放とうとしてくる。

 それに、私は咄嗟に右手でリートを抱きしめ、距離を取るように後ろに向かって駆け出す。

 フレアが放った二発目は空を切り、鉄製のヌンチャクは地面にぶつかる。

 直後、バコォッ! と鈍い音を発しながら、地面の一部が抉れた。


「なッ……」

「おいおい逃げんなよォッ! 心臓が欲しいんだろォッ!?」


 ギラギラと闘争欲に目を輝かせ、狂気的な笑みを浮かべながら、彼女はヌンチャクを振るってくる。

 それに、私はすぐに右手で剣を抜き、両手で構えようとする。

 しかし、左手は突如として痛みが走り、ダランと力無く垂れていた。

 ……まさか、さっきの攻撃で……!?


「イノセ!?」

「はぁぁぁぁッ!」


 背後から聴こえたリートの声に、フレアの声が重なる。

 それに、私は右手のみで剣を構え、ヌンチャクを受け止めようとする。

 しかし、ヌンチャクはまるで生き物のように滑らかに動き、せいぜい直撃を避けることしか出来なかった。

 片手が動かない分当然私が不利なわけで、あたりまえのように押されていた。


麻痺(パラリィジィ)ッ!」


 その時、気付けば離れた場所にいたリートがそう叫んだ。

 刹那、フレアの動きがビクッと制止した。


「んなッ……」

「……動きさえ止めてしまえば、こちらのものじゃ……!」


 リートはそう言って小さく笑うと、すぐに部屋の奥に向かって駆け出した。

 一体何が? と思って奥を見ると、フレアが腰かけていた出っ張りに赤い石が乗っているのが分かった。

 よく見てみると、ドクッドクッと、まるで脈動するように動いている。

 まさか……あの石が心臓?

 しかし、あれを心臓だと仮定すれば、リートの行動にも納得がいく。

 元々私達の目的は心臓の回収なのだから、フレアの動きを封じて心臓さえ回収してしまえばこちらのものだ。


「させねぇよ」


 リートの行動に立ち尽くしていた時、フレアがそう小さく呟いたのが聴こえた。

 それにフレアに視線を向けそうになった刹那、部屋の中にあったマグマ溜まりが蠢き、龍のような形になっていくのが見えた。


「なッ……!?」


 驚いたのは一瞬のこと。マグマの龍が、リートの背中に向かって襲い掛かった。


「リート! 伏せてッ!」


 咄嗟に、私は叫んだ。

 リートはそれに驚いたのか足を止め、こちらに振り向く。

 すると、背後に迫っていたマグマの龍に気付いたのか、すぐにその場にしゃがみ込んだ。

 マグマの龍はリートの頭上を通り、壁に直撃してすぐに元のマグマに戻る。

 液状に戻ったマグマがリートが掛かりそうになったが、彼女はすんでのところで横に跳ぶことで躱した。


「油断してんじゃねぇよッ!」

「……!?」


 フレアの声に、すぐに私は視線を戻した。

 直後、フレアは私のこめかみの辺りに容赦なくヌンチャクをぶつけた。

 視界に閃光が走り、頭がかち割られるような痛みを感じながら、私は地面に倒れ伏せた。


 ……クソッ……頭が痛い……。

 ヌンチャクをぶつけられた箇所に激しい痛みが走り、立つことすらままならない。

 なんとか立ち上がろうとしていると、リートがこちらまで駆け寄ってきた。


「イノセッ!? 大丈夫か!? イノセッ!」

「おいおい、まさかその程度とか言わねぇだろうなァ……? 魔女と、その奴隷さんよォ?」


 その声に、私はズキズキと痛む頭を押さえながら、視線を上げて声の主を見た。

 するとそこには、ヌンチャクをブンブンと振り回しながら、こちらを見下ろすフレアの姿があった。

 彼女はニヤリと笑い、ゆっくりと続けた。


「まだまだこれからだろ? ……なァ、もっと楽しませてくれよ」

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