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178 東雲理沙VS望月双子①

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 金色の岩で囲まれた広い通路に、パァンパァンッ! と乾いた破裂音が響き渡る。

 それを理沙は動体視力と反射神経で何とか躱すが、連続で放たれる銃弾を全て躱しきることなど出来る筈も無く、腕や足に銃撃が掠めて傷を負う。

 何とか急所への直撃だけは避けているが、小さな傷でも何度も受けていればダメージは蓄積し、彼女の体力を確実に削っていく。

 全身に走る鋭い痛みに顔を顰めた彼女は、倒れ込むように手近にあった岩の陰に転がり込んだ。


「ねぇ、東雲さん。……いい加減、降参したら?」


 岩陰に身を隠して荒い呼吸を繰り返す理沙に、真凛はそんな風に語り掛けながら二丁の拳銃を下ろし、ゆっくりと歩みを進めた。

 彼女の言葉に、疲労によって荒い呼吸を繰り返している理沙は答えることが出来ない。

 岩陰から聴こえる呼吸音に、真凛は小さく眉を顰めながら続けた。


「私達だって別に、東雲さんを殺したいわけでは無いんだよ。接点は無かったけど、一応はクラスメイトなんだし、さ」

「そうだよぉ。東雲さんだって、日本に帰りたいんでしょう? ダンジョンのこととかあって混乱してるのかもしれないけどさ、こんな時くらい協力するべきだって!」


 静かな声で言った真凛の言葉に続けるように、花鈴が言う。

 二人の言葉に、痛みと疲労で荒い呼吸を繰り返す理沙は、微かに片側の口角を釣り上げた。

 ──殺したいわけでは無い? クラスメイト? 協力?

 ──よく言うよ。少し前まで、本気で殺そうとしてた癖に。

 ズキンズキンと疼くような痛みを感じながら、彼女は小さく息を吐くように嘲笑した。


 この双子がそんな悠長なことを言えるのは、自分達が圧倒的に有利な状況だからだ。

 大口を叩いていた割に実際は大したこと無かったから、生きるか死ぬかの二択を選ばせてやろうなどという傲慢さが出たのだろう。

 もしこれで、理沙の戦闘力が自分達と互角以上であれば、きっとこの双子はクラスメイトだの協力だのと呑気なこと言わずに本気で殺しに掛かっていた。

 本人等にそんな考えがあるのか定かでは無いが、理沙は先程までの戦闘の中で、そんな確信にも似た仮説を抱いていた。


 ──ホント、この偽善者共は……日本にいた頃から変わらないな……。

 心の中で毒づきながら、理沙は隠れていた岩に手を当てて、ゆっくりと腰を上げる。

 双子の提案は、当然却下だ。

 こうなることは戦う前から分かっていたのだし、今更自分の選択を撤回するつもりは無い。

 何より……──


「<きゃははッ……>」


 掠れた笑い声を上げながら、理沙はフラフラと力無く立ち上がる。

 突然岩陰から姿を現した彼女に、双子は警戒した様子で二丁拳銃を構えた。

 それを見た理沙は口角を釣り上げるような笑みを浮かべると、軽く顎を出して双子を見下すような姿勢を取り、口を開いた。


「<──アンタ等に命救ってもらうくらいなら、死んだ方がマシだよ>」


 彼女はそう言って身に付けていた外套を引っ掴み、双子に向かって勢いよく脱ぎ捨てた。

 突然視界を覆われた双子は、驚きながらも拳銃の銃口から短刀を突き出して目の前の外套を切り裂く。

 しかし、そこにはすでに理沙はいなかった。


「なッ……」

「一体どこに……!?」

「はぁぁぁぁッ!」


 驚く双子の背後に忍び寄った理沙は、風魔法を纏わせた棍棒を掛け声と共に横薙ぎに振るい、少女の脇腹をぶん殴る。

 不意討ちを受けた双子はそれに対応しきれず、風魔法の効果も相まって吹き飛ばされ、岩で出来た壁に背中を打ち付ける。

 「カハッ……」と口から空気が漏れるが、理沙が追撃を加えようと棍棒を振るってくる為、何とか体を捻る形で躱した。

 理沙が振るった棍棒は壁を抉り、粉々に砕けた岩の破片が双子の足元まで転がってくる。

 それを見た双子は頬に冷や汗を浮かべ、理沙の顔を見つめた。


「もしかして……本気で私達のこと、殺すつもり?」

「<それは、お互い様……でしょ?>」


 頬を引きつらせながら問い掛ける花鈴の言葉に、理沙は平然とした態度で答えながら左腕のみで器用に棍棒を振るい、双子の方に向き直る。

 ──殺したい……けど、やっぱり戦力差がありすぎる。

 ──今みたいな不意討ち攻撃なら可能性はあるけど……さっきのを躱されたとなると、流石に厳しいかな。

 静かに思考を巡らせながら、彼女は棍棒を構え直し、小さく息を吐いた。


 絶望的な状況ではあるが……──完全に死ぬと決まった訳では無い。

 単純な話だ。こんなにも強大な力が、何の代償も制限も無く使える筈が無いのだ。

 この双子の場合、どのような原理かは定かでは無いが、二人の人間を合体させることでこの能力を引き出しているようなもの。

 少なからず双子の体に負担が掛かることは明白で、この状態を維持できる時間にも限りはある筈だ。


 殺せなくて良い。勝てなくても良い。

 ただ、二人の能力の限界が来るまで、時間稼ぎをすれば良いだけのこと。

 そこまで考えた理沙の脳裏に、不意に、アランとミルノの姿が蘇った。

 ──……最悪、ここで死んでも……あの子達が光の心臓を回収するまでの時間を稼げれば……。


『……いき……て……』


 弱気になった彼女の思考を遮るように、脳裏に過去の情景がフラッシュバックする。

 その瞬間、彼女はその目を大きく見開き、すぐさま地面を強く踏みしめた。


「聖なる風よ。我に疾風の如き俊敏さを与える為、今我に加護を与えてくれ給え。シュネルフース」


 彼女は小さな声で素早く詠唱を唱えると、風を纏った両足で地面を強く蹴り、一気に双子の元へと距離を詰めた。

 ──正面……!?

 先程のような奇を衒った攻撃を予想していた双子は、凄まじい速度で繰り出される正面突破に驚きながらも、すぐさま短刀を出したままの二丁拳銃を振るう。

 しかし理沙はそれを棍棒で弾き、その勢いのまま棍棒を地面に突き立てて棒高跳びのように跳躍した。


「なッ……!?」

「<はぁぁあッ!>」


 彼女はそのまま空中で体を捻り、双子に向かって回し蹴りを放った。

 双子は咄嗟に右腕を盾にする形でその攻撃を防ぎ、左手に持った拳銃の短刀を振るい応戦する。

 空中に身を投げる形になっていた理沙にそれを躱す術は無く、蹴りを放った右足に斬撃を喰らった。


「<ぐぅ……ッ!?>」


 彼女は痛みに顔を顰めながらも何とか地面に着地し、すぐさまバックステップで距離を取った。

 しかし、先程の攻撃でかなり深い傷を負ってしまったようで、足を地面に着けるだけで太腿の辺りに激痛が走った。

 ただでさえ片腕が無い状態の彼女にとって、右足を庇いながら移動するというのは不可能に近い。

 結果として彼女はすぐに体勢を崩し、転倒して地面に体を打ち付けた。


「<ぐッ……クソッ……>」


 彼女は小さく声を漏らしながら体を起こし、すぐに右足の状態を確認した。

 そして、彼女はすぐに顔を顰めた。

 右足の太腿は、膝のすぐ上辺りから足の付け根に掛けて一筋の深い傷が入っており、赤黒い液体がドクドクととめどなく溢れ出していた。

 ──早く回復しなくちゃ……ッ!

 彼女はすぐに回復魔法の詠唱を唱えようとしたが、そこですぐにハッと顔を上げ、左足で地面を強く蹴って後方に跳んだ。

 直後、数瞬前まで彼女がいた場所に向かって、双子が容赦なく銃剣を振るった。


「<きゃははッ……! 手加減無しかよッ!?>」

「私達に救われるくらいならッ、死んだ方がマシって言ったのはッ、そっちの方でしょうッ!?」


 頬を引きつらせて甲高い声を上げる理沙に対し、花鈴はそんな風に声を張り上げながら、連続で二丁拳銃の短刀を振るい続ける。

 理沙はそれを左手に持った棍棒で軽くいなして掠り傷に留めつつ、小さく舌打ちをした。

 ──やばッ、これッ……流石に無理ッ……!

 ──せめて、足の傷だけでも回復しなくちゃ……ッ!

 必死に思考を巡らせながら双子の攻撃をいなしていた時、カァンッ! と甲高い音を上げて、彼女の手から棍棒が離れた。


「<しまッ……!?>」


 唯一の得物を手放した理沙は動揺を隠せず、地面に転がった棍棒を拾おうと手を伸ばした。

 その際に右足に体重を掛けてしまい、熱を帯びた激痛が全身を走り抜けた。


「<がぁッ……!>」


 小さく声を漏らしながら、彼女はバランスを崩す。

 それでも転倒だけはするまいと、左足を強く踏ん張ることで何とか持ち堪えた時だった。


 彼女の脇腹に、双子の拳銃の短刀が深く突き刺さったのは。


「<……は……?>」


 一瞬。理沙は自分の状況が理解できず、呆けた声を漏らした。

 直後、腰から下に力が入らなくなり、彼女は崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここで「リン」じゃなくて「理沙」になってるの、なんかよく分からないけどキます。 日本帰還に協力してくれない生徒、思えばこころに次いで二人目ですかね。 外套を投げて視界を覆う戦闘テクかっこいい…
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