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002 存在しない拒否権

 クラインさんに案内されて辿り着いたのは、十メートル以上はありそうな長いテーブルのある、どこか細長い感じの部屋だった。

 しかし、私達が召喚されてきた部屋に比べると、この部屋はかなり豪奢な造りになっている。

 床は大理石のようなもので出来ており、赤い絨毯が敷いてある。

 テーブルと椅子は木造だが、細かい模様のようなものが彫り込まれている。

 壁には絵画が多数飾られており、部屋の中を豪華に彩っていた。


「どうぞ、お好きな席にお座り下さい」


 言われて、私達は各々で手近な席に座る。

 私は近くにあった席に座りつつ、最上さんの動向が心配だった為、眼球だけを動かして気取られない程度に彼女を探した。

 ……彼女は、かなり前の方に座っていた。

 と言うのも、先程の転落のこともあってか山吹さんが気に掛けているらしく、自分の隣に座らせていたからだ。

 山吹さんはクラスの代表的な存在でもあるので、一番前に座ることになる。

 従って、必然的に最上さんも前の方に座るハメになったらしい。

 それに対し、私の隣は何と東雲だった。

 ……最悪。


 一人げんなりしていると、部屋の扉が開き、何人かの召使やメイドさんが入って来た。

 皆手にはお盆を持っており、そのお盆には木製のコップが乗っていた。

 クラインさんの指示で、私達の前に、一個ずつコップが置かれていく。

 なんとなく覗き込んで見てみると、中には純白の液体が入っていた。

 ふーむ……牛乳かな?

 もっとよく見ようと、コップを手に取るべく右手を伸ばしたところで、右手の薬指に指輪が付いているのを見つけた。


「……?」


 不思議に思い、私は右手を視線の高さまで持ち上げた。

 気が動転していて、今の今まで気が付かなかった。

 しばらく観察していると、無色透明の宝石が付いたそれが、この世界に来る前に見ていた指輪であることを知る。

 ……なんでこれが……。


「では、全員に飲み物が行き渡りましたね」


 指輪に気を取られていた時、そんな、聞き慣れない声がした。

 彼の言葉に、私はハッと顔を上げた。

 するとそこには、一人の男が立っていた。


「異界の民の皆様、お初にお目にかかります。私は、ギリスール王国の現国王、アンプルール・ロワ・ギリスールです。ここから先は、私が進行を務めさせて頂きます」


 そう言って、アンプルールと名乗った男は、自分の胸に手を当てて軽く会釈をした。

 年齢は……五十代くらいか?

 綺麗な金色の髪をしており、顔には多くの皺が深く刻まれている。

 しかし、髪と同じ金色の目は、とても優しいものだった。


 ……指輪について今すぐ聞こうかと思ったが、この空気の中で聞く程の度胸など私には無い。

 よく見れば、他の皆の指にも同じような指輪が付いている。

 多分説明があるだろうと思い、私は疑問の声を飲み込んだ。


「説明の前に……召喚魔法が成功し、こうして異界の民である皆様と我々がこうして出会えた今日という記念すべき日を祝して、乾杯の音頭を取らせて頂きます。さぁ、皆様コップをお取りになりまして……ご唱和をお願い致します。今後の皆様のご活躍と、本日この世界に訪れられた皆様と我々の友好を記念致しまして、乾杯!」


 そう言ってコップを掲げるアンプルールさんの言葉に、私達は疎らに「乾杯」と言いながら、ひとまず隣にいた人と軽く乾杯する。

 東雲とする際に、飲み物でも零して彼女の不興を買ったらどうしようと思ったが、無事終えることが出来た。


 ひとまず純白の飲み物を口に含んでみると、見た目にそぐわない、フルーティな感じの味がした。

 柑橘系と言うのか、甘酸っぱい感じの爽やかな味がする。

 口当たりが軽く、油断していたらすぐに完飲してしまいそうだったので、半分程飲んだところで口を離した。


「では、今から皆様を召喚した理由や、この世界についてなどを説明していきますね」


 そんな言葉を皮切りに、アンプルールさんは説明を開始する。

 私達はそれを、出されたジュースのようなものをチビチビと飲みながら耳を傾けた。


 まず、この世界は当然、私達の住んでいた世界とは異なる世界。

 四つの大陸で構成されており、私達がいる場所は、フォークマン大陸という場所にあるギリスールという国の城の中らしい。

 他にも地理について幾つか説明されたが、正直専門的な用語が多すぎて意味不明だったので、途中からは聞き流した。


 さて、そんな異世界では、三百年前に魔女がいたらしい。

 どうやらその魔女と言うのは、三百年前に禁忌を犯し、その代償として死ねない体……即ち、不老不死となった少女のことを言うそうだ。

 彼女の禁忌を知った当時の宮廷魔術師は、自分の持つ魔術の腕を存分に振るい、魔女を浄化しようとした。


 しかし、魔女の体に宿った禁忌の力はすさまじく、魔女の心臓を七分割することしか出来なかった。

 ひとまず、宮廷魔術師は分割された心臓を、それぞれ世界中の各地に散らばるようにして封印した。

 分割された心臓の内、一つは魔女の元に残った。

 しかし、心臓の七分の六を失った魔女の力はほとんど弱っていた。

 そこで、宮廷魔術師は魔女ごと残り一つの心臓を封印し、禁忌の存在を完全に隠蔽した……つもりだった。


 しかし、禁忌によって魔女の魔力は爆発的に上がっていた。

 その結果、各地に封印された心臓の魔力は、封印された地に影響を及ぼした。

 魔力は地形を変え、近辺に住んでいた動物を魔物に変え、世界各地にダンジョンを創り出した。


 このままでは心臓の魔力が世界に悪影響を及ぼすと考えた宮廷魔術師は、城の騎士を連れ立ち、心臓の破壊を試みた。

 しかし、心臓に込められた魔力が凄まじく、心臓の元に辿り着いても破壊することが出来なかった。


 宮廷魔術師は、一番まずい状況は、この心臓を魔女が再度回収することだと考えた。

 それだけは避けるべく、心臓に込められた魔力を使い、それぞれの心臓に守り人を置いた。

 守り人に心臓を守らせつつ、宮廷魔術師は、それからずっと魔女の心臓を破壊する方法を思案した。

 三百年もの期間、宮廷魔術師の代が変わっても、ずっとその研究は続いていた。


 この世界の人間では、どれだけ鍛えても心臓を破壊することは出来ない。

 しかも、年月が経つごとに……守り人ですら、自我を持ち始めた。

 最早、宮廷魔術師ですら制御出来なくなったため、その守り人も倒さなければいけなくなった。

 三百年もの期間研究した末に、異世界の人間であれば、この世界の人間よりも力が強いので心臓も破壊出来るということを知る。

 それを知った現宮廷魔術師クラインは、この世界と私達のいた世界を繋ぐ召喚魔法を開発し、今日私達を召喚したというわけだ。


 ちなみに私達が召喚された理由だが、これには色々な理由がある。

 まず、性別についてだが、どうやらクラインの召喚魔法では男を召喚することが出来ないらしい。

 そして召喚魔法に耐えられるのは、まだ成人していない、未成熟な肉体だったそうだ。

 未成熟な体でも極力成長していた方が良かった為、最適だったのが私達くらいの年齢……つまり、女子高生だった。

 後はあの世界の中で、特に女子高生が密集していた場所の中で、私達が一番戦闘力? のある人材だったらしい。

 ちなみに十二人しかいないのは、人数が多すぎるとそれぞれの行動を把握し切れなかったり、一人一人を育成出来なかったりするので、特に力のある者十二人に絞った結果だそうだ。


「……これが、この世界についてと、貴方達を召喚した理由です。というわけで、貴方達にはこれから、魔女の心臓を壊す為に戦って頂きます」

「ちょっ……ちょっと待って下さい!」


 バンッと机を強く叩き、山吹さんが立ち上がった。

 彼女は説明を終えたアンプルールさんを睨み、続けた。


「確かに、貴方達が私達を召喚した理由は分かりました。……でも、私達の意思はどうなるんですか!?」

「……と言うと?」

「私達には、帰りを待つ家族がいます!」


 ドクンッ……と、鼓動が一瞬強くなる。

 自分の胸に手を当てている間に、彼女は続けた。


「学生として勉強もしなければなりませんし……大体、私達は全員、ただの女子高校生です! 突然戦えと言われても無理です!」

「そう言われましても……もう召喚してしまいましたし」

「今すぐ、元いた世界に帰して下さい。私達には、戦いなんて無理です」

「それは出来ない相談ですねぇ」


 山吹さんの言葉に答えたのは、クラインさんだった。

 彼はゆっくりと前まで歩いて来て、続けた。


「異世界とこの世界を繋ぐ召喚魔法はとても大規模なものでして……そう軽率に何度も行えるものではないのですよ」

「……次に召喚魔法を行うのに、大体、どれくらいの期間が掛かるんですか?」

「今から用意して、寝る時間も惜しんで休まずに働いて、何も滞りも無く全ての事柄が問題無く行えたとして大体……半年、ですかね?」

「なッ……」


 クラインの言葉に、私達は全員、言葉を失った。

 ……早くて半年……だって……?

 日本での期間に例えれば、約六ヶ月。

 六ヶ月もの間……帰れない……?


「まぁ、流石に不眠不休で半年も準備して、ミスが無いはずがありません。確実に成功させようと思えば……まぁ、固く見積もって一年程度ですかね」

「ふッ……ふざけないで下さいッ!」

「ふざけないでよッ!」


 激昂する山吹さんに被せるように、東雲が立ち上がった。

 彼女は机を強く叩き、続けた。


「一年もこんな訳分からない世界で暮らせって言うの!? 頭おかしいんじゃないの!?」

「……私達は、何もしないタダ飯食らい十二人を養うつもりはありませんよ?」


 どこか平坦な声で言うクラインに、東雲は「は?」と聞き返す。

 すると、白いフードの下に、彼の口元が見えた。

 その口は怪しく弧を描き、ゆっくりと……開口する。


「私達は、魔女の心臓を破壊して欲しくて貴方達を召喚した。貴方達は、元いた世界に帰りたい。元いた世界に帰る為には、私達の力が必須。……後は分かりますね?」


 その言葉に、この場にいる全員は察しただろう。

 自分達には、拒否権など無いということを。

 故郷に帰る為には……戦うしかないということを。


「……貴方達の言いたいことは分かりました。ですが、先程も言った通り、私達はただの女子高生です。……急に戦えと言われましても……」


 尻すぼみな口調で言う山吹さんの言葉に、クラインは少し間を置いてから「あぁ」と言って、微笑む。


「それについては問題ありません。……場所を移動しましょう。そこで、皆様の戦い方について説明します」

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