41.エピローグ前閑話(蒼嵐視点)
僕が何よりも大切にしてきたもの。それは紛れもなく妹だ。
妹が生まれた時に何と引き替えにしても守り、幸せにしようと誓った。
僕の思考の根本には妹があると言っても過言ではない。
妹は可愛い。
妹は尊い。
でもじゃあ、妹以外に大切なものはないのかと問われれば……
「意外と、たくさんある気がするな」
「何か仰いましたか? 陛下」
左大臣の仁徳が書類仕事の手を止めて、執務机の向こうから顔をあげた。
「僕の存在意義についての話だよ」
「飛那姫様のお話ですね」
「主軸以外についてだよ」
「……と、申しますと?」
「大切なものは、増えるよねってこと」
僕がそう言うと、仁徳は「ああ」と納得した表情になった。
「なるほど、論旨を理解しました。正妃についてのお話ですね」
「その通り、と言いたいところだけれど正妃の二文字を可愛い花嫁、もしくは生涯の伴侶に訂正希望」
「陛下におかれましては同一の意味合いかと拝察しますが」
「違うんだよねぇ、ニュアンスのところで大きく違う」
「というより、主軸以外の些細なことについて、誇大広告的な言葉は必要ないのでは?」
「些細なこと……?」
その言葉が引っかかって、僕は腕を組んだ。
飛那姫が主軸だとすると、月穂姫は些細なことの分類に入るのだろうか……?
(いや、そうじゃないな)
それはもう絶対に違うと断言出来る。自分でも意外なほどに。
「枝葉末節の話をしているわけじゃないんだ。それは僕の感覚にそぐわない。これは近い未来に主軸が2つになるってこともあり得るのかもしれない」
「……興味深いお話ですね」
「そういうセリフはもうちょっと気持ちをこめて言ってくれないかなぁ」
無表情で相づちを打つ仁徳に、僕は苦い顔で答えた。
「陛下が正妃を迎えるとご自分から仰ってくださったのは、実に喜ばしいことですよ。リストにも載っていない小国末席の第四王女、しかも多大な魔力と特殊能力持ちなどというカードを提示された時には、陛下らしい新機軸の嫌がらせかと本気で疑いましたが」
「……その解釈には僕に対する悪意が含まれてるよね?」
「滅相もございません。我が忠義をお疑いになられるとは、心外です」
「いや、単純に僕が仁徳を性悪だなぁと思うだけの話だけれど」
「お褒めにあずかり恐悦至極に存じます」
「どこら辺を褒めたのか、説明が必要かな……」
努めて慇懃な口調ではあるけれど、仕事の出来る左大臣にこれ以上この話題を振るのは止めようと思った。色々仕事を押し付けてきたから不満が溜まっているのだろう。墓穴を掘りそうだ。
「振り回されたことへの恨み言なら勘弁してね。そこにたどり着くまでの経緯はともかくとして、ちゃんと期待には応えたつもりなんだから」
「ええ、よく分かっておりますので全く恨みになど思っておりません。本質的に暴君でらっしゃいますからね、我が主は」
あまりにも正当性に満ちたコメントに、僕は返す言葉もなかった。
オマケ回でした。
続けてエピローグです。少々お待ちください。




