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5.不思議な生き物

 厨房は普通、王族が出入りするような場所ではありません。

 私はよくここの前を通りますが、お姉様方はこの前を通ることすらないですし、基本的に使用人以外は立ち入らない廊下になっています。


(入る場所でないのは分かっていますが……)


 ただ事でない大きな物音をなかったことにして、通り過ぎることは出来ませんでした。

 私は香澄と二人、厨房の中をのぞき込みます。

 広い厨房の中では、5~6人の料理人が大きな包丁やレードルを持ってバタバタと忙しなく走り回っていました。


「追い詰めたぞ! 網! 網でもいい! 誰か持ってこい!」

「そっちから回れ! 逃がすな!」


 厨房の隅に陣取った料理人達が叫びます。

 何事でしょう? おそるおそる私達も厨房の中へ入ると、料理人達の後ろから壁際をのぞき込みました。


 そこにいたのは、見たことのない生き物でした。

 猫ほどもある大きな鳥のようでしたが、翼には羽毛が生えていません。

 屍肉をついばむ首の長い猛禽類を図鑑で見たことがありますが、あれにやたら大きいコウモリの羽がついているような見た目です。

 全身は真っ黒で、(くちばし)は太く長く、金色に光る目玉は、追い詰められたせいか怒りに燃えていました。


「なんなんだコイツは?」

「城の外にいる異形の化け物か、噂のナイトフライトの手先じゃないか?」

「ナイトフライト?」


 料理人の言葉に思わずそう聞き返してしまったら、皆がこちらを向いて「月穂様、どうしてこのようなところに……」と困った顔をされてしまいました。


「この生き物は、何です? どうかしたのですか?」


 重ねて尋ねる私に、料理人達は向こうで開けたままになっている窓を指さしました。


「窓から飛び込んできたんですよ。果物のカゴに突っ込みまして、逃げようとするもんだから今取り押さえて、始末するところです」


 片手に包丁を握った料理人が、そう意気込みます。

 始末……まさかその包丁で??


 ふと、不思議な生き物の足下に転がった赤いレッドシスコに目が留まりました。

 レッドシスコは野菜ですが、果物のような甘酸っぱい香りのする食材です。

 まさか、とは思いますが……これが食べたかったのでしょうか?


「さ、離れていてください、姫様」

「そうです月穂様はあちらに。こんな汚い生き物の血は見なくてよろしいですよ」

「ま、待って……」


 追い出されそうになって、私は首を横に振ると立ち止まりました。


「その子、もしかしてお腹が空いているのではないの?」


 料理人達は一瞬きょとんとした後、首をひねります。


「さあ……どうでしょうね。とにかくお早く……」

「殺してしまうつもりなの?」

「こんな気味の悪いヤツをまた外に放しても、いいことなんてありませんから」

「でも」


 隅に縮こまって料理人達を睨んでいる生き物が、かわいそうに思えました。

 よってたかって、いじめているように見えたのです。そういうのは好きではありません。


「ねえ、お腹が空いているだけなのよね? だからここに飛び込んできてしまったのでしょう?」


 そう話しかけると、温度の見えない金色の目が少し細められました。

 これがどんな生き物かは分かりませんでしたが、特に何もしていないのに殺してしまうなんて、私には良しと思えませんでした。


「逃がしてあげましょうよ。ね、誰かに襲いかかったとか、何かした訳ではないのでしょう?」

「それは、まあ……」

「でも月穂様、そいつナイトフライトの手先かもしれないですよ」

「ナイトフライト……とは、何のことなの?」

「ご存じありませんか? 町で噂の、恐ろしい呪師ですよ。北から渡ってきたらしくって、あちこちに強力な呪いを売り歩いているそうです。なんでも、コウモリみたいな、鳥みたいな生き物を飼っているとか」


 呪師。呪いで生計を立てている人のことですね。

 それは確かにちょっと怖いというか、関わり合いになりたくない方です。


「で、でももしそのナイトフライトの手先と言うなら、なおさら、この子を殺してしまったら恨みに思われるのでないかしら?」


 私がそう言うと、料理人達は顔色を変えて、構えていた包丁を下ろしました。


「呪われたら嫌だな」

「ああ、確かに」


 逃がしてもいい、という雰囲気になったところで、私はホッとして近くの窓に歩み寄りました。

 バタン、と両開きの窓を全開にして、不思議な生き物を振り返ります。


「もう出て行っても大丈夫よ。その足下のレッドシスコも、持って行くといいわ」


 私がそう声をかけると、生き物は言われた通りにレッドシスコを足で鷲掴みにしました。

 続いて、コウモリの羽を大きく広げて、床に沈み込みます。跳び上がった、と思ったら、開けた窓から外へと、矢のように飛び出していきました。

 バサバサ羽を動かしながら、どんどん遠くに遠ざかっていきます。

 城壁を越えたあたりで、その姿は見えなくなりました。


「気味の悪いヤツだったな……」

「本当に腹が減ってただけなのか?」

「月穂様はお優しいから……」


 料理人達は口々にそんなことを言いながら、持ち場に戻っていきます。

 香澄が「お部屋に戻りましょう」と声をかけてきたので、私もそのまま厨房を後にしました。


「何だったのでしょうね……鳥の顔で、コウモリみたいな羽で……不気味ですわ」


 香澄の言葉に頷きます。本当に不思議な生き物でした。

 突然のことに驚きはしましたが、それでも命を奪うようなことにならなくて良かったです。

 そう思いながら、私は自室に戻りました。


いきなり現れた変な生き物。

イメージは真っ黒いハゲコウ(コウモリ羽)ですかねー。

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