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038 想像もしたくない

 何とか上層を抜けて中層に行くと、熱気が増したように感じた。

 リートの凍結(コンジェリー)の効果が切れかけていたのもあり、私達は水分補給も兼ねて水を飲み、下層を目指して中層を歩いた。

 中層は、見た目自体に大きな変化は無く、相変わらず大きな通路でマグマがボコボコと泡立っていた。

 ……変化があるとすれば……。


「まさかマグマから出てくるとは……」


 私はそう呟きながら、背中にリートを隠しながら剣を抜き、目の前にいるリザードマンのような魔物に向ける。

 またマグマから魔物が出てくるので、ひとまず避けて毒魔法での殲滅を考えていたら、まさかの二足歩行で、こちらと戦う気満々といった様子で上陸してきたのだ。

 ……上層にタツノオトシゴみたいな魔物がいたから、あれの進化版のようなものだろうか?


「奴は……グランルリザードじゃな。人型じゃが、知能は低いからそんなに警戒する必要は無いぞ。思う存分やってしまえ」


 私の背後にいるリートは、そんな風に命令してくる。

 それに剣を構え直した時、リザードマンが火の球を吹いてきた。


「っと……!」


 咄嗟に避けようとした私は、背後にリートが隠れていることを思い出す。

 ……ここで避けるわけにはいかない、か……。

 避けようとした私はすぐにその場に踏みとどまり、剣を振るって火の球を両断する。

 真っ二つに裂けた火の球は、空中で霧散する。

 ……以前私が使っていたクランプボールのように、投網のような二段構造は無しか。

 そんな風に考えていると、リザードマンがさらに二度火の球を射出してきた。


 私はそれを全て両断し、リザードマンに向かって駆け出した。

 このまま火の球攻撃をいなし続けていても、埒が明かない。

 一気にリザードマンの懐まで潜り込んだ私は、こちらにパンチを繰り出してくるリザードマンの拳を躱し、その動きを利用して剣で斬りつけた。


「ギャァァッ!」


 恐竜の鳴き声のような叫びを上げながら、リザードマンは地面に倒れ伏せる。

 剣をしまっていると、リートがこちらに駆け寄ってきた。


「……まさか、マグマから出てくるとは……予想外じゃったな」


 そう言いながら、彼女はリザードマンの死体を一瞥する。

 私はそれに「そうだね」と言いながら、辺りのマグマを見る。

 この中にはきっと、先程のリザードマンのような魔物がわんさかいることだろう。

 上層の時はたまに飛び出してくる魔物に対処しつつ進めば良かったが、この層だと陸に上がってでも戦ってくるから、めんどくさいな。


「毒魔法で殲滅するか?」

「いや……あまり刺激しない方が良いかもしれないし、さっさと通り抜けてしまおう」


 私はそう言いつつリートの腕を引き、すぐに通路を歩き出す。

 しかし、こちらからは分からないのに、魔物側からはこちらの姿を見ることが出来るとは中々に面倒なハンデだ。

 上層でのナマズの不意打ちすら厄介だったと言うのに、中層では陸に上がっての攻撃すら可能になるとは……。

 これが下層に行くとどうなるのだろう。……想像もしたくない。


「……イノセ、ストップ!」

「んぁッ!?」


 突然腕を強引に引っ張られ、私は変な声を上げてしまった。

 驚きつつ視線を向けてみると、リートは片手で私の腕を掴み、もう片方の手を膝について呼吸を荒くしていた。

 ……まさか……。


「……疲れました?」

「……おんぶしろ」


 私の質問を無視するように、彼女は言う。

 ……疲れたなら正直に言えよ……。

 しかし、おんぶでは両腕が塞がる為、魔物の襲撃に遭った時に対処出来ない可能性が高い。

 上層で彼女を運んだ時のお姫様抱っこでもダメだし……だからと言って、どこかで彼女の体力が回復するまで休むのは時間の無駄だ。

 剣は最悪片手さえ空いていれば使えるから、片手で彼女を運ぶ方法……。


「……あっ」

「……イノセ……?」


 小さく声を漏らす私に、リートは未だ少し呼吸を乱しながらも、小さくそう聞き返す。

 ひとまず一旦彼女の言葉を無視して、私は彼女の腰に腕を回し、肩に担ぐ形で抱えた。

 確か、お米様抱っこ……とか言うんだったか?


「うわっ、イノセッ! 何をしておる!」

「ちょっ、一々暴れないでよ!」


 驚いたのか、リートは私に抱えられたままジタバタと暴れる。

 前々から薄々気付いていたことだが、奴隷と主という関係のせいか、私のステータスはリートに対してはあまり適応されない。

 こうやって抱きかかえたりする分には問題無いのだが、私の攻撃力はリートには効かないし、リートの攻撃に対しては防御力のステータスが効かない。

 だからか彼女の攻撃はバッチリ私にダメージが入るので、こうして暴れるだけでも私のHPはジワジワと減っていっている。

 っていったぁ! 今蹴りが鳩尾入ったッ!


「おんぶじゃ魔物に襲われた時に対応できないでしょ!? これなら剣は振れるから、少しくらいは対応できる!」


 私の言葉に、リートはピクッと体を硬直させた。

 それに私は大きく息を吐き、彼女の足をポンポンと軽く叩いた。


「まぁ、勝手に抱えたのは悪かったよ。せめて一言言っておけば良かったよね。ごめん」

「……り……」

「ん?」

「尻を触っておるッ!」


 叫びながら、リートは私の腹に蹴りを喰らわせてこようとしてくる。

 咄嗟に空いている方の手を間に出すが、それでもやはり私のステータスは適応されず、威力を殺すことが精一杯だった。

 体勢を崩しそうになるのを必死に堪えていると、リートはまたもやジタバタと暴れた。


「せめて尻から手を離せ! セクハラじゃぞ!」

「あーもう! 同性同士なんだから、今更そんなこと気にしないでよ! 昼間の間接キスと同じようなものじゃん!」

「全然違うわッ! 良いから支える場所を変えろと……ッ!」


 二人でギャーギャーと言い合っていた時、彼女は突然口を噤んだ。

 それに振り返ろうとした時、マグマからリザードマンが一体と、四本足が生えたナマズのような魔物が二体、通路に上陸してきていた。

 突然の出来事に、私はピタッと足を止めた。


「……騒ぎ過ぎた?」

「囲まれた……な」


 リートの言葉に、私は後ろに振り向く。

 するとそこには……ナンダアレ。

 なんていうか……アレだ。オタマジャクシの進化過程の中にある、可愛らしいオタマジャクシの体にカエルの四本足が生えたような生物が二体。

 ナマズに四本足は完全にナマズの進化形なんだろうけど、オタマジャクシは何だ? ウナギか? むしろ退化してね?


 リートを下ろす時間は……無いな。

 すでに奴等は臨戦態勢に入っている。

 ここで下ろしている間に、攻撃される可能性が高い。


「後ろは妾に任せて、お主は前方の魔物にだけ集中しろ」

「……了解」


 私はリートの言葉に頷き、剣を抜いて目の前のリザードマンとナマズに向ける。

 すると、リザードマンはいきなり火の球を二発噴き出してきた。


「……ッ!」


 私は咄嗟に体を捻り、火の球を躱す。

 すると、火の球はちょうど後ろにいたオタマジャクシモドキにぶつかる。

 ラッキーと一瞬思うが、どうやら火の球は効かないらしく、特にダメージは無さそうだった。

 ……って、当然か。マグマの中にいても平気なのに、今更火の球如きでダメージが入るわけがない。

 私はすぐに体勢を取り直し、リザードマン達に向かって駆け出した。


(プワゾン)ッ!」


 すると、リートがそう叫ぶのが聴こえた。

 後ろは彼女に任せて大丈夫そうだと判断し、私は剣を構え直して駆け出す。

 距離さえ詰めてしまえば、もう火の球は噴けまい。

 近接攻撃さえ躱せば、後はもうこちらのもの……ッ!


「イノセッ!」


 その時、リートが叫んだ。

 彼女らしからぬ、緊迫した声だった。

 私はそれに、咄嗟に剣を捨てて両手で彼女の体を支えながら、後ろに振り向く。

 するとそこには……火の球が一つ、こちらに飛んできていた。


「……ッ!?」


 驚きながらも、私は咄嗟にリートを庇うように体を捻り、火の球に半身を向ける。

 刹那、視界に炎が広がる。

 ステータスの恩恵か、痛みや熱さはそこまで感じな……──あぁいや、少し熱いな。

 服の袖が燃えて、剥き出しになった肌に僅かに熱気を感じる。

 まぁ、それでもほんの少しの熱気や痛みで済んでいるだけマシか……と納得している時、足元から地面が無くなるような感覚を覚えた。

 何が起こっているのか理解出来ず、私はすぐに炎を振り払い、状況を把握する。


 私の体はほとんど地面と平行になるような状態になっており、空中に投げ出されていた。

 足の先には通路があり、通路に上陸していた魔物たちがこちらを見ている。

 ……いや、リートが相手をしていた魔物は、毒魔法を受けたみたいでジタバタと悶えていた。

 当のリートは私の体にしがみついている様子で、私の服を握り締めている感触が伝わって来る。

 そして、私達の下には……地面では無く、マグマがあった。


 まぁ、簡単に言えば……私達は今、マグマの上に放り出されている。

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