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19.混乱の復国祭

 何が起こったのか、咄嗟に理解出来ませんでした。

 雷? 雷が落ちてきたのでしょうか?


 あれだけ感動の渦に包まれていた会場が一転して、通り過ぎていく地鳴りと悲鳴のような声に埋め尽くされていきます。

 お兄様が腰を浮かせて、私の腕を引きました。


「すごい衝撃波だった……月穂! 私の側を離れるんじゃないぞ!」


 席を立とうとする人、逆にかがみ込む人、もうちょっとしたパニックです。

 私はお兄様の腕にすがりつくと、舞台の上に視線を戻しました。

 飛那姫様は……飛那姫様は、大丈夫だったのでしょうか?


 舞台の上には、飛那姫様ともう1人。今までいなかったはずの子供の姿がありました。

 この場に不似合いな、低い身分の装束をまとった、10歳くらいの少年。

 その手には、黒い剣が握られていました。


 その剣を見た瞬間、ぞくりとしたものが背中を駆け上がっていきました。

 飛那姫様の持つ聖剣とは違う、おぞましい魔力が感じ取れます。子供の形をしていても、あれは恐ろしい何かなのだということが本能的に分かりました。


(……?)


 飛那姫様と黒い剣を握った少年は、何か話しているようでした。

 向こうのバルコニーに見える蒼嵐様は、立ち上がってやはり飛那姫様を見ています。

 遠目からでも焦りを帯びた表情なのが分かって、私まで心拍数が上がってきました。


 視界が少し滲んだように見えるのは、私を含めた会場の客席に、大規模な魔力の盾が展開されているからでしょう。

 先ほどの雷のような衝撃が客席にまで及ばなかったのは、この盾があったからなのですね。


「月穂、敵襲かもしれない。すぐに紗里真の騎士が動くだろうが、後ろに下がるぞ」

「はっ……はい!」


 敵襲?

 こんなイベントの最中に?


 人垣の向こうからは剣で斬り合うような音が聞こえてきました。

 背の低い私は立ち上がったたくさんの人に囲まれて、もう舞台の上を見ることが出来ません。

 お兄様に手を引かれて席を離れると、お父様と一緒に騎士の誘導に従って後ろに下がります。


 どこかで悲鳴のような声や、騎士達の走る音が聞こえてきました。

 何が、起こっているのでしょう。


「この盾の中にいれば安全だろうが……舞台の方から凄まじい剣気を2つ感じる。戦闘が始まっているようだ。一体何の騒ぎなんだこれは?」


 お兄様が人混みから私をかばうように、そう言いました。


「祐箔、反対側の、城側の客席に展開されている盾が見えるか?」

「はい、父上。こちら側にも別の盾が展開されているようですが……」

「あれはおそらく、蒼嵐様が直々に行使したものと拝察するが、お前にはどう見える?」


 お父様の言葉に、お兄様は頷いて返しました。


「私にも、そのように見えます。なんと大規模な……」

「大規模で、強固だ。東の賢者は知識だけでなく、魔力も桁違いだったということか……これでもう、蒼嵐様が紗里真の王族でないなどと言う者は、いなくなるだろうな」


 幅100メートルはありそうな客席の範囲が、たった一人の力で守られているのが私にも分かりました。蒼嵐様は、なんてすごいお方なのでしょう……


 その場に留まっていたのは大した時間ではなかったように思います。

 状況が把握できないうちに、向こうの方で騎士達が「逃げた」「追え」など、口々に叫び始めました。


「追うな!!」


 そんな中、ビリビリと空気を震わすような声が、大音量で響き渡りました。

 魔力を乗せた、鋭い女性の声。

 それは直接心に訴えかける、絶対的な命令でした。


(え……? 今のは……)


 私以外の人が、声に魔力を乗せるのを初めて聞きました。

 有無を言わさない頂点からの一声に、騎士達が一斉に動きを止めたのが分かりました。

 たった一言で……すごい強制力です。


『……会場でご観覧中の皆様』


 ぼわーん、という響きをもって、近くにあった四角い箱から声が流れてきます。

 城の中で度々流れている「城内放送」の声でした。


『予期しないトラブルのため、場が乱れましたことをお詫び申し上げます……復国祭のプログラムはすべて終了しているため、この後に予定しておりました閉会のセレモニーは割愛いたしまして、ここで閉会とさせていただきます。会場内の騎士と専属の執事が順次ご案内いたしますので、今よりすみやかにお部屋へお戻りください。後ほど各お部屋へご説明に伺いたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます……』


 そこまでは女性の声だったのが、男性の声に変わりました。

 蒼嵐様です。


『最後の予定だけ少々狂いましたが、紗里真復国の儀、つつがなく執り行いました。各国からご参加くださった皆様に、心から感謝の意を。紗里真国王、蒼嵐の名をもって、復国祭の閉会を宣言します』


 閉会のセレモニーは済んでいませんでしたが、この状況です。このまま部屋に戻って欲しいということなのでしょう。

 敵はどうやら逃走したようでした。

 会場はざわざわとしながらも、騎士達の誘導に従って冷静さを取り戻していきます。


 私達も、人波の中を進んで城の客室に戻りました。

 戻りながら、私は先ほどの「追うな」という声を思い出していました。


(あの声は、誰だったのでしょう……)


 私の様に魔力を声に変換できる、特異な能力を持つ方。

 あんな風に声を使う人がいるだなんて……


 私は突然のトラブルよりも、そちらの方が気になって仕方ありませんでした。


今回は短かったですね……文字数の調整むつかし。

復国祭の背景は色々ありますが、本作ではその辺には触れず流します。一応、恋愛メイン(のはず)なので。もうちょいしたらシスコンにも喋らせます。


次話「ガーデンパーティー」。明日更新予定です。

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