第拾参話 伍
木の間で準備の続きをしていると、僚君の事が気になって、手に付かなくなってしまう。僚君を水の間に運んで三十分後、シキが木の間に来てくれた。
『今日はもう帰りなさい。外はもう暗い』
「僚は、泊まるんだろ? 着替えとか必要だよな」
『呪詛祓いには、一晩以上かかりますからね。本日、僚のお父上は出張ですか?』
「先月からイギリスらしい。帰ってくるのは来月末みたいだ」
シキの云う通り辺りはもう真っ暗。それに、帰らないと心配される時間。
「響希君。今日はもう帰ろう」
「わかってる。でも、僚がこんな事になっているんだ。シキ。帰って、着替えとか持ってくる」
『わかりました。必ず、黒牙とともに来てください』
荷物をまとめて、響希君、黒牙、白牙とともに紅蓮荘を出る。
「じゃあね。斑牙。僚君の側に居てあげてね」
『はい。響希殿も、華鈴殿もお気を付けて』
***
真っ暗で足元が見えない。幾度となく転びそうになってしまう。
響希君も時々、躓きそうになっているようだ。
「大丈夫か?」
「うん。平気だよ。ありがとう」
「ちょっと待ってろ。スマホのライトで……」
響希君のスマホのライトで照らされた遊歩道は、いつもと同じはずなのに、なんだか今日は違う気がする。
「この時期になると、いつも僚が、懐中電灯を持ってくるんだ」
「心配だよね。まさか、呪いを受けるなんて」
「何で、僚ばかりが、不幸な目に遭わなきゃいけないんだ」
「僚君、二回目だよね。厄神の呪いを受けたのは」
「ああ。それもそうなんだ」
「他に何かあるの?」
響希君は、ゆっくりと口を開き、僚君の事を話してくれた。
「僚とは家が近くて、同じように妖を視ることが出来て。いっつも遊んでた。保育園の年長の時に、僚の母親が家を出ていって。父親は海外出張が多くて、日本に居ることなんて、ほとんどないんだ」
「僚君、帰ったら独りになるんだね」
「小学生まではお祖父さんの家に行ってたけど、中学生になってからは、あまり行かなくなった。アニメとかゲームとか、趣味に没頭したいらしい」
そろそろ出口のようで、車のヘッドライトの灯りが見える。
「ここまでしか送れないけど、気を付けて帰れよ。白牙がいるから、大丈夫だと思うけど」
「うん。響希君も気を付けてね」
「ああ。僚の着替え、持って来なきゃだしな」
「鍵、掛かってるんじゃない?」
「僚の父親から、『僚に何かあったら、その時は頼む』って、お願いされてて。鍵、預かってるんだ」
「そうだったの。それじゃ、また明日」
森を抜け、白牙とともに家路に着く。
僚君が心配だけど、シキがいるから大丈夫だろう。




